「おはなしの森」の歩み

奈良県出身の私にとって、ここ神戸には目を見張る素晴らしいことがいくつもあります。海があり、坂道があり、生きた魚が店頭に並び、春にはいかなごを煮る匂いが街中にあふれます。結婚して神戸市民となり、童話を書きはじめた私にとって、さらに驚くことがありました。何と多くの素敵な童話を書く人たちがおられるのだろう……。

所属した「未来っ子」をはじめ「こうべ」や「花」の同人。たくさんの仲間たちが切磋琢磨していました。

1995年1月17日、阪神・淡路大震災が起きました。前途有望だった友人のひとりがぷっつりと書かなくなりました。私自身もなかなか机に向かえない日々が続きました。たぶん、多くの仲間たちもそうだったと思います。

数年がかりで少しずつ自分のリズムを取り戻すことができた頃、周りを見回すと、やはり他の人たちも動き始めていました。新しい童話が生まれ、同人誌などに発表されています。私の心にも熱い思いが戻ってきました。

2001年、日本児童文芸家協会主催の「児童文芸のつどい2001」が京都で開かれました。その折に出会った神戸新聞の記者の方に、日ごろから思っていたことを話すことが出来ました。「兵庫県内には多くの童話作家がいます。新聞に物語を書かせてもらないだろうか」と。

 それから2年が過ぎ、あきらめかけていた2003年秋のことです。神戸新聞文化部の方があらためてこの話を聞いてくださり、さらに数日後「企画が通ったので、載せましょう」とのお返事。「おはなしの森」の誕生です。おはなしが森のように豊かに繁り、こどもたちの心をうるおしてくれますようにと願っての船出でした。

第1回は2004年1月、神戸在住の人気児童文学作家、岡田淳さんの「おっきいサカナ」。毎週日曜日の子育て欄「すくすく」で連載が始まりました。月替わりで、次の作家の物語となり、次々とバトンが受け継がれていきました。

掲載作品が100話を数えると、「本にしたい」との思いが膨らみ、動きだしました。そして
2012年4月、「おはなしの森」第1巻が神戸新聞総合出版センターから出版されました。竹内よし栄さんの優しく温かな表紙絵、帯を飾る岡田淳さんの心のこもった文章、そして神戸新聞デザイン課制作の連載時の挿し絵も入った個性豊かな20の物語が盛り込まれました。 

すぐに「おはなしの森2」の出版話が持ち上がり、2013年7月に実現。続いて2015年9月には「おはなしの森3」が出版されました。 

私たちは今、「おはなしの森」創作の原点を思い起こしています。

「子どもの心に寄り添った物語、親と子との会話につながるような楽しい物語を」との思いを忘れないで、これからも書き続けたいと願っています。

    

2016年3月                 
                      「おはなしの森」の作者を代表して  畑中弘子