ときメモGSシリーズ

【お題名:お守り代わりにそっと】
あなたがわたしにくれたもの【瑛主】



 放課後の帰り道、水島と一緒に駅前の新しいカフェでお茶をしているときだった。
 話の途中で水島の携帯にメールが入った。
 メールをチェックした後、彼女が「ごめんね。急用みたいだから、ちょっとだけお返事してもいいかな」と申し訳なさそうに言ったので、ゆきも「遠慮しないでどうぞ」と答えた。輸入雑貨を扱う店の二階にあるカフェからはせわしなく行き来する人たちの姿がぼんやりと目に映る。九月も半ばを過ぎた今では、半そで姿もめっきり少なくなった。残暑が厳しいといわれていたが、それももう終わりだろう。
 飲みかけのウィンナコーヒーを一口、二口と飲み、待っている間に自分の携帯をチェックしたのだが、小さく揺れるストラップを見て、ふと思いをめぐらせた。
 これは先週の修学旅行のときからつけているものなのだが、ゆきが自分で買ったものではない。
 一緒に行動をしていた佐伯が土産物屋で見つけてきてくれたものだった。あのときの佐伯の照れたような、それを隠すのにしてちょっと怒ったような顔をしていたのは今でもよく覚えている。
「これ、おまえにやる。なんか気に入って、自分にも買ってきた」
 佐伯の手で揺れているのは八つ橋型のストラップ。それは本物そっくりに作られていて、随分と面白いものもあるものだと二人で笑ったけれど、彼はその面白いものをゆきにも分けてくれてくれた。
「ありがとう! じゃあ、二人でおそろいだね」
 笑顔で言うと、そういうのはさらっと流せよ、と耳を赤くして佐伯が言ったことを思い出す。
 あちこち慌しく見て回った修学旅行だったけれど、自由行動は二日とも佐伯と一緒だった。
 古道具屋にも行ったし、お寺も数は多くないけれどいくつか回ることもできた。
 地主神社にもあからさまに嫌そうな顔をしてではあるが付き合ってくれたっけ、とゆきは思い出し笑いをする。
「あ、思い出し笑い。なに考えてたの〜?」
 返信が終わったのだろうか。楽しげに肘で突く仕草を見せる水島に、ゆきは「なんでもないですよ〜」と笑いながら語尾を延ばして答える。
「ひょっとして……」
「うん?」
「好きな人のことでも考えてたでしょ? どうだ、言っちゃえ! 言ったらすっきりするぞ〜?」
 そう言って、華奢な手を伸ばしては、ぺちぺちと音を鳴らしてゆきの手の甲を軽くたたく。大人びた容貌とは合わずに、随分とかわいらしい仕草をする彼女に、さらに可笑しさがこみ上げる。
「アハハ、そんなんじゃないってば。密ちゃん、そういう自分はどうなの?」
 同じようにして水島の手の甲を軽くぺちぺちと叩くと、私のは秘密、とはぐらかされてしまう。
 さすが名前に文字が含まれているだけあるな、と変なところで関心をしつつ、「ずるい〜」「ずるくないです〜」という言い合いを繰り返してはじゃれあっていた。
 ひとところ周りの迷惑にならない程度で弾ませたところで、互いに小さく息をつく。
「ねえ、ゆきさん」
「ん?」
「修学旅行、とても楽しかったね。男子の部屋で枕投げしたのも楽しかったし、女子だけでたくさんおしゃべりしたのもすごく楽しかった」
「密ちゃん、実は枕投げしたかったでしょ?」
「うふふ、わかっちゃった?」
「うん、すごかったもの。投げる枕みんな命中してた。あれ、きっと男子が当たりたいだけじゃなかったはずだよ」
 水島の投げる枕なら威力も弱いだろう、と油断していた男子が大半だったろうが、その球威ならぬ枕の威力は結構なもの。中でも、決め台詞のような何かを言いながら投げた枕はとても威力があったらしく、当たってしまった男子はしばらく動けなかったような気がする。
 ――すごかったな、なんか。鬼気せまるものがあったような、なかったような……。き、気のせい……かな?
 心うちで思っていることだとしても、その答えは濁しておいたほうがよさそうな気がして、曖昧な笑顔を作る。そんなゆきの考えを知ってか知らずか、水島は驚いたような表情を見せる。
「……わ。すごい」
「えっ、なあに?」
「ゆきさん、意外と洞察力ある。びっくり」
「うっ。意外と、って……。それ、複雑だよ密ちゃん」 
 小さく息をつくと水島はうふふ、ごめんね、と笑う。
「もう。……まあいっか。枕投げも確かに楽しかったけど、そのあとのおしゃべりは異様に盛り上がったよね」
 クラスが違うはずの水島だが、夜中にこっそりとゆきの部屋まで遊びに来たのだった。男女問わず人気がある水島だから、ゆきの部屋の女子も皆歓迎をし、買っておいたお菓子を広げては、声を潜めながらいろんな話をした。
 メインは恋の話。それぞれに好きな相手の話をしたり、突っ込んだりといくつも花を咲かせていたのだが、中でも一番の突っ込みを受けていたのが水島でも他の誰でもなく、ゆきだった。もちろん、その突っ込みの内容は佐伯とのことばかりだ。
 「随分仲が良いみたいだね」「家が近いって本当? ファンの子が前にぶつぶつ言ってたよ?」「たまに一緒に帰ってるよね」と遠まわしな質問は最初だけで、よって集まれば怖いものなしといったように、本当は付き合ってるんでしょ、好きなんでしょ? と粘り強く何度も何度も尋ねられた。
 そのたびに「付き合ってないよ!」と答えていたのだが、ムキになればなるほど皆面白がられるもの。
 ゆきが布団をすっぽりかぶって突っ込み攻撃を回避しようとも、追撃の手は緩められることはなかった。
 ――実は、うちのクラスにも何気に瑛くんファンって多いんだ……。うぅ、壁に耳あり障子に目ありっていうから気をつけよう。
 普段はほとんど佐伯の話などしないクラスメイトだが、妙に熱く、そして真剣に質問をされ、佐伯の人気ぶりを痛感したのだった。
「わたしは、あんなに一度につっこまれたの、初めてだよ……」
 参りました、と眉尻を下げると、水島が「ほんとすごかったよね」と同情する。
「まあ、それだけはね学のプリンスの人気が高いっていうことよね。ふふっ、ゆきさん、王子様を射止めたご感想は?」
「えっ!?」
「お姫様、ひとことどうぞ」
 マイクを向けるような素振りをする水島に、ゆきは絶句し、それから頬を膨らませる。
「お姫様は誰がどう見ても密ちゃんのほうだってば。それに、はね学のプリンス射止めていません! ただの友達だってば」
「えー、ほんとう?」
 ――友達というか、なんというか。ちょっと微妙な気がするけど、まあいいか。
「……ほ、本当だよ!」
「あやしい。……彼と同じストラップをつけているのに?」
 頬杖をついては首を傾げ、にっこりと笑顔を浮かべる彼女は目ざとい。
 佐伯からもらったストラップに気づいていたようだ。あわてて携帯を握り締めるがそれも今さらだった。
「へっ!? あっ、あの、こ、これはぁ……偶然、だと思うよ? て、――え、えっと佐伯くんもきっとわたしがお土産を買った場所と同じところで買ったんだよ。あれは偶然だってば!」
「だとしても、佐伯くんがそのストラップをつけていることはゆきさん、知ってるんだ?」
 全部が嘘でないにしても大半が見破られてしまい、妙にドクドクと心臓がうるさい。
 なんだか話せば話すほど墓穴を掘るような気がしてならないが、それでも精一杯の抵抗を試みる。
「うっ。――って、そ、それは……その、密ちゃんがそう言うから……っ」
「えーっと……その、ごめんねゆきさん。本当のことを言うと、わたし今、当てずっぽうを言ったの。実は佐伯くんの携帯なんて見たことないんだ」
「じ、じゃあ……」
「うん、誘導尋問しちゃった」
 小さく舌を覗かせ、もう一度ごめんね、と肩を竦める水島に、ゆきは二の句が継げない。目を丸くし、時折ぱちぱちと瞬きをしては水島を見つめるばかり。
 ――うぅ、してやられた。やっぱり密ちゃんには敵わないよ……。
 さて、どう言ったらいいものか。
 小さくため息を吐くと、水島はからかうでもなく、問い詰めるでもなくただ静かに微笑んだ。やんわりと細められた目は優しく、その口調もとても穏やかなものだった。
「たくさんいい思い出できて、よかったね」
「密ちゃん……?」
「ゆきさん、さっきそのストラップを見ててとても幸せそうだった。大切なものを見るような優しい目をしていたのよ。だから思ったの。ああ、これは大切な人からもらった大事なものなんだ、って」
 彼女の言葉に小さく笑い、それからウィンナコーヒーがまだ残っているカップをそっと両手で包む。
 指先にも手のひらにもカップの暖かさが伝わる。
「大切で、大事……」
 独り言のように小さく呟くと紅茶を一口含み、それから「うん」と水島は目を細める。
「知ってた? ゆきさんそのストラップよく触ってるのよ?」
「えっ……」
「大事なお守りみたいに握り締めてるときだってあるんだから。最初は携帯をぎゅっと握っているのかと思ってたんだけど、よくよく見てみたら違うんだもの。……もうっ、本当に気付いてないの?」
 はあ、と大げさにため息をついて彼女は瞼を閉じる。どんな表情や仕草をしても絵になる人はいるんだなと頭の隅で思いつつも、思わず反射的に謝ってしまう。
「ご、ごめん」
「やだなぁ。あなたが謝ることじゃないわよ。わたしがちょっと気がついちゃっただけ」
 いたずらっぽそうな笑みで肩を竦める。そして、その表情を少し前と同じように優しくして言う。
「もし。……もしもの話ね」
「うん」
「何か困ったことがあったら――誰かに話を聞いて欲しいっていうことがあったら、そのときは遠慮なく言ってね。私、それまでは突っ込みたい気持ちをうんと我慢しておくから」
 それでもたまにいたずら心起こしちゃうこともあるかもしれないけど、少しだけ大目に見てね、と首を傾げては長く艶やかな髪を揺らす。
 手にあるカップはとても暖かいけれど、目の前にいる友人の気持ちもとても暖かい。
 いつもゆきのことを気にかけてくれている水島は、きっと他の友達以上に本当のことが知りたいところだろう。けれど無神経には踏み込んでこない。ゆきの気持ちを尊重してくれているのがよくわかる。
 冗談を言ってはしゃぐところと控えるべきところはきちんとわきまえる。難しいラインだが、彼女はそれを心得ている。
「ありがとう……密ちゃん。もし、そういうときがきたら、ちゃんと話するね」
「うん」
「だから、密ちゃんもつらいことがあったら無理しないでね」
 いつか森林公園で見かけたとき、なんだかとても無理をしているような気がした。しなくちゃいけないことに無理に自分を縛り付けているような気がしたのだった。
 あのときから随分時間が経っているけれど、今でもそうなのだろうか。優しい笑顔の中に、むりやり気持ちを詰め込んでは窮屈な思いをしているのではないだろうか。もしそうなら心配する。
 彼女が言わない限り黙っているつもりだが、優しく穏やかな友人のことはゆきも気にかけている。大事な友達なのだから。
 水島のことも、とても大切なのだから。
「ゆきさん……」
「えっと、頼りないかもしれないけれどね」
 えへへ、と照れ笑いを浮かべて肩を竦めると、ううん、と小さな声が届く。
「そういってくれる人がいるだけで、救われる。気持ちが救われるの。……ありがとう、ゆきさん」
 とても嬉しそうに目を細めるその顔は、今まで見た彼女の表情の中で、とびきりきれいだった。


 水島と別れたあと、少し遠回りをして海岸沿いを少し歩き、まぶしく光る夕暮れ時の海を見つめながら家路についた。
 家族と夕食も済ませ、一人きりの部屋に戻る。
 少し食べ過ぎてしまったかな、とベッドに頬を当てて反省をするのだが、机の上に置いてある携帯が目に映ったときに水島との会話を思い出した。
 『知ってた? ゆきさんそのストラップよく触ってるのよ?』
 ちっとも気づかなかったが本当にそうなのだろうか。手を伸ばして携帯を掴み、ゆらゆらと揺れる小さな三角形を見つめる。
 『大事なお守りみたいに握り締めてるときだってあるんだから』
 ――お守り……かぁ。確かに、瑛くんみたいなオールマイティーな人がくれたものだから、ご利益ありそうだよね。
 そう心うちで褒めておきながらも、目に浮かぶのは仏頂面ばかり。『あとでチョップ決定』と言うその表情はプリンスとはかけ離れている表情だ。
「ふふっ、王子様の瑛くんかぁ……」
 妙に爽やか笑顔の佐伯よりも、仏頂面の王子様のほうが好きだと思う。両方とも間違いなく『彼自身』なのだが、後者のほうが無理をしていないように見える。
 もちろん、彼が心から笑っているのであれば勿論笑顔に越したことはないが、一生懸命いい子を装っているのを見ると、あまり無理し過ぎなければいいけれど、とむしろ心配になってしまう。
 そしてさらに水島の言葉を思い出す。
 『さっきそのストラップを見ててとても幸せそうだった。大切なものを見るような優しい目をしていたのよ。だから思ったの。ああ、これは大切な人からもらった大事なものなんだ、って』
 修学旅行での真夜中の尋問では彼のことは皆に『友達』と言ったが、それだけでないのははっきりと自覚している。
 ――大切な人、か。
 佐伯から貰ったストラップにそっと触れると、なぜかふと声が聞きたくなってくる。
 ――あれ? なんでだろ。なんで声なんて……。
 どきりと鼓動が跳ね、「今のはなかったことに!」とゆきはぶるぶると首を振る。
 明日は会おうと思えば学校で会えるし、バイトもあるから店でも会える。なのに声が聞きたいなんて。
「な、ナシっ!」
 開きかけた携帯を慌てて枕元に置き、瞼を閉じる。
 このまま眠ってしまえばきっと気にならないはず。
 すぐに朝が来るはず。
 そうごまかそうとするけれど妙に気持ちが落ち着かない。
 お風呂に入っていても、大して見たくもないテレビを見ていても同じだった。
 ――変なの。明日じゃだめなんて。
 今声が聞いてみたいと思うなんて不思議だ。
「……ホント、変だよね」
 苦笑して枕元へと手を伸ばす。
 一度目はこの気持ちをなかったことにしようとしたが、二度目はもう躊躇わなかった。
 ベッドサイドに腰掛けなおし、二つ折りの携帯電話を開く。
 登録してある番号を呼び出すと、明るい液晶画面に見慣れた名前と数字とが幾つも並ぶ。
 時間は十一時近い頃。
 非常識なのは重々承知だが、つながる先が佐伯のみだからこその行動だ。
 気持ちをごまかし、迷っていた時間がいまさら悔やまれるが、珊瑚礁の営業時間を考えると今が丁度いいタイミングなのかもしれない。――そう思いもしたのだが、もう一つ考えが浮かぶ。
 ひょっとしたら疲れてもう眠ってしまったかもしれない、と。
 通話のボタンを押す指をふと止めて考える。
 起こしてしまったらどうしよう。
 ああでも今声が聞きたい。
 この二つの気持ちの間で少し悩んだ末に、小さな結果を一つ導き出す。
 ――じゃあ、三回。コール三回目で出なかったら、また明日。明日まで声を聞くのは我慢しよう。……よし、これで決まり。
 お守りみたい、と水島に言われたストラップを握り締め、コールは三回まで、と心うちで呟く。
 電話をかけないという選択肢は選ばなかった。
 出てくれたらいいな、と願掛けをして通話ボタンを押せば、一回目の呼び出し音が聞こえる。
 一回。
 二回。
 呼び出し音と一緒にカウントをするが、残りはあと一回。三回分の呼び出し音は思いのほか早い。
 ――やっぱり、出ないよね。きっと寝ちゃってるんだ。だってもう、こんな時間。
 あきらめ混じりで最後のコールを耳にし、それを聞き終わる前に切ってしまおうと携帯を離したのだが、呼び出し画面がふっと切り替わったのには驚いた。それこそうっかり、ぼすっ、とベッドの上に携帯を落としてしまったくらいだ。
「えっ!? わ、わわっ!」
 拾い上げる前から聞こえてくるのは、今一番に聞きたかった声。ゆきと同じストラップをもつ彼の声だ。
『……もしもし、どうかした?』
 ――び、びっくりした! 本当に出ちゃうなんて。
 思わずまじまじと携帯を見つめてしまう。
『もしもーし。……オイ、おまえイタ電のつもりか。堂々と名前を出してイタ電するとはいい度胸だ』
 次第に低音へと変わっていくその声に、ゆきははっと我に返り、慌てて携帯を拾い上げる。まじまじ見つめている場合ではなかった。 
「ご、ごめん! うっかり携帯落としちゃって」
『はぁ? まったく何やってんだか……。で、こんな時間にかけてくるなんてどうしたんだ?』
 呆れたようなその声。
 そして、色気も素っ気もなく、なんでもない普通の会話。だけどひとこと、ふたことと交わしていくたびに頬が勝手に緩む。
 ――なんでだろ。声が聞けたのがこんなに嬉しいなんて。
「えっと、そのぉ……。と、特に用はないんだけど――かけちゃった。……エヘ」
 妙に弾む気持ちを精一杯抑えようと冗談めかして言うと、対照的な声が短く届く。
『……切る』
 渋面を浮かべているところまで想像がつくくらいの不機嫌さだ。取り繕うなら今のうち。そうでないと本当に切られてしまうだろう。
「あっ、待って! 待ってったら! ウソだってば。ううん、ウソじゃないんだけど。切るのちょっと待っ――」
『ああもう、うるさい! わかったからわめくな』
「うぅ……。ごめんなさい。ただ、ちょっと声が聞きたかったんだってば」
『えっ?』
「だから、特に用はなかったの。……ごめん」
 無言が数秒。
 本格的に怒られると思いきや、盛大なため息のあとに聞こえてきたのは、ちょっと聞き取りづらいぼそぼそとした声。
『……バカ。おまえのくせになんなんだよ』
「え?」
『こっちの話。……もういいや。細かいことどうでもよくなった。まあ、なんつーか、俺もちょうど電話しようと思ったとこだし。起きてたみたいでよかったよ』
「瑛くんも、電話しようと思ってたの?」
『あー……。つっても、特に用があったわけじゃないけどさ。ただなんとなくな』
「なんとなく……」
 それはゆきも思っていたことだった。
『そう。っていうか、おまえも同じなんだろ。な、なに俺にばっかり言わせてんだよ』
 ちょっと照れている彼の声に耳を傾けては小さく笑った。
「……うん。わたしもそんな感じだったの。なんとなく、声が聞きたかったんだ。……同じだね」
『ま、まあな?』
 妙に嬉しくて、楽しくて、そしてその声はちょっとく耳にすぐったかった。
 わけもなく声が聞きたくなった夜。
 携帯とそれを持つ手の間には、拾い上げたときに慌てていたのだろう、あの小さなのストラップがそっと握られていた。
 同じものが携帯の向こう側にもあると思うと、今度は妙に胸の奥がくすぐったくなった。
 この星空の下。
 この街の中。
 世界中で、彼と話しているのが自分だけかと思うと、それはやはり不思議で、なぜか心が温かくなった。



End.
2007.05.30UP
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