薄桜鬼

小さな子(パラレル設定SS:土方メイン)



 年の離れた妹――千鶴が随分と小汚い子犬を拾って帰ってきた。もとは白の毛色なのだろうが、泥やら砂にまみれて茶色くなっている。小刻みに震えているそれを、千鶴は大事そうに胸に抱えてじっと父と母を前にして立ち尽くしている。
「うーん……飼ってやりたいところなんだがなぁ」
 家長である近藤勇はしきりと頭を掻いて困惑顔で、その傍らには幾分呆れ顔の母が立っている。
「そう言うのは簡単ですが、一体誰が面倒をみるのでしょう。皆、多忙なのですよ」
「そ、それはそうなんだが……う、うむ」
 家は両親とも共稼ぎで、歳三も授業が終われば剣道部の活動があるので家に帰ってくるのは日が暮れた頃になる。あと一年足らずで大学入試も控えているので、部活に精を出すのも今のうち。練習が終わるころには、夜空に星々が瞬く頃となる。
 その間千鶴はずっと一人で留守番をすることになるのだが、幸いにして隣家の永倉家には千鶴と年が近い平助という性根が良く、明るい男の子がいるので彼と一緒に遊んでいることが多い。歳三だけでなく両親もその点、幾分安心しているのだが、それとこれとは話が別だ。
 子犬とはいっても平助や幼稚園児の千鶴が散歩やえさなどの面倒を見られるわけもなく、両親に打診をするまでもなく無理だと歳三は思っていた。
「親父。無理なら無理ってはっきり言ってやったほうがいいんじゃねぇのか」
「おお、トシ! 帰ってきたか! おかえり」
 父親はぱっと表情を明るくして歳三を見る。人のいい父なので、頼まれたり頼られたりするとどうしても見捨てて置けない人なのだ。その分、母親は優しいけれどとても割り切った考え方をする人で、表情は穏やかな笑顔でも現実的なことをよく口にする。眼鏡がやけに似合うのは、理知的な顔立ちだからだろうか。もちろん、口調もその外見とぴったり合っている。
「千鶴」
 歳三に名を呼ばれた千鶴は、子犬を抱いたままためらいがちに歳三を見る。目が合ったとたん、その大きな目には次第に涙が浮かび始める。
 ――くそ、こいつに泣かれるのは弱い。
 ため息をつきたいところだが、それをこらえる。
「駄目なものは駄目なんだ。元に戻して来い」
「でも……」
「うちじゃ飼えねぇんだ。親父も困ってるだろ」
 残酷なようだがはっきりとそう告げると、犬のほうが申し訳なさそうにクゥーン、と泣くので歳三は僅かに眉を顰めた。
 歳三とてこの小さな生き物を再び拾った場所に戻すなどしたくない。が、ままならない事情があるなら取るべき行動は一つしかないのだ。プランBはない。
「……おまえが行かねぇなら、俺が行く」
 千鶴が抱く犬へと手を伸ばして拾い上げると、千鶴が悲痛な声を上げる。
「おにいちゃん! やだ、ちっちゃいのにおそと置いちゃしんじゃうよ!」
 とはいってもまだ夏の名残がある秋の入り口だ。たとえ一晩を外で過ごしても簡単に死にはしないだろう。
「おい、トシ。なにも明日でも……」
「明日捨てるなら今日捨てたって同じだろ。情がわくだけだろうが」
「だ、だがなぁ……」
 おにいちゃん、おにいちゃんやだ! と千鶴が歳三のシャツを握って止めようとするが、歳三は剣道の道具一式が入った袋を玄関口に置き、そのまま靴を履いて外へと向かう。
 腕の中にいる柔らかく、命の温かみのあるものを放り出すのは歳三も辛いが、今日家に置いても明日は置けないのだ。
 それは歳三も千鶴ぐらいの幼い頃に同じ思いをしたから、千鶴の気持ちが良くわかる。だからこそ心を鬼にしなくてはいけない。
 おにいちゃん、と泣きながら呼ぶ声がさっきからずっと付いてくる。足を止めて振返ると、千鶴は小走りに、でも懸命に駆けてくる。
「なんでついてきた」
 問いかけには答えず、千鶴は歳三のシャツを掴む。さっきから掴まれてばかりなので、ウエストの左側からはシャツがはみ出てしまっている。
「……いぬ、すてちゃうの?」
「もともと捨てられてた奴だ。どうせ誰かが拾ってくれるだろ」
 そう言うと、千鶴は顔をくしゃくしゃにする。
「だれも、ひろってくれなかったら、どうするの」
「そのときは運がなかったんだろうな」
 静かにそう言うと、歳三のシャツのすそを掴んだまま千鶴は俯く。多分泣いているのだろう。
 千鶴の目線に近いところまで腰を落とし、歳三は声を和らげる。
「親父とかあさんが毎日仕事に出かけているのは、分かるよな」
 言葉はないが、うん、と頷く。
「兄ちゃんが遅くまで学校に行ってるのも、わかるよな」
「……ん。だから、千鶴、へーちゃんと一緒に遊んでる」
 へーちゃんというのは平助のことだ。
「ああ。でも、こいつを飼うとなると、面倒を見られる奴がいない。人形とは違って、こいつはちゃんと生きてるんだ。メシも食えば、散歩にだって連れて行かなきゃならねぇ。病気にだってなるかもしれない。ただ可愛いって撫でてるわけにはいかねぇんだ。それはわかるか?」
「千鶴、お散歩連れてく……。ごはんも、千鶴のあげる!」
 ぐすっ、と涙声がひどくなっていく。
「だめだ」
「おにいちゃ……!」
「千鶴が一人で出かけてなにかあったら、親父もかあさんも、兄ちゃんもとても心配する。メシを食わなくなったら、もっと心配する。みんな千鶴が大切なんだ」
 俯いたままの千鶴に、歳三はなだめるように言う。
「うちで飼ってやれないことは確かに可哀想だ。だが、満足に面倒も見られないのに飼うのは、もっと可哀想なんじゃねぇのか」
 もぞもぞと顔を動かす子犬を見て、千鶴は唇をきゅっと結ぶ。そしてしばらく子犬を見つめたあと、そっと手を伸ばして小さな頭へと触れる。
「……はしの、した」
「ん?」
「この子、ひろったの……はしのした。はこに、はいってたの」
 懸命に涙をこらえている千鶴の頭を、今度は歳三が撫でる。
「ああ」
「千鶴のこと……わんちゃん、嫌いになるよ……」
 ぐすぐすとぐずっているのがもっと酷くなる。
「そんなことねぇよ。おまえはこいつを大事にしてやろうと拾ってやったんだろ?」
「……んっ」
 立ち上がる前に、腕に抱いている子犬を千鶴の腕に預ける。本当は渡さないほうが良かったのかもしれない。暖かなぬくもりは一度手に入れると手放しづらいのだ。
 けれど、歳三は千鶴へとそっと渡す。
「落とすんじゃねぇぞ」
「……うん」
 毛が汚れているのも気にせず、頬を寄せる千鶴と共に、橋の下――つまりは河原沿いへと向かう。
 子犬を抱えたまま歩く千鶴の後ろを歩きながら、歳三は思うのだった。
 できるなら、この子犬を抱いたままの千鶴を家に連れて帰ってやりたい、と。
 叶わぬ願いだが、子犬の尻尾のような千鶴の髪を見て、そう思わずにはいられなかった。

 今日は朝から雨だった。
 そういえば、昨日のあの子犬は大丈夫か? と授業中ぼんやり思っていた。橋の下に置いたので濡れはしないだろうが、なんとなく気がかりだ。
 本当なら今日も部活があるのだが、気分がスッキリしない。
 今日は休むか、と一つ後輩で部の仲間である沖田の教室まで出向き、声をかけた。
「どうしたんですか、部長」
「すまねぇが、今日は部活を休む。ちょっと気になることがあってな。悪いが斎藤や山崎に宜しく伝えておいてくれ」
 ほとんど部活を休んだことのない歳三が休むことに沖田は少しだけ驚いたように眉をあげ、それからいつものようにニヤッと笑ってみせる。
「鬼部長がとっても珍しく部活を休むから、今日はこんな雨空なんですね。やだなぁ、僕、雨は嫌いなのに。あなたのせいですよ鬼部長」
 腕を組み、先輩を先輩とも思わないような口ぶりで言う。
 ――わざわざ『鬼部長』と呼ぶな。
 歳三は忌々しげに総司を睨む。
 総司にあまりよく思われていないことは歳三も知っているが、なんだかんだ言っても信頼の置ける後輩だし、その実力は全国でもトップレベル……のはずだ。というのも、この男、大会という名のつくものには決して参加をしないのだ。困るのは頂上を目指している部員だけではなく、顧問もだ。
 出ろ、頼むから出てくれ、と泣き出しそうな顧問に頭を下げられても「いやですよ。面倒くさいじゃないですか」と逃げるばかり。歳三が怒鳴ろうが脅そうがその首をうん、と縦に振ることはない。
 なら、なぜトップクラスと言い切れるのかというと、歳三自身が二年連続全国大会の覇者であり、その歳三に一本入れられるのはこの総司だけだからだ。
 だが、二言目には「面倒だ」と言い張るし、掴みどころのなく手なづけようのないその性格はまるで猫のよう。もともと猫は嫌いじゃないのだが、この総司のせいで猫はすこしばかり苦手になった。
 まったくもって、クセのある男だ――歳三はこれまで何度溜め息を吐いたかわからない。
「おい、天気まで俺のせいにするな。それより、練習サボるなよ、総司」
「自分で休んでおいてそれを言うなんて、ひどいひとだなぁ」
「うるせぇ。いいから、皆に伝えておけ」
「はいはい、わかりましたよ」
 その後、歳三は開くときにバリバリとすごい音がするシケたビニール傘をさして、川沿いのあの橋を目指した。
 飼うことなど無理に決まってるが、昨夜の千鶴を思い出すとあの子犬もなぜかセットで思い出され、捨て置けない。
 ――なにやってんだかな、俺も。
 一人小さくごちては、サアサアと静かに細い雨が降る中足を進める。
 雨で白く霞んで見えるが、あと少しで橋の下にたどり着くそのとき、なにやら小さな人影がいくつも見えた。
 この雨の中、一体何事だろう。
 疑問に思いながら近づくと、次第にその人影がなんであるかがわかってきた。その瞬間、歳三は傘を放り出し、弾かれたようにして土手を斜めに駆け下りる。
「おい、てめぇら!」
 大声にはいつも自信があった。たるんだ部員に喝を入れるのは歳三の役目だし、腹の底から声を出すと気分的にもすっきりする。
 けれど、今発した声はいままでのどれよりも一番大きく、自分でも驚くほど険しさがこめられていた。
 小さな人影。それはランドセルを背負った小学生の男子四、五人と――。
「千鶴っ!」
 その小学生達に囲まれ、ずぶぬれのまま昨日の子犬を抱いている千鶴の姿があった。
 雨のせいで足が取られそうになるが、それを気に留めることもなく小さな輪に向かって歳三は駆けていく。
 大層恐ろしい形相をしていたのか、小学生たちは逃げるというよりも、逃げ遅れて立ちすくんだまま、歳三をただただ見つめていた。
「なにしてやがんだよ。こいつは俺の妹だが、何か用なのか」
 子供が相手なのでできるだけ声を抑えて言ったのだが、それはかえって緊張を煽るような結果になり、こわばった顔で子供たちはただ黙って首を横に振る。
 ちらっと千鶴を見ると、千鶴は珍しく険しい顔つきでまっすぐに小学生を見つめている。
「……こいつはそうだとは言っていないみたいだが。なにしてたんだ」
 腕を組んで答えを待っていると、小学生ではなく千鶴が咎めるような声で呟いた。
「……わんちゃんのこと、いじめようとした。雨なのに、外にだしていじめようとしてた」
「違う!」
 男子のうちの一人が声を上げ、千鶴を見るが、千鶴は首を振って答える。
「だめって言ったのに、千鶴にどけっていったもん! わんちゃん無理やり取ったもん!」
「ち、違うって言ってんだろ!」
「違くないもんっ!」
 千鶴の両手に泥がついているのと、昨日よりもさらに汚れ、泥まみれになっている子犬を見れば、どちらが正しいことを言っているか明らかだ。
 違う違わないの押し問答に、歳三は「いいから黙れ!」と一喝する。
 一気に場が静まり返る中、小学生たちに向き直り、少しだけ腰を落として目線を合わせる。
「違うなら、なんでこの子犬は泥だらけなんだよ。おまえらが無理に引っ張り出さない限り、こんなに汚れやしねえぞ」
 その言葉に子供たちは黙りこくるが、ややあって頬を膨らませながら歳三を見る。
「……じゃ、ないじゃんか」
「なんだって?」
「その犬、にいちゃんたちの犬じゃないだろ。捨てられてた犬じゃん! なら、俺らがどうしようと関係ないじゃんか」
 その言葉に合わせて、そーだそーだ、とそれまで静かだった面々が口をそろえる。
 ――まったく、ピーチクパーチクうるせえったりゃありゃしねぇ。
 歳三はふん、と鼻で息をつき、その眉間に皺を寄せて子供たちを軽く睨む。
「残念だったな。……こいつはたった今からうちの犬だ」
「……えっ?」
 子供たちがぽかんとする中、歳三は背後にいる千鶴を気にしながら言葉を紡ぐ。
「こいつは……この子犬は俺たちが貰っていく。俺はそのつもりでこの河原に着たんだ。文句あるか、このクソガキどもが。あーだこーだ屁理屈捏ねてごまかそうとしてんじゃねえよ、ったく」
 それは歳三も一緒なのだが、それはこの際ごまかしておこう、と心うちで思った。
 貰ってく――つい言葉が出てしまったが、昨日の夜の帰り道、千鶴にシャツをつかまれたまま歩いて思っていたことだ。
 犬の散歩は早朝練習へと出かける前に少しだけ連れて行けるんじゃないか。
 夕方ではないが夜に歳三が練習を終えてからでも千鶴を連れて一緒に歩くこともできるんじゃないか。
 餌は夕飯時に少しだけ米と味噌汁を母に頼めば問題はないはずだ。
 上等なドッグフードを買い与えることはできないが、空腹で飢え死にすることはない。
 それを自室に戻ったあとも、天井を見ながらずっと考えていた。
 幸いにして住まいが一軒家というのもあるし、歳三が毎日の中からいくらかの時間を割けば犬の一匹ぐらい何とかならないでもない。
 あとはなんとか両親を説得させるだけだが、それは歳三が考え付いた意見で大体通るだろう。
「それでいいよな、千――」
 千鶴、と名前を呼ぼうとしたとき、背後からどん、と体当たりを食らう。見ると、子犬を抱いたままの千鶴が歳三のもとにぴったりとくっつくようにしている。
「わんちゃん、飼えるの、おにいちゃん? ほんとうにいいの?」
 まっすぐな目で見つめられ、歳三は少しだけ目元を和らげる。
「ああ。……俺がなんとかしてやるよ」
「ほんとう!」
「ま、仕方ねぇよな。言っちまったことだしよ。守るほかねぇだろ」
 きらきらとした目に負けて歳三が笑うと、千鶴もとても嬉しそうな笑顔を見せる。
 それを見ていた小学生たちは、「なんだよ、なんなんだよ……」と面白くなさそうだが、雨音交じりに遠くから「おーい」と声が聞こえたので、皆でその声の主のほうへと視線を送る。
 手を振りながらこちらに駆けてくるのは隣家に住む平助だ。
「みんなして、なにやってんだー。雨なのに、元気いーなぁ!」
 どっちがだ、と歳三は呆れる。
「へーちゃん!」
「って、平助っ!?」
 千鶴だけでなく、ランドセルの子供たちも平助の名を呼ぶ。
「千鶴に……わっ、妙にでっかいのがいると思ったらトシ兄じゃん!? つか、おまえらまでなにしてんのさ」
 大きな目をさらに大きくしてこの場に居合わせている皆を見つめる。訳がわからない、というその表情がなんとも可笑しく、歳三はふっと息を漏らすようにして笑った。
「なんもねぇよ。……つーことで、ガキども、分かったか」
 声をかけられた男子たちはお互いに目を合わせたあと、わかったよと、やはりつまらなさそうに言って、とぼとぼと引き上げていく。
「え。え? ちょっ……なんだ!? みんなして、なんで帰っちゃうのさ。遊ばねーの? つか、なんなの?」
 きょろきょろする平助の頭に手を置き、歳三は「遊ばねぇよ。っていうか、なんもねぇっての」と苦笑する。そして、千鶴へと視線を落として声をかける。
「千鶴」
「うん」
「そいつを連れて家に帰るぞ。お互いに随分と濡れちまったから、もたもたして、こんなのかあさんに見つかったら大目玉だ」
 その前に、歳三までもが一晩にして意見を変えて「犬を飼ってもいいか?」と頼むことになるのだから、ずぶ濡れよりもそっちを突っ込まれそうだ。
 ――まあ、その時は親父がきっと助け舟を出してくれるだろう。
 明るく人懐こい父の笑顔を思い浮かべ、歳三は小さく笑う。
「おかあさんに怒られるの、やだ。おにいちゃん、早く帰ろう! この子も濡れちゃってる」
「ああ。まとめて風呂行きだな。おまえもそいつも泥だらけだしな。……と、平助!」
 歩き始めて数歩、訳がわからず取り残されている平助に声をかける。
「んー? なに、トシ兄」
「俺の傘、多分土手のどっかに転がってるだろうから、拾って持ってこい」
 ビニール傘とはいえないよりはマシだ。千鶴から子犬を受け取った歳三は手がふさがっているし、千鶴に傘を捜させるわけにも行かない。第一、このままのんびりここで雨に打たれていては千鶴が風邪を引く。
「ハァ!? ちょっ、なんでオレがー!」
 ぎょっとした顔でこちらを見る平助に、歳三はにやっと笑う。
「持ってきたら、バナナをくれてやるから」
「え、マジ? ……って、いらねっ! オレはサルじゃねっての!」
 頬を膨らませて文句を垂れる平助に、千鶴が追い討ちをかけるように無邪気に言う。
「へーちゃん、おさるさんなの?」
「そうみたいだな。そのうち尻尾が生えてくんぞ」
 歳三が冗談めかしてそういうと、千鶴はきゃーっ、すごーいと嬉しそうに笑う。腕に抱いている子犬の尻尾も小さく振られている。
「トシ兄っ! つか、ちがうって! もーっ、千鶴まで言うなよな〜っ。ったく、全部トシ兄のせいだ。鬼! 悪魔! も一回、オニーッ!」
「阿呆。サルよりましだ」
 さるだ、さるだ、と千鶴が笑い、平助が困ったようにいいわけをしながら付いてくる。
 今日も左側のシャツがはみ出ていて、泥だらけの千鶴の手がそれをつかんでいる。
 ――このシャツも洗濯しとかなきゃ、かあさんに怒られるんだろうな。
 なにせ千鶴の手形がしっかりと付いている。
 普段は優しいけど本気で容赦ない母親を思い出して苦笑したものの、雨模様のお天気とは反対に、歳三の気分は不思議と晴れやかだった。



おしまい。
2009/04/15UP (BLOGにて09/03/18-09/03/19UP)
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