鬼の哀しさを人との交流の中に描いていく10編の作品集。
鬼の助、モクの鬼、角姫さま、鬼の羽ごろも、かみなりだいこ、鬼のクウ、花わかれ、鬼ずいか、鬼の笛、おによろし


【コメントコーナー】

■さまざまな「鬼」が描かれた物語。どれも,人間の中にある寂しさ,苦しさ,恐ろしさ,醜さなどさまざまな心情を表していると思いました。(T)
■この本を読んだ人は誰でも,自分に当てはまる鬼を見つけることができるように思います。(H)


【出版に至るまで】

 鬼の話を書くようになったのは二十数年も前にさかのぼる。子育ても一段落し、塾講師という仕事も軌道に乗っている。念願の児童文学の出版も果たし、忙しさに追われる毎日だった。  子どもの頃から「一生懸命やっていたら何でも実現する」と思いこんでいた私である。念じれば山をも動くと信じるほどの楽天家だった。前向きでプラス思考はいいのだが、すぐに人を信じこんでしまう。
 そんな世間知らずの娘が結婚し、子をなし、育て、義父母につかえ、年を重ねていった。忙しさに追われて自分を顧みることなどできない日々がつづく。少しづつプラス思考がゆらいでいった。
 このままいくと自分は自分らしさを出すことなく、一生を終えてしまうのではないか? いやこのまま頑張りつづけたら、ある日突然爆発してしまうのではないか? 幼いときに泣きわめいて親を困らせたような爆発ではすまないにちがいない。  
 私はお話のなかに今の自分を封じ込めようと思った。書いていくうちにおかしなことに気づくようになる。もしもこのような人間がいたら、世間の人々はどう思うだろう。世に受け入れられないことをいっぱい書いていたのである。 「そうだ。人間として物語るからおかしいのだ。鬼にしてしまえばいい」 こうして「鬼の話」が生まれていった……    あとがきから