実効値直流変換器の実験レポート

 仕事がら、電圧や電流をモニターする回路を客先から要求され、組み込み機器などでよく作ります。特に高電圧関係をしているときは、安易にハンディーテスターなどで測定できない実情があり、高圧プローブ(下記参照)のようなものを使います。
 そんな中、 交流電圧/電流を測定するモニターの要求があり、すぐに思いつくのは市販の交流メーターでした。市販のメーターはアナログもあればデジタルもあります。また変換器の様なものもあり、メーター表示やモニター信号としては容易に仕組むことも可能です。
 今回は、交流を直流に変える仕組みの一つの方法を、勉強のつもりで実験を行ったので、レポートとして掲載致します。

 高圧プローブの色々

※ 各社の高圧プローブでの重要なスペックを紹介します。

レクロイ社、PPE20K、10000:1、100MHz、50MΩ、20kVp(DC+ACpeak)


横河電機、701945、100:1、400MHz、50MΩ、6kVpeak、\35,000


岩通計測梶AHV-P60、2000:1、50MHz(-3dB)、1GΩ、DC60kV


フルーク、Model 80K-6、1000:1、500MHz、75MΩ、6kV、\18,300


松栄研究所、SP-215、1000:1、50MHz(-3dB)、330MΩ、DC.15kV、\120,000


Agilent Technologis、N2771A、1000:1、50MHz、100MΩ、DC30kV/AC10kVrms


日本テクトロニクス、P6015A、1000:1、75MHz、100MΩ、20kV(DC+ACpeak)


 ここに紹介した高圧プローブはほんの一部であり、ほとんどが1MΩ入力インピーダンスのオシロスコープに接続して計測するものです。高圧プローブは上記の他に、天を見上げるような数十メートル級のものもあり、その分電圧も非常に高いものまであります。プローブの選定ポイントは、「電圧 」、「直流?交流?パルス?の種類」、「印加可能周波数」、「分圧比」、「取扱易さ」、「価格」などが挙げられ、特に注意するのは「周波数と電圧 」の関係です。過渡現象などを計測する場合、この関係が性能のすべてと思って頂いても良いと思います。その他、直流だけ!交流だけ!パルスだけ!と限定したプローブもあります。面白いところでは差動高圧プローブ なるものがあり、40kVまでは市販されています。もちろん高性能なほど、価格は高いのですが!

 交流メーターや変換器の色々

※ 特にメーター系はデジタルメーターを中心に重要なスペックをご紹介します。

富士電機テクニカ梶AWA5シリーズ、12.5回/秒(max)、f=40〜1kHz(max)、応答=約1秒(10%-90%)
富士電機テクニカ梶AWA6シリーズ、2.5回/秒(max)、f=40〜60kHz(max)、応答=約1秒(10%-90%)
富士電機テクニカ梶AWA7シリーズ、2.6回/秒(max)、f=未公開、応答=約1秒(10%-90%)

旭計器梶AA5000シリーズ、12.5回/秒(max)、f=40〜1kHz(max)、応答=約1秒(10%-90%)
旭計器梶AA6000シリーズ、2.5回/秒(max)、f=40〜60kHz(max)、応答=約1秒(10%-90%)
旭計器梶AA7000シリーズ、2.5回/秒(max)、f=40〜1kHz(max)、応答=約1秒(10%-90%)
旭計器梶AA8000シリーズ、12.5回/秒(max)、f=40〜1kHz(max)、応答=約1秒(10%-90%)

旭計器梶ATZ-1EAシリーズ、f=40〜1kHz、応答=0.7秒(90%)、直線=0.2%FS、AC100V駆動
旭計器梶ATZ-5EAシリーズ、f=40〜1kHz、応答=0.7秒(90%)、直線=0.2%FS、DC24V駆動
旭計器梶ATZ-5DAシリーズ、f=40〜1kHz、応答=0.7秒(90%)、直線=0.2%FS、DC24V駆動

OMRON、K3HB-Xシリーズ、50回/秒、f=40〜1kHz、応答=0.42秒以下(15%-95%)

鶴賀電機梶A451F/452Fシリーズ、2回/秒、f=40からkHz、応答=約1秒以内

潟^ートル工業、T-RMS01、f=20〜160kHz、応答=0.5秒(5%-95%)、直線=0.5%FS、\5,145
潟^ートル工業、T-RMS01ISA-X、f=20〜160kHz、応答=0.5秒(5%-95%)、直線=0.5%FS、\8,2955

潟Gム・システム技研、M-UNIT ACシリーズ、f=40〜1kHz、応答=0.7秒(0-90%)、直線=0.4%FS、\70,000
潟Gム・システム技研、M2ACシリーズ、f=40〜1kHz、応答=0.7秒(0-90%)、直線=0.4%FS、\55,000

 私が良く使う代表的なものを紹介致しましが、交流電圧を測る方法は様々で、一版的には「シャント抵抗」、「CT」などで変換させたのち、メーターに入力する方法があります。他には「ホールIC」などを使う方法もあり、 こちらはDCも測定可能です。選択のポイントは、正しく計測するための計測形態があり、どこを計測するかによって使うセンサーなどが決まります。また重要な仕様として「応答時間」があります。交流を直流に直すにはそれなりの時間がかかります。早い現象をとらえるにはこのスペックが一番ポイントなります。 変換方式も色々な方法があります。各社ユニークな製品を出していますので、一度メーカーサイトの情報を見ることをお勧めいたします。高電圧の世界での電圧計測は一般的に「PT」と呼ばれる高圧トランスのようなものを用い、メーターと合わせて使用します。

 話が少しずれましたが本題に戻って、上記の一種の計測器はどれを見ても素晴らしいものばかりで、その分お値段もけっこうします。潟^ートル工業社の品物は結構良いのですが、価格はそれ相応にリーズナブルですが、後処理をしなければなりません。

 RMS-DC変換器IC LTC-1968の評価試験

 今回使用したのはリニアテクノロジー社LTC-1968と言うICです。Webサイトを色々探すとけっこうありますが、最も簡単に構成できそうなものを選んでみました。目標は商用周波数(50/60Hz)での交流電圧をどれだけ正確に、また幅広く変換できるかをテーマにしてみました。 このICの詳細データーをここに乗せると大変なので、下記のリンクを張っておきます。まずはご一読下さい。

LTC1968のデーターシートのありか!英文ですけど ヾ(ーー )ォィ
https://www.analog.com/en/products/ltc1968.html

https://www.analog.com/media/jp/technical-documentation/data-sheets/j1968f.pdf  ←日本語データがありました!

 入手方法は様々ですが、取り急ぎメーカーにサンプル請求する方法で、実験に必要な2個程度のICが無償で送られてきます。私はその方法で入手しました。忘れた頃に送られてきましたので早速袋を開けてみたところ、データーシートとICが入っていたのですが、これがまた小さく、 MS8と言う8Pinパッケージで、足のピッチ間は0.65mmのものでした。実際に購入するとなると温度特性によって値段が異なりますが、安いもので5.21ドルとありました。実験するには小さすぎるので、幸い秋月電子で販売している 変換基板が手元にあったので搭載してみました。

↑ 手はんだでICを変換基板に搭載してみました。この状態でブレードボード上で実験が行えます。

 早速、いつものブレードボード上に載せるわけですが、まずは回路を検討しなければなりません。冒頭でも触れましたが「簡単」と言う理由で選択したわけですから、どれほどのものか、下記の回路図で見て下さい。

 データーシートに載っていたのは上の回路図です。恐ろしいほど簡単です。しかし!このままで本当に動くのか実験してみましたが、ちょっと工夫がいるようです。とにかく「簡単と言うコンセプトは譲れないので、±電源すらしたくありませんでした。この回路のままだと値が電圧が高くなるにつれて不安定になり、 しっかり変換してくれません。特にACの入力端子がCカップルされているので、入力インピーダンス周波数の影響で値が大きくズレてきます。一度組み込んで体験して見て下さい。変換済みのIC搭載基板があれば数分で構築できます。  何かいい回路はないのかなぁーと色々探していたところ、データーシート内に下の回路を見つけました。

 上記の回路の左は、Audio Amplitude Compressor、右はRMS Current Measurement と書いてありました。注目すべき点はIN1端子とIN2端子の使い方です。どちらかをGNDに落とす最初の回路とは異なり、1/2V+のバイアス をかけ、Cを追加している回路との違いです。詳細原理まで掌握していませんが、上の回路と下の回路とでは、変換後のばらつきが電圧の高いほど大きくなる現象がありました。

← 左の写真を見れば、大枠どのような回路構成にしているか、説明をするまでもありませんね!入力は右のリード線、出力は左の黄色いリード線でそれぞれ、テスターとオシロスコープで観測しました。駆動は単電源+5Vのみです。
 評価結果

入力50Hz(左上PG出力設定)、20mVrms Sin波形(上波形写真)
出力(左DM値)、19.8mV


入力20kHz(左上PG出力設定)、20mVrms Sin波形(上波形写真)
出力(左DM値)、19.9mV


入力20Hz(左上PG出力設定)、200mVrms Sin波形(上波形写真)
出力(左DM値)、199.7mV
※ なぜか20Hzでサンプリングしてしまいました ?c(゚.゚*)エート。。。


入力20kHz(左上PG出力設定)、200mVrms Sin波形(上波形写真)
出力(左DM値)、200.6mV


入力20Hz(左上PG出力設定)、1Vrms Sin波形(上波形写真)
出力(左DM値)、0.9994V


入力20kHz(左上PG出力設定)、1Vrms Sin波形(上波形写真)
出力(左DM値)、1.0065V

 総  評

 結果を見る限り、いい加減な組み方にも関わらず、かなり良好な内容になっています。通常のアナログメーター(一般的には2.5級や1.5級クラス)に置き換えての使用は、十分OKのようです。ここには載せておりませんが直線性においても20mVrms〜1Vrms、周波数 20Hz〜20kHz範囲で、1%FS以内入っていたことを報告します。
 気になることは、入力にしろ、出力にしろともにインピーダンスが高そうに思え、近くに変な発信するものをもってくると、影響を受けるようです。出力にはバッファアンプを入れると良いでしょう。また、入力にもバッファアンプなどを入れた方が良さそうですが、もし直にセンサーなどを接続する場合は必ず保護素子など入れておくとよいでしょう。 また入力波形の歪み等にどれほど影響されるかも評価してみたかったです。(次の機会にでも!)さらに応答について調べる予定でいます。その時にでもまたアップします。
 このICのスペックは本来、もっと良いはずです(データーシート参照)。今回はいい加減に配線した状態でこれほどの性能が出たわけですから、組み方によってはかなり性能アップが見込まれます。感じとしては素晴らしいICです。