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ハンダ付けの基本と規格


ハンダ付け材料

1.ハンダ

ハンダは一般的に下記のような条件を満たす合金が用いられます。

● 融点が低い
● 母材とよくぬれるための表面張力や流動性を持ってる
● 電気伝導度などの電気特性が良い
● 接合後の強さなどの機械的特性が良い

これらの条件を満たす合金として、現在最も使用されているのが、Sn(錫)-Pb(鉛)合金です。
このようなハンダについては、日本ではJIS Z 3282、JIS Z 3283をはじめとして、主要工業国において規格化されています。

■ Sn-Pbハンダ

 下記Sn-Pb平衡状態図に示されるように、Sn(融点232℃)とPb(融点327.5℃)を合金にし、その比率を変えていくと次第に融点が下がり、Snが約61.9%の点で最も低い183℃(共晶温度または共晶点)になります。 普通ハンダといえばこの合金のことをいい、特に共晶点近くのSn60〜63%−Pb残の比率のハンダが最もよく使用されています。
 JIS Z 3282ではSnとPbの比率によりハンダが14種類規定されており、さらに不純物の量によってS級、A級、B級の区分があります(下表参照)。

合金系 Sn-Pb
標準化学組成
(mass%)
構成元素 Sn 100 63 60 50 40 10 5
Pb - 37 40 50 60 90 95
Ag 60 - - - - - -
Sb 50 - - - - - -
In 40 - - - - - -
Bi 10 - - - - - -
JIS Z 3282の記号 - H63S.A.B H60S.A.B H50S.A.B H40S.A.B H10A.B H5A.B
溶融温度範囲
(℃)
固相点 232 183 183 183 183 275(268) 310(301)
液相点 232 183 188(189) 216 234 302 314
引っ張り強さ
(MPa)、室温
- 53.1〜51.5 28.6〜52.4 32.2 - - -
溶融温度範囲
(℃)
20℃ 22.1 37.9 33.6〜38.6 18.4〜30.0 34.3 28.9 -
100℃ 19.0 - 21.6 24.0 13.7 14.7 -

2.フラックス

 ハンダがぬれるというメカニズムについては後述しますが、ハンダがぬれるための絶対的な条件は「母材表面が清浄である」ということです。 ハンダと母材との間に酸化膜や油脂などが介在していると、ぬれは著しく阻害されます
(つまり、ハンダはじきやイモハンダといったハンダ付け不良の原因となります)。

 一般に金属(母材)の表面は、きれいなように見えても非常に酸化膜で覆われており、それらを洗浄などのいろいろな方法で除去したとしても、空気中ではすぐに酸化されてしまいます。したがって溶けたハンダを母材表面にぬらすためには、 溶けたハンダと母材表面の双方を還元するとともに、再酸化を防がなければなりません。このような目的に使用されるのが、フラックスです。
つまり、フラックスの作用とは下記のものとなります。

● 酸化膜などの母材表面の異物を化学的に取り除く
● 清浄になった母材やハンダの表面を覆って、再酸化を防ぐ
● 溶けたハンダの表面張力を低下させて、母材表面上を流れやすくする

 つまりハンダ付けの良否は、このフラックスの作用の良し悪しが重要な要因となるわけです。なお、フラックスにはいろいろな種類があり、下記の条件によって使い分けられています。

■ 母材金属
 金、銀、銅などのハンダがぬれやすい金属に使用するものと、鉄やアルミなどの非常にぬれにくい金属に使用するものでは違います。
■ 表面状態
母材表面の酸化状態によって使用するフラックス作用の強さを変えます。
■ ハンダ付け部の信頼性
 一般に強い作用を持つフラックスには塩素化合物が多く含まれているため、その残りが空気中の水分を吸収してハンダ付け部を腐食させることがあります。
■ ハンダ付け条件
ハンダ付け作業の条件(温度と時間)によっても使用されるフラックスの種類を変えることもあります。
ハンダ付けのメカニズム

 ハンダ付けにおいては、溶けたハンダが金属母材の表面に「ぬれる」ということをもって、ハンダ付けが行われたことになります。その過程を下記の図で説明します。

  1. まずフラックスが母材表面を覆います。
  2. フラックスの「還元作用」によって母材表面の酸化物を除去し、清浄な金属表面を作ると同時に、再酸化を防止します。
  3. 次に溶けたハンダが清浄な金属表面へ流れてきます。この時にもフラックスの表面張力低下作用が大きく貢献します。この作業が不足すると、きれいなハンダ付けは出来ません。
  4. 母材金属元素が溶けたハンダの中へ溶解すると同時に、ハンダが母材金属の中へ拡散して、ハンダと母材表面との間で金属間化合物を形成します。これが「ぬれる」という現象です。

 ちなみに、ハンダのうち母材との間で金属間化合物を形成するのはSn(錫)だけです。Pb(鉛)は単にハンダの融点を低下させる作用しかありません。なお、配線部品の材料に銅がよく使われ、その表面に銀や錫が使われているのは、電気的な特性の良さという理由もさる事ながら、Sn(錫)との化合物形成における相性の良さも大きな理由の一つとなっています。

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ハンダ付けの方法

1.ハンダ付け条件

 ハンダ付けの良否を決定する条件にはいくつかのものがありますが、その中でも特に重要な条件は「温度と時間」です。ここではハンダゴテを使って使って手作業でハンダ付けを行うときのハンダ付け条件について述べます。

温度】

 コテ先(チップ)温度は、プリント基板の場合280℃〜340℃、端子配線の場合は320℃〜370℃に設定するのが一般的といわれています。またハンダおよびハンダ付け部の温度をハンダ融点(約183℃)より50℃以上高い温度にする、という目安もあります。
 いずれにしても、あまり高い温度(コテ先が400℃以上)ではコテ先の劣化が早くなりますし、低すぎる温度ではハンダのぬれが進みませんので、最適な条件を確認して覚えておくことは重要です。

【時間】

時間は「3秒以内」といわれています。つまりなるべく素早く作業することです。
素早く作業を行うために重要なことは、「接合部の熱容量に見合った容量のハンダゴテを使う」ということです。コテ先は、ハンダ接合部に触れると急速に温度が低下します。この低下した温度を素早く回復させないと、素早いハンダ付けは行えません。したがってハンダゴテの容量は、 接合部の熱容量に負けないだけの熱量が発生できるものでなければなりません。
一般のハンダゴテは、広範囲の熱容量に対応できるようにはなっていません。よってハンダ付けを行う接合部によって、ハンダゴテを使い分けることがベストです。

2.ハンダゴテ

@ ハンダゴテの必要条件

A コテ先(チップ)

 コテ先の材料は、ハンダのぬれ性や熱伝導性などに優れた銅が用いられており、その銅に耐食性を増すための鉄メッキを施したものが一般的に使われております。またコテ先先端のハンダぬれ性を良くするために、さらにハンダメッキを施したものもあります。
 またコテ先形状には非常に多くのものがあり、作業対象に応じて使い分けられるようになっています。一般的なものには、円錐型、ナイフ型、マイナスドライバ型があります。コテ先形状は、ハンダ付けの良否や作業性の良し悪しに深く関わるものですので、作業対象に合ったものを選んでください。


良いハンダ付けとは?
● ハンダが良く流れ、長く裾を引いている
溶けたハンダが母材に良好にぬれており、良くなじんでいることを表している。また供給されたハンダの量も適量であることを表している。
● 光沢と艶があって、表面が滑らかである
加熱温度と加熱時間が適正であったことを表している。また良好な金属間化合物が生成されていることも表している。
● ハンダの肉厚が薄く、線筋が想像できる
供給されたハンダの量が適量であることを表している。過剰なハンダ量は他のハンダ付け不良が発見しにくくなり、過少なハンダ量は機械的な強度を低下させる。
● 割れやピンホールなどの異常な形状がない
割れ、ピンホール、左右非対称などの異常形状は、ハンダ付けの強度低下の要因になる。

以上の4つのポイントを満足したハンダ付けが、良いハンダ付けといえます。
 これらはすべて目視検査によって判断するものですので、前記のハンダ付けのメカニズムを良く理解した上で、正しい判断が出来るようにする必要があります。


ハンダの規格 
合金系 種 類 等級 記 号 主な化学成分
(%
固相線温度
(℃)
液相線温度
(℃)
適用例
Sn-Pb系 Sn95Pb A,B H95A,B Sn:95,Pb:残 約183 約224 特殊用、高温用
Sn65Pb S H65S Sn:65,Pb:残 183 186 電気・電子機器の配線接続、プリント基板配線、他一般用途
Sn63Pb S,A,B H63S,A,B Sn:63,Pb:残 183 184
Sn60Pb S,A,B H60S,A,B Sn:60,Pb:残 183 190
Sn55Pb S,A,B H55S,A,B Sn:55,Pb:残 183 203 電気、電子関係、機械、車両
Sn50Pb S,A,B H50S,A,B Sn:50,Pb:残 183 215
Pb-Sn系 Pb55Sn S,A,B H45S,A,B Sn:45,Pb:残 183 227
Pb60Sn S,A,B H40S,A,B Sn:40,Pb:残 183 238 ラジエータ、製缶、鉛工用
Pb65Sn A,B H35A,B Sn:35,Pb:残 183 248
Pb70Sn A,B H30A,B Sn:30,Pb:残 183 258
Pb80Sn A,B H20A,B Sn:20,Pb:残 183 279 電球用、高温用
Pb90Sn A,B H10A,B Sn:10,Pb:残 268 301
Pb95Sn A,B H5A,B Sn:5,Pb:残 300 314 製缶用
Pb98Sn A H2A Sn:2,Pb:残 316 322
Sn-Pb-Bi系 Sn43
PbBi14
A H43Bi14A Sn:43,Bi:14
Pb:残
135 165 低融点用
Bi-Sn系 Bi58Sn A H42Bi58A Sn:42,Bi:残 139 139 低融点用
Sn-Pb-Ag系 Sn62
PbAg2
A H62Ag2A Sn:62,Ag:2
Pb:残
179 190 銀入り、銀食われ防止
Sn-Ag系 Sn96.5Ag A H69Ag3.5A Sn:96.5
Ag:残
221 212 銅配管用、高温用
Sn-Sb系 Sn95Sb A H95Sb5A Sn:95,Sb:残 235 240 高温用、銅配管用、特殊用
Pb-Ag系 Pb97.5Ag A HAg2.5A Pb:97.5
Ag:2.5
304 304 高温用、特殊用
Pb-Ag-Sn系 Pb97.5
SnAg1.5
A H1Ag1.5A Pb:97.5
Ag:1.5,Sn:1
309 309 高温用、特殊用

JIS規格 錫−鉛ハンダの等級別化学成分

等級 Snの許容差
(%)
化学成分(%)  
Pb Sb Cu Bi Zn Fe Al As Cd
S ±1 残部 0.10
以下
0.03
以下
0.03
以下
0.002
以下
0.02
以下
0.002
以下
0.03
以下
0.002
以下
等級 Snの許容差
(%)
化学成分(%)
Pb Ag Sb Cu Bi Zn Fe Al As Cd
A ±1 残部 - 0.30
以下
0.05
以下
0.05
以下
0.003
以下
0.03
以下
0.005
以下
0.03
以下
0.005
以下
等級 Snの許容差
(%)
化学成分(%)
Pb Sb Cu Cd その他の元素合計
B ±1 残部 1.0以下 0.08以下 0.005以下 0.35以下

JIS規格 やに入りハンダの種類

種類 Snの含有量および許容差(%) ハンダの等級 フラックスの等級 フラックス含有量(%) 外形(mm)
RH63 63±1 JIS Z 3282のA級 AA,A,B 1〜3 0.3,0.4,0.5,
0.6,0.7,0.8,1.0,
1.2,1.6,2.0,2.3,
3.0
RH60 60±1
RH55 55±1
RH50 50±1
RH45 45±1
RH40 40±1

JIS規格 やに入りハンダのフラックスの特性

項   目 フラックスの等級
AA A B
乾 燥 度 試験片はいずれからもチョーク粉末が容易に除去できること
塩素含有量(%) 0.1以下 0.1を超え0.5以下 0.1を超え1.0以下
腐  食 銅板腐食 試験片はいずれも比較試験片と比較して腐食が大でないこと
銅線または
銅メッキ板腐食
試験片は標準フラックスと
比較して腐食が大でないこと
水溶液抵抗(Ωm) 1000以上 500以上
絶縁抵抗(Ω) 1×1012以上 1×1011以上 1×109以上
電圧印加耐湿度 Ω 1×1012以上 1×1011以上 1×109以上
目 視 試験片の各部に著しい腐食がないこと
広がり率 75以上 80以上