ただ今の日時:

人工雷を作ろう! 計算編


高電圧専科雷Impulse

 はじめに、人工雷は通称、「衝撃波電圧発生装置」または「インパルス電圧発生装置」、「マルクスジェネレータ」などと呼ばれ、現在では インパルス電圧と呼んでいるのがスタンダードです。文字通り、人工的に雷を発生させるわけですが、原理は一口で言うと、「コンデンサーにエネルギーを溜めて、放出(放電)させる」だけです。また人工雷は誰にでも作ることができます!
人工的に雷を作るには、いくつかの準備しなければならないものがあります。それら主要なものを下記に示します。

1.コンデンサーに電荷を溜めるための充電器
 一般的には直流高圧充電器と呼ばれるものを用意します。単純な構成をしたものでは、一次側の商用交流電圧から電圧調整用摺動器スライダック)を置き、 その出力に昇圧トランス(通称、試験用変圧器と言うのもで絶縁油入りトランスです)の一次側に結線します。昇圧トランスの二次側高圧出力となり(通常、交流(AC)高電圧)、高圧用整流器ダイオード)を接続し、平滑用高圧コンデンサーを接続して、 直流の高電圧を作ります。その直流をインパルス電圧発生装置のメインコンデンサーの充電器として使用します。これらの構成は簡単ではありますが、形状が大きく広い場所を必要とします。現在主流なのは、 インバーター方式の「直流高圧安定化電源」なるものが市販されており、非常にコンパクトで、机の上に置いて高電圧を発生することができます。主な原理は「 コッククロフト・ウォルトン回路」と言う昇圧回路を応用した製品が主流です。グッチーテックもこの高圧安定化電源を可能な限り小さいものを自作する予定でおります。
2.インパルス電圧発生装置
 インパルス電圧波形は、JISJECIEC などで規定されており、(別のページにある「インパルス電圧の基礎講座」の「インパルス電圧の技術資料」を参照)、それらの波形を作るため、受動部品LCRで構成されております。 この中で欲しいエネルギーが分かれば、大枠の受動部品の定数が判明します。今回はこの定数についてご紹介致します。
3.放電装置
 溜まったエネルギーを放出させるには、何かスイッチみたいなものが必要になります。簡単なものでは「球ギャップ 」があります。球と球を向かい合わせ、放電するかしないギリギリのところに球間をセットし、最下段からトリガー放電電圧を印加してやると、上段に積み重ねた球とコンデンサーが次々に直列に放電(接続)され、雷が発生します。この他にも色々な放電装置がありますが、ここでは詳細を割愛します。 別のページで紹介しております文献などに載っておりますのでぜひ、参照してみて下さい。
4.計測装置
 発生したインパル電圧を正しく計測するためには、専用の高電圧分圧器が必要になります。小さいものでは数kVから、大きいものでは数千kVまであり、観測装置 (通常デジタルオシロスコープなど)と組み合わせて計測します。現在ではその波形を解析する装置もあり、雷を印加した試料(ケーブルやトランス、高圧スイッチ、雷保護素子など)の解析に使われております。
(財)電力中央研究所にあ1,200万ボルトの
インパルス電圧発生装置
日本工業大学にある300万ボルトの
インパルス電圧発生装置

 さて、人工的にインパルス電圧を発生させるには、規定されている波形や基本回路を理解しなくてはなりません。まず以降の内容を読む前に「人工雷の基礎講座」ページの「インパルス電圧の技術資料 」を先に読んで、予備知識を頭に入れておいて下さい。下記の二つの回路はそのページでも紹介されたインパルス電圧発生回路の等価回路です。今回はこの回路を使って、定数を計算してみます。

(a) Lで波頭長を作るIG等価回路(b) Cで波頭長を作るIG等価回路

  計算方法は、文献でも紹介されているよう、さまざまのやり方があります。私が推奨するのは、「JEC-0202 1994年 インパルス電圧・電流試験一般 」に紹介されている方法です。算出例もいくつか紹介されており、これから人口雷を製作される方は、ぜひこの本を入手して手元に置いておくと、便利です。今回はこの中で紹介されている計算方法に、グッチーテックがアレンジした方法を紹介致します。

規格本の入手先

https://www.iee.or.jp/cfml/OA/front/NonAuthenticate/bookpur/fbo_BookList.cfm?Kubun=9

グッチーテック入手しました! 上記のWebサイトから購入しました。 ъ( ゚ー^)イェー♪

JEC-0202 1994年
インパルス電圧・電流試験一般
JEC-0201 1988年
交流電圧絶縁試験

 上記の規格本の中身全てを紹介するわけにもいきませんので、一部の計算例とグッチーテックがアレンジした計算例をご紹介します。ところで、グッチーテックは何をアレンジしたのかと言うと、この本には大半、とあるグラフから数値を読み取り、その値を式に代入して定数を導き出す 方法が記されています。このグラフについて、波形が変わるたびに読み取るのは面倒なので、近似式を作ってみました。インパルス電圧の定数を出すために使用するグラフはおよそ6個あり、中には一つのグラフに3つの数値を読み取らなければならないものもあります。結構大変ですが、一番てっとり早く計算できるので、推奨しております。
※ 申し訳ございませんが現在、近似式算出手法は、掲載を見合わせております。見通しが立ち次第、ご紹介したいと思います。m(__)m

 計算前の確認事項

通常、インパルス電圧発生装置を購入する場合、最低限必要になる条件があります。主な内容を下記に示します。

1) 印加電圧
 試験する負荷、あるいは印加する試料に何ボルトのインパルス電圧を印加するかによって、装置の性能や大きさ、価格などに影響されます。また、インパルス電圧発生装置の性能も、一般的にはワイドレンジに発生する事は困難で、一般的に最低電圧10〜20% 程度であると言われています。従って、大きなインパルス電圧発生装置で小さな電圧での試験は精度や安定性に問題が出る可能性があります。
2) エネルギー
 必要とするエネルギーによっても、装置の大きさや価格などに大きく影響します。インパルス電圧発生装置の使用用途は多種にわたり、変わった使い方としては、「試料を破壊」させたり、「試料を歪ます 」などにも使われる例があります。一番良く使われる試験として、試料(トランスやケーブルなど)などの絶縁耐量縁面距離などの評価に用いられます。このエネルギーの選択は電圧の大きさに次いで最も重要なファクターになりす。よく検討する様にしたいものです。
3)  試験する試料の種類
 試験する試料は、電気的な等価状態を確認しなければなりません。抵抗分だけの試料か、容量性(CL )を持った試料なのか、またはその複合か、あるいはギャップ(空気)なのか・・・・などによって、構成するインパルスの内容が変わってきます。具体的には、空間距離や縁面距離などの試験が主な場合、波頭長調整用には「インダクタ: 」を使ったインパルス電圧発生装置を用い、ケーブルやトランスなど、容量性のある試料の試験などには波頭長調整用に「コンデンサ」を使ったインパルス電圧発生装置をそれぞれ用途に合わせて選択します。
4) 試験波形
 印加する波形の大半は、JISJECIEC などによる規定があります。その規定通りの波形を発生する装置でなければなりません。エネルギーと関連し、長く印加する波形になればなるほど、コンデンサーの容量も増え、大きさや価格などに影響を及ぼします。

 定数を導き出すまでの手順

 定数を導き出すには、上記の規格本に記されている通りに行えばできますが、難しくなる要因があります。それはエネルギーが大きくなればなるほど、インピーダンスは下がり、使用する受動部品の定数値が小さくなります。 例えば回路インピーダンスが2Ωと低い場合、0.1Ω(5%)の値が非常にシビアなものになります。材質などの影響もあり、部品などをネジで取り付ける構造の場合、締め方によっては接触抵抗の影響が出ることがあります。 また波頭長調整用インダクタLの値が非常に小さい値の場合、1uHあたりの依存度が重要になり、普通に電線で引き回すと、それだけですぐに1μHになってしまい、計算通りにはいかない事態になります。 そのあたりを十分気を付けて、定数を導き出してください。さらに大きなインパルスになれば構造全体と大地間に 浮遊容量が大きくなり、波形に影響を及ぼします。
 私が最も推奨するやり方は、まず上記の規格本や文献で定数を算出し、そのあと「回路シュミレーション」で必ず動作確認を行うことです。最近のシュミレーションソフトであれば、 無料のデモ版や機能制限版、雑誌や冊子の付録にあるCD-ROMなどに収録されているものなどがあり、インパルス電圧の回路なら十分に使えるものがたくさんあります。ちなみに私が良く使うものは下記のものがあります。

← これらの書籍は、CQ出版社から販売されているものです。左側が入門編で、CD-ROMが添付されています。このCD-ROMの中に機能限定版のプログラムがあり、それを使いシュミレーションすることができます。

※ ここで使用するプログラムのインパルス電圧のシュミレーションデータの一部例を無償にて提供しております。ご入用の方は直接メールを頂ければ、 お分け致します。まずは氏名会社名(学校名や勤務先名)、メールアドレス(MSN、YAHOO、Googleなど無償で配布されるメールアドレスは禁止です)、などを任意に入力してして、「インパルス電圧シュミレーションデータ希望」と一文を記述してご連絡頂ければOKです。


 計算概要

 具体的な計算方法はJEC規格の書籍を購入して頂き、確認して頂きたいと思います。一部、「人工雷の基礎講座」ページの「インパルス電圧の技術資料」の資料の中でも紹介させて頂いており、 ページの末に紹介しています書籍にもJECでの算出方法が載っているものがあります。合わせてご参照ください。特に詳しく載っていたのが「基礎 高電圧工学」、九州大学名誉教授 赤碕正則・工学博士著者 鰹コ晃堂出版の書籍でした。
 それでは、先ほど紹介しました等価回路で、(a)で波頭長を作る計算例と、(b)で波頭長を作くる計算例をJECの一部を抜粋して計算の概要からご紹介します。 グラフはわざと見にくくしております。オリジナルはJEC-0202 1994年版を入手して参照下さい。

 波形が与えられた場合の回路定数および利用率の算定

 等価回路(a)と(b)の回路において、供試物を接続しない場合(無負荷)、出力端子における発生電圧波形はいずれも次式で表される。

・・・・・(参15)

 ここに、Eは主静電容量Cの充電電圧(各段のコンデンサ充電電圧×段数)、α、β、Aは回路定数のみから決まる定数で、
波頭長 T1、波尾長T2が与えられた場合、α、βは図10から求められる a、bと次式とにより算定される。

図10 a、bとT2/T1の図表図11 φ(k)とT2/T1の図表

・・・・・(参16)

・・・・・(参16)


 インパルス電圧発生器の回路定数を決定するに際しては、発生電圧の波形と共に、その利用率についても十分考慮しなければならない。
利用率ηは 図11で求められるφ(k)と次式とにより算定される。

 ただし ・・・・・(参17)

 等価回路 (a)の回路

 発生すべき波形のT1T2が与えられると、図11および図12より、 これに対応するφ(k)pq が求められる。この値と次式により回路定数と利用率とが算定される。

図12 q、p、r とT2/T1の図表

・・・・・(参18)

・・・・・(参18)

RsとRoとはその和が定まる。それぞれの値は利用率と発生電圧の振動防止を考慮して適当な値を選定すればよい。


ただし であり、φ(k)図11より求められる

 等価回路 (b)の回路

与えられた波形のT1T2に対するqr図12φ(k)図11より求めれば、次式により Rs、Ro、ηが定まる。

図13 m とT2/T1の図表

・・・・・(参19)

・・・・・(参19)

ただし


m図13より定まる値を用いる

 また、H には二つの値が可能であるが、+を用いたほうが利用率がよくなる。与えられた波形を発生する為にはγに上限(γm)がある。この上限は図14 に、また利用率が最大になるときのγの値(γo)とその場合の利用率(ηm)および(Hm)とが図15に示されている。

図14 γm とT2/T1の図表図15 γo、Hm、ηm とT2/T1の図表
 回路定数が与えられた場合における発生電圧波形の算定

 等価回路 (a)の回路

 C、Rs、L、Roが与えられた場合

・・・・・(参20)


より  を計算し、図16よりこれに対応する「u」と「」を求めれば、

・・・・・(参21)

図16 u、 の図表図17 φ(k) の図表

また、  とすれば利用率は、 となる。但し、φ(k)は(参20)式により算定

された の値と図17とより求められる。

 等価回路 (b)の回路

 C、Rs、Ro、Coが与えられた場合

  が定まり、                 ・・・・・(参22)


  

 より求められる

図16 による v を求めれば、  ・・・・・(参23)


・・・・・(参24)

が算定される。ただし、 である。

 等価回路(a)での実際の計算例

 C=0.0625uFのとき、標準波形1.2/50uS)を発生するための回路定数は次の様に算定される。

T1=1.2uS、T2=50uS、

図12より p = 0.46q = 1.37 図11より φ(k) = 0.976 従って、

= 441.6uH =1,096Ω

利用率η85%くらいを得るための「H」を   より算出 ⇒ = 0.871

 を変形して = 955Ω → 960Ωとする

従って、Rs=(Rs+Ro)-Roとなり、136Ω → 切りの良いところで 140Ωとする。

 C=0.0625uFL=440uHRs=140ΩRo=960Ωのとき、波頭長および波尾長は次の様に算定される。

より、 = 172 図16より v = 2.97u = 0.74 図17 より φ(k) = 0.98 が読み取れる。

= 1.19uS = 50.9uS

 等価回路(b)での実際の計算例

 C=0.167uFCo=15000pF(負荷容量)のとき、標準波形1.2/50uS)を発生するための回路定数は次の様に算定される。
         (※ Coは一般的に負荷として扱い、15000pFは例としている。実際は使用する負荷を確認すること)

 

T1=1.2uS、T2=50uS、  図12より q=1.37r = 0.33  図11よりφ(k)=0.976 を読み取っておく。

  より γ = 11.13

m図13より0.024が読み取れる。 従って k = 0.842 となる。

これにより、「H」を算出するが、解が二つあり、「」を用いた方が利用率が良いので「+」で算出すると、
H = 0.845 となる。

従って、 = 347Ω → 切りの良いところで350Ω = 31Ω→切りの良いところで30Ω

 C=0.167uFRs=30ΩRo=350ΩCo=15000pF のとき、波頭長および波尾長は次の様に算定される。

= 11.57  より γ = 11.13

= 0.85 = 178

= 178  図16より u=0.73v=2.98 図17よりφ(k)=0.978が読み取れる。

従って

= 1.14uS = 50.2uS

 計算結果の検証

 上記の計算は、「係数をグラフから読み取る」と言う作業を行って算出しています。この読み取りには当然人による読み取り誤差が存在します。それらを踏まえ、計算値を シミュレーションで検証してみます。使用するシミュレーションソフトは上で紹介しましたOrCAD社発売元、CQ出版販売の書籍にある「PSpice」を使います。簡単な LCR回路ですから、ノード数も少なく、今回の検証には問題なく使用できます。なお、具体的な操作方法は、ここでは割愛させて頂きます。ぜひ、書籍を入手して活用されることをお勧めいたします。基本的には、「プロジェクトの作成 」→「プロジェクトの名前入力」(保存先指定)→「回路図入力で使用するライブラリーを指定」・・・以上で回路図が描けます。

 等価回路の入力

 ソフトウェアを立ち上げ、下記の回路図と全く同じものを描きます。回路定数は上記で計算したものを使います。回路は等価回路(a)と(b)の両方を一枚のシートに描きます。


拡大します!

← 回路図の上が、波頭長をで構成する等価回路(a)です。 下が波頭長をで構成する等価回路(b)です。二つの波形を一度に出すためシミュレーション上、部品番号を電圧も含めて同じにできません。見たい波形はそれぞれ出力端子部に電圧プローブを付けています。


 シミュレーションの結果

 シミュレーションの結果を表示させますが、波頭長と波尾長を詳しく検証するため、「Simulation Settings」の「Analysis」の「RUN to Time」時間をそれぞれ、波頭長の時は「 10uS」、波尾長の時は100uSをそれぞれ設定し、2回に分けてシミュレーション結果を表示します。

波頭長波形を拡大します!
↑ 波頭長波形↑ 波尾長波形

 シミュレーション結果は上記をクリックすると拡大します。緑のラインは、L波頭長の等価回路(a)です。 赤のラインはC波頭長の等価回路(b)のシミュレーション結果です。

波頭長[uS] 波尾長[uS] 波高値[kV] 利用率[%]
等価回路(a):L波頭長 1.196 50.0 170 85
等価回路(b):C波頭長 1.14 50.0 166 83

※ 充電電圧:200kV

※ 出力極性:正極性


 偶然なのか?等価回路(a)も(b)も極めて計算値に近い値あが出ました!(人間がグラフを読み取るので、誤差は覚悟していましたが
(;^_^A アセアセ・・・

 計算に出てこない現実

 上記の計算とシミュレーションでの検証から、上記の通りに回路を組み立てても希望する波形(近いもの)は得られますが、高電圧の振る舞いは複雑なものがあります。一般的な回路を構成する場合を考えると、「 部品誤差」、「温度上昇」、「温度特性」、「電圧特性」などが依存し、高電圧になればさらに「耐電圧」、「 縁面距離」などのファクターも加味しなければなりません。さらに、等価インピーダンスが小さくなれば、引きまわす配線だけでインダクターLができ、この値が波形に影響します。また構造上ネジなどで止めている部品なども、 接触抵抗の依存度が高まり、波形に影響します。もうひとつ注意しなければならないのは「部品の構造をよく理解すること」です。例えばコンデンサーや抵抗などのリード線などはわずかながらインダクターを持っています。またケーブルトランスなどには容量成分(一般的にはC成分)が必ずあります。インパルス電圧発生装置の構成で、メインコンデンサー(C)をたくさん使う(多段インパルス)場合は、このL値が加算され、出力波形に影響します。 さらに大きなインパルス電圧発生装置で壁が近いなどの環境下では、「浮遊容量」の影響が出てきます。数千kV級のインパルスでは1000pF近い浮遊容量も存在します。
あらかじめ分かっているのであれば、シミュレーション段階で目に見えない部品のLやCを挿入して波形を確認しながら全体の部品の定数を微調整することができます。ぜひ、計算とシミュレーションの両方で検証すれば、希望する波形が得られます。