2004小松基地航空祭

2004.09.19


      と言う訳で、小松基地航空祭に行ってまいりました。6月の体験航海に続き、初めての航空祭であります。
      前夜のJR大阪駅11番線には航空祭目当てらしき乗客が、自由席の列を作っています。皆一様に明日の天候を心配して
     いる模様。明日の石川県は雨のち晴れ、午前中の降水確率は70%で、あまり良くないと言うかはっきり言って悪いコンディ
     ションです。一時は参加見送りも検討しましたが、初めての航空祭ですしあまり欲張らず、来年に向けてのデータ集め程度
     の気持ちで行ってみましょう。

      2330発の急行きたぐにの自由席は、入線と同時にほぼ満席。小松着は0330なので少しでも寝ておきたい所ですが、初
     参加の高揚感と暑苦しい車内温度のせいでどうにも寝つけず。斜め前の席で若い女の子がぼかーっと口をあけて熟睡
     ているのが羨ましい…。何かに似てるなあと思ったら、F-2のフロントフェイスでした。
      小松駅に近づくにつれて雨が降り始め、結局眠れないままに0300小松駅着。改札を抜けると、所在無く佇む航空祭目あ
     ての人たちが20人ほど。
あれ?思ったより少ないなあ。天気予報を見て今年はキャンセルした人が多かったのでしょうか。
     外は結構強く降っています…。

      さてここから4時間、どうやって過ごそう。休憩室はおろかベンチ一つないぞ…と思っていたら、駅員さんの好意で閉鎖し
     ていた待合室を解放してくれるとの事。駅員さんGJ!ここで朝を待つとしましょう。
      とりあえず待合室に荷物を置いて外に出てみますが、やっぱり雨。祈るような思いで空を見上げます。
      待合室に戻ると、何人かのマニアっぽい人たちが情報交換を兼ねて集まって話をしています。それとなく聞き耳を立てて
     みますが、航空機やカメラに関するマニア度の高い濃い話で、半分どころか殆ど何を言っているのか分かりません。航空
     祭は初めてだしカメラもチャチな私としては、何だか隅っこでじっとしていたい気分であります。

      0400、体を動かしたくなって待合室を出ると、おお!雨が止んでいる!暗い空は雲で覆われていますが、これは朝までに
     何とかなってくれるのでは?
      0500、またしても雨が。航空祭開始まで、あと3時間…。
      0530、雨は止み、低い所に雲が垂れこめてはいますが空は明るくなっています。アイスクリームを齧りながら空を見上げ
     て唸っていると、待合室で夜明かししていた人達も様子を見に出て来ました。
      「これ位ならやれるよ」
      「雲が低いから微妙だなあ」
      「また崩れるようならタキシングだけかも…」
      「前線は早めに通過しそうだって言ってるけど」

      ああ、ここまで来たんだから、頼むから晴れてくれ…。そんな気持ちが通じたのか、雲は見る見る薄くなり、切れ目からは
     きれいな青空が覗いてきました。おお、行けるんでは?
      この頃になると駅構内には続々と人が集まり始め、私もシャトルバスを待たずにタクシーで小松基地正門へ向かいます。
     なにも無い田舎道をしばらく走ると、すぐに辺りの静寂を切り裂くような甲高いエンジン音が聞こえてきて、延々と続く基地の
     フェンスの向こうにはF-15の垂直尾翼がはみ出しているのが見えます。おおお、来た来た!

      小松基地正門前には、既に200人近い人たちが集まっていました。いやしかし、色んな人が居るなあ。カメラ機材を抱え
     た航空ファン、老婆、何故かモヒカン、幼稚園児、上下迷彩服に編上靴で決めている人までいて、警務隊の隊員さんと間
     違いそうになります。

      ちなみにこの頃には空はすっかり晴れ上がり、見事な航空祭日和。薄雲が遥か上空をゆっくりと流れていて、とても気分
     の良い秋の朝です。ほんの2時間前まで気をもんでいたアレは一体何だったのでしょうか。集まっている人たちも一様にホッ
     とした様子で、
      「降水確率70%ってのはどうなったんだよ!」
      と嬉しそうに怒っている人もいました。
      隊員さんから貰ったパンフレットを眺めている間にも、後方からは続々と人たちが詰めかけていて、中には手際良く持ち
     込んだ折り畳みイスで休んでいる人もいます。今年は初参加で勝手が分からないので、こういう『なるほど』を沢山持ち帰っ
     て来年に備えねば。


      0800の開門まであと1時間15分。まだまだだなあと思っていると、15分後の0700を持って開門しますとのアナウンスが。あ
     ちこちから「あれ?0800じゃなかったっけ?」という声が上がりますが、どうやら基地周辺の大渋滞を解消するために開門
     を繰り上げたようです。
      そして0700開門。「走らないでください!危険です!」との警務の隊員さんの注意もむなしく、怒涛の様な開門ダッシュ。私
     も巻き込まれて思わず全力疾走です。最初の右折は鋭くインを突き、次の左折は思い切って路肩をショートカット。これで
     6人は抜きましたが、久々の全力疾走であっという間にバテバテに(笑)。エプロンを遥か前にしてフラフラになると言うのは
     かなり情けないなあ。よく見ると周囲には、体力が続かず同じようにリタイアしている人たちが何人もいます。君たち、だらし
     ないぞ(笑)!しかし、大きなカメラバッグと三脚を抱えたオジサンに抜かれてしまうとは屈辱だなあ。
      そしてほうほうの体でエプロンに到着すると、周囲にはF-15!F-15!F-15!もう一度言ってみよう!F-15!
      しかしこれ、全部本物なのか!?と、逆上気味に歩き回ります。うーん、本当にでかいなあ。こんなもんが音速ですっ飛
     んで行くとは…。あ、あれは空自50周年特別塗装機。真っ赤なイーグルと言うのも凄いインパクトです。
      ほー、飛行教導隊の機体も展示されています。秋の山々の紅葉の様な塗装が目を引きますが、もしかしたら秋季限定の
     ロービジ仕様なのかもしれません。
      他にもF-4、T-4、F-2、P-3Cなど写真でしか知らない機体が沢山で、もうどれから見て回ればいいのか分からずアワアワ
     です。航空祭は始まったばかりなんだから、ゆっくり端から見て行けばいいじゃないか。ちょっと落ち着け、俺。ハアハア、
     了解、俺。

      オープニングフライトまではまだ40分あります。まだそれほどの人混みでもないし、まずは真っ先に行列が出来そうな展
     示から見て行こう…と言う事で、F-15のコックピット公開に向かいます。

      隊員さんにコックピット公開のパンフレットとステッカーを貰い、タラップを上がります。しかし間近で見るF-15は本当に大
     きいなあ。幸い私の後ろには誰も並んでいなかったので、コックピットの隅々までじっくりと覗かせて頂きました。やっぱり
     アナログ計器のコックピットはカッコイイ。

      その後は売店巡りです。戦競のパッチを購入してホクホク顔で歩いていると 、エアロックのブースが目に入りました。中
     でファンと握手している濃紺のツナギにバンダナ、サングラス姿の 笑顔の男は、ご存じロック岩崎さんです!うわあ、本物
     だ。
      初めて目の前にしたロック岩崎さんは、朝早い時間なのに何だか精気が迸るようで、握手が凄く力強かったです。ブース
     で買った赤いキャップにサインして頂きました。これは宝物だなあ。

      何を言っていいのか分からなかったので、取り敢えず
      「天気は大丈夫みたいですね、がんばってください!」と伝えると、
      「ありがとう!!」
      と再び力強い握手。うーん、想像の中のロック岩崎さんと100%同じだったので、何だか無性に嬉しくなってしまいます。

      そしていよいよ航空祭開始。まずはオープニングフライトです。T-4が2機のF-15を従えて、基地上空をローパス。くっきり
     と蒼く晴れ上がった秋空をバックに、見事な異機種編隊飛行。全身を震わせる衝撃波をエプロンに叩きつけるようにして、
     あっという間に上空はるか彼方まで上昇していきます。
      今度は4機編隊のF-15による機動飛行。エプロン上空に低高度で進入し、ベイパーを引きながら次々にブレイク。その度
     にまるで割れ鐘を叩きつけるような排気音が襲いかかってきます。
      さらに特別記念塗装機もやってきて、ローパスの瞬間にガバッと機体を翻して、背中の派手なペイントを見せつけながら
     すっ飛んでいきます。エプロンを埋め尽くした観客からは、大きな歓声が上がります。
      とにかく、カッコイイ、力強い、美しい。いやあここまで来て良かった。凄いなあ。

      エプロンのあちこちでカメラのシャッター音が鳴っていますが、しかし皆すごいカメラとレンズです。まるで羽賀研二みたい
     な(見たこと無いけど)望遠レンズ
を振り回し、上空のF-15を追いかけています。
      それまで上空狭しと暴れ回っていたF-15が急に見えなくなったと思ったら、会場左手より20機近い大編隊でやってきま
     した。うーん、小松らしいなあ。しかし、なんか妙な形の編隊飛行だなあ…。その時誰かが、
      「あ、50の形してる!」
      と言ったのを聞いてようやく気付きました。空自創設50周年に合わせての編隊飛行でした。一糸乱れずきっちりと上空に
     『50』を描き、大歓声を受けながらF-15の大編隊は基地上空をバスして行きました。

      大変な盛り上がりの中、強烈な機動飛行を見せたF-15の大編隊が、1機ずつ上空をブレイクしながら着陸態勢に入りま
     す。そのたびにアナウンスがパイロットの名前と階級、出身地やタックネームを紹介しますが、だだっ広いエプロンに幾つ
     もあるスピーカーの音速差のせいで良く聞こえないタックネームもありました。中に「タックネーム、ショッカー!」と聞こえた
     のがあったのですが、やっぱり「Roger」でなく「イーッ!」なんでしょうか。

      続いてF-2による対地攻撃訓練の展示。大迫力のF-15とは一味違う、ひらりひらりとした軽快な機動でF-2が上空を飛び
     回ります。圧巻は低空での超低速度進入でした。今にも失速して墜落するのでは…という位のスピードでゆっくりとランウェ
     イ上空を通過する様子は、何と言うか、正直ちょっと気持ち悪かったです。アナウンスでは時速250q位との事でしたが、感
     覚的には150q/h位に見えました。うーん、F-2、侮れない奴…。
      さて、次はいよいよエアロックです。先ほどから目の前で2機のピッツが待ち構えていて、そこにロック(以下敬称略)とサニ
     ーが登場。大歓声に見送られながらコックピットへ向かいます。

      シートのハーネスを確認したロックは、メカニックと言葉を交わした後キャノピークローズ。メカニックがピッツのプロペラを
     回転させてエンジンスタート。先ほどまでのジェットエンジンとは一味違うエンジン音が、バババババと空気を震わせます。
     そしてロック、サニー、メカニックが一斉にサムアップ。おおお、カッコいいなあ。
      2機のピッツはスルスルとランウェイを進み、機体の軽さを感じさせる鮮やかなテイクオフ。先ほどまでのF-15に比べれば
     何とものほほんとした雰囲気ですが、そこから先がとんでもありませんでした。

      大空にキレイなハートマークを描いたり、一気に上昇したと思ったら機体を回転させながらの急降下、はたまた機首を真
     上に向けた状態でヘリコプターのように空中で静止したり。こんな機動が航空機に可能だったのかと仰天するばかり。
      私が初心者だから衝撃的なのかとも思いましたが、演目を披露する度にエプロンから上がる悲鳴と歓声を見る限り、あ
     ながちそうでもなさそうです。凄い!桁外れに凄い!
      もっとも 歓声が大きかったのは、2機のピッツが左右から急接近し、正面衝突寸前で同時にロールを打ってすれ違う、と
     いう離れ業でした。しかしこの人達、一体どんなレベルの信頼関係があってこんな真似ができるんでしょう。
      大空へのロマン、仲間、信頼…これほどまでに臭い言葉が、全く何の嫌みも無く似合う男たちを見たのは初めてです。そ
     して、普段の我が身を振り返るにつれて、何だか猛烈に恥ずかしくなってきたのは何故だろう…(泣)。

      あっと言う間の40分が過ぎ、2機のピッツは堂々の着陸です。エプロン前まで戻って来たピッツを、ひときわ大きくなった歓
     声が迎えます。ここで『北国フォトクイーン』の2人の女性が花束を持ってロックとサニーを迎えますが、観客席からは
      「邪魔だー!前に立つなー!」
      との心ない声が(泣)。女王様なのにこの扱いはさぞ屈辱的だった事でしょうが、今日は仕方ないなあ。

      その後は2人と握手しようとロープ際まで押し寄せた観客たちにもみくちゃにされてしまいました。先ほどまで私の隣にい
     たタチの悪そうな風体のチーマーもどき2人が、まるで憧れのヒーローに出会えた少年のように瞳を輝かせてサニーと握手
     していたのが何とも印象深かったです。
いやあ、見ているだけでこちらが熱くなるアクロでした。

      先ほどまでのアクロを見せつけられて感動した人たちがエアロックのブースの前に長蛇の列を成していました。私もピッツ
     のプラモデルを二つ買いました。一つは作って楽しんで、もう一つは外箱に2人のサインを書いてもらって宝物にしよう。
      すぐにロックとサニーがやってきて、大きな拍手の中握手&サイン会が始まりました。ついさっきまであれだけハードな
     アクロをこなしたばかりだと言うのに、笑顔を絶やさず延々とファンサービス。いやはや凄いプロ根性です。

      その後は格納庫内に展示してあるF-15を見に行きました。一角ではリフトされたF-15が、フラップやらエアブレーキ、主
     脚や前脚をぐいんぐいんと気前よく動かしています。思ったよりもずっと静かで滑らかな動きで驚きました。
      機体から抜き出されたエンジン本体やトーイングカー、装備品の展示も興味深く、ゆっくり見て回るうちにすぐに次の飛行
     展示が始まりました。カメラを構え、再びエプロンに戻ります。
      滑るようにランウェイを走りだしたF-15は、すぐに機首をあげてテイクオフ、そのまま垂直上昇。テールコーンから太く真
     っ赤な炎を吐き出しながらあっという間に見えなくなってしまいました。
パイロットも気合十分なのか、アフターバーナー全開
     のド派手なテイクオフです。
      その後は2機のF-15が絡み合いながらの機動飛行。ああ、もうF-15でお腹がいっぱいです。手に汗握る機動飛行が終了
     し、これより1時間の休憩です。

      1週間分の疲労に加えて昨夜の徹夜、さらに炎天下のエプロン歩きで流石にくたびれました。しかし帰りは温泉だし明日
     も休みだし、締めのブルーインパルスの前に展示機をもう一回りと行きますか。

      エプロン東端には対空機関砲短SAM指揮通信車レーダー車輛、移動炊飯車輛などが整然と並び、OD一色に
     に染まったそのあたりは、なんだか陸自駐屯地みたいな雰囲気です。
      そしてありました、私の最も好きな航空機であるT-1B。ブタ鼻ちゃんは赤いマスクで風邪をひいている模様で、何とも愛
     らしい機体であります。


      さて、ブルーインパルスの飛行展示までもうわずか。エプロンのコンクリートは直射日光に焙られて焼けていますが、それ
     でも吹きわたる風は意外に涼しく、北陸に近づきつつある秋の気配を実感します。今日はいい天気になって本当に良かっ
     たなあ。
      エプロン中央の6機のブルーインパルスT-4が一斉にエンジンスタート。この場所からでは殆ど見えませんが、6人のパイ
     ロットと機付員たちが最後のチェックを行っているのでしょうか。そして6機のT-4は、機体のブルーを煌めかせながら次々
     とテイクオフを始めました。

      正直言って、ブルーインパルスにはあまり興味が無かった…というより、知りませんでした。F-15のような純粋な戦闘機が
     持つ美しさも無ければ、ピッツの様な人間臭さに溢れた魅力も無い、要は運動性のいい練習機を使ったアクロバットなんだ
     ろう…程度の認識でした。
      しかし、初めてブルーインパルスの曲技飛行を目の当たりにして、そんな考えは木端微塵に吹き飛ばされてしまいました。

          

                                           

      全くすき間の無い編隊飛行、きっちり等間隔のダイヤモンド編隊でのターン、どれをとっても驚嘆の一言です。大空に大
     きなハートマークを描いた後は、すかさずもう一機が斜め下からスモークを引きながら上昇し、ハートに刺さった矢を描いて
     見せたのには脱帽するしかありませんでした。エプロンからはまたしても大きな歓声が沸き起こります。
      そして最後は今年の新技「サクラ」。いやあお見事!素晴らしい!

      以上で航空祭は終了。小松駅行きのシャトルバスの列に並びます。いやあ疲れた、そしてそれ以上に楽しかったなあ。
     天候はもう言う事なしの逆転満塁サヨナラホームランでしたし、まさか明け方までのあの雨でここまで晴れるとは思いもし
     ませんでした。今年は初参加と言う事もあり、失敗覚悟での参加でしたが、終わってみれば100点満点の楽しい航空祭で
     した。


      帰りは加賀温泉駅で途中下車。そこからバスで30分程山の中に入った所にある山中温泉(そのまんまですね)にて汗を
     流します。山の中の小さな町のだらだらした坂道、錆びたトタン、アスファルトを白く染めたカラスの糞、山の木々から立ち
     上る湿った土と緑の匂い、古い木造家屋…と、とても雰囲気のいい温泉でした。
      帰りの特急サンダーバードでは撮影した画像を見直す予定でしたが、缶ビールを一本空けた途端にあっという間に寝て
     しまいました。




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