青学の母の日
金曜の午後6時。そろそろ大石が帰って来るころだ。
今日はあいつも学校へ出勤の日だったから、まず間違いなく大荷物で帰って来るだろう。
ピンポーン。
ピンポーン。
独特のリズムで、二回続けてチャイムを鳴らすのは、あいつのクセだ。俺が先に帰ってきてる日は、必ずこうしてチャイムを鳴らして、俺が扉を開けるのを、飼い犬よろしく待っている。一緒に暮らし始めたときからの約束で、何故か俺にドアを開けて欲しいらしい。まぁ、大した手間じゃないから、そのリクエストに応えてる。
「ほいほーい。おかえり〜♪」
玄関の扉を開けると、予想以上の大荷物を抱えた大石が、憮然とした顔で立っていた。
「おお〜!!すっげーな、それ。予想以上じゃん♪」
大石が両手に持っている紙袋には、1、2本づつ綺麗にラッピングされたカーネーションの花で一杯だ。
「・・・・やっぱりお前の仕業か、英二。」
「仕業って何だよ(笑)」
「今日、妙に生徒が医務室に尋ねてきて、来る生徒来る生徒、みんな謀ったようにカーネーションを持って来たんだよ。」
「へぇ〜。何でかねぇ・・・?」
「『何でかねぇ・・・?』じゃないだろう?!あまりにみんな持ってくるからその理由を聞いてみたら、『菊丸先生に聞いたんですぅ〜♪』って、皆口をそろえて言ってたが、心アタリは?」
「あー、何だよ。ばらしちゃったのかぁ〜。誰だろ・・・。」
「誰でもいいよ、そんなの。それより英二、お前生徒に何言ってんだよ・・・?!」
「え、いや。みんなさぁ、大石に興味津々なんだけど、カッコイイ大石センセ本人には恥ずかしくって直接聞けないから、中学時代からの親友の菊丸先生に、大石のことを色々聞いてくるわけだよ。でさ、オーソドックスに誕生日なんかを聞いてきたんだけど、もう終わっちゃってるじゃん?で、みんな残念そうだったからさ〜。誕生日は終わってるけど、もう一つ大石にプレゼントをしても大丈夫な日があるぞ?って、教えただけだよ?」
「・・・それが何で今日なんだ?」
「だって、明後日、母の日じゃんよ。でも日曜だから、今日?」
「何で母の日に、俺にプレゼントをしてもいい日になるんだ・・・?」
「だってお前、『青学の母』じゃんよ。」
「・・・・・・いつの話しだよ」
「今だって、生徒の相談にのったりしてんだから、お母さんみたいなもんじゃん♪それに、ほら。おチビと海堂から、それぞれカードが届いてるよん♪あいつらにとっちゃ、いつまでもお前は『青学の母』なんだなぁ〜(笑) おチビなんか、海外飛び回ってるってのに、毎年欠かさずカード送ってくるじゃんよ?」
「・・・・・・・」
「後輩からも、生徒からも慕われてるって証拠だよ。さすが『青学の母』!!」
玄関先でがっくりうなだれる大石の肩をたたいて、俺は相棒を、そう元気づけた。
「それより早く夕飯にしようぜ!今日はちょっといつもより奮発して夕飯作ったからさ♪」
「・・・・何でって聞いてもいいか・・・?」
「だって、明後日『母の日』じゃん♪」
「英二っ!!」
END