インプラント 審美歯科 東京


 朝から難題を吹っかけられ釈然としないまま出勤したは良いが、出された宿題が気になって、どうにも仕事に身が入らない。
 家に帰るまでまだ時間はたっぷりあるものの、俺のことだからうっかりして忘れてしまうってこともありうる。それに折角戻ってきてくれたのに、こんなことでまた機嫌を損ねたくないというのが本音だ。英二が誰でも知ってると言うからには、本当に誰もが知っていて、俺だけが知らない・・・というか気付いてない事なんだろうなぁ・・・。
 「何だ大石、朝から眉間にしわなんか寄せて。菊丸は戻ってきたのだろう?」
 「乾・・・。」
 朝一番にここに来るなんてめずらしいが、丁度いいところに乾がやって来た。これ幸いと俺は早々に自分で考えることを放棄し(英二からのお許しもあったしね)、早速乾に聞いてみることにした。
 「なぁ、乾、来月の第二日曜って何の日か知ってるか?」
 「来月の第二日曜日?」
 「ああ、なんか英二が言うには、祝日じゃないけど一般的に良く知られてる日らしいんだが・・・。」
 俺の質問に対し、壁にかかっているカレンダーをちらりと見て、呆れたような様子で乾が口を開いた。
 「・・・大石、カレンダー見たか?」
 「ああ、見たよ。来月の第二日曜だから、2月の14日だろう?建国記念日は11日だし、一体何の日なんだ?」
 俺の返答を聞いた乾は、がっくり項垂れてしまった。何だろう?そんなに有名な日なんだろうか・・・。
 「昔から鈍い鈍いと思ってたけど、君、とうとうやばいところまで行っちゃってるんじゃないの?」
 悩んでいる俺に追い討ちをかけ、更にとことんまで追い込んでこてんぱんにやり込める勢いのこの楽しげな声の主は、確認するまでもなく不二のものだ。どうしてこいつは、いつもこういうタイミングで必ず現れるんだろうか?『悩んでいる俺センサー』とかを持っていると言っても、俺は驚かないよ・・・。
 「最近、脳ドックとかも流行ってるみたいだから、一度見てもらったら?」
 「不二・・・、お前何でここに・・・。」
 「仕事で来たにきまってるだろ?」
 あぁ・・・今日は定期巡回の日だったか。
 校内に置いてある植物は、全て不二の店からのレンタル品だ。だから定期的にメンテナンスに来るのは判っているが、どうしてこうも変なタイミングとかち合うんだ・・・。校長先生、レンタル業者、変えてくれないかなぁ。でも、不二の店の植物はどれもこれもが質が良く、卒業生ということもあってか格安でレンタルさせてくれてるらしいから、無理だろうなぁ。不二の店の植物は他の店のものに比べて枯れにくいって話しだが、何か術でもかけてんじゃないだろうな。もしそうだとしても、俺はきっと驚かないよ・・・。
 「おはよう、不二。」
 詮無いことに考えをめぐらせてしまい、朝から疲れのピークがやってきた俺におかまいなく、乾は礼儀正しく不二に挨拶なんかしている。
 「おはよう、乾。やっぱり朝の始まりは、気持ちの良い挨拶からだよね。そこで項垂れてる鈍感君は、中学からの友人に挨拶することすら忘れてるようだけど?」
 確かにそうかもしれないが、そっちから挨拶すればいい話なんじゃ・・・。
 「何か文句あるの?」
 いや、よそう。不二に口で勝てるはずがない。ここは大人しく、相手の要求に従っておくに限る。
 「おはよう、不二。今日も良い朝だな。」
 「そんな疲れた顔して棒読みで言われても、ちっともいい朝じゃないよ。」
 挨拶だけでなく一言添えたのにこの仕打ち。一体誰の所為で、朝から疲れた顔になったと思ってるんだ。
 「・・・ま、いいか。英二から『あんまり大石をいじめるな』って言われてるし。ところで大石、君、本当にわからないの?」
 「え?何が?」
 「何がって・・・ついさっき、乾と話してただろう?来月の第二日曜日のこと。」
 「あ?ああ、その事か。全く心当たりが無いんだが、不二も知ってるのか?」
 「知ってるっていうか、今現在この学校にいる人間で来月の第二日曜のことを知らない人って、君一人だけだって言っても過言じゃないと思うけど?」
 「学校で俺一人って・・・そ、そんなに有名な日なのか?」
 不二を信用していないわけじゃないけど、一応乾にも確認を取ってみた俺の耳には、無常にも肯定の言葉。
 「まぁ、かなり有名な日であることは間違いないな。」
 「一体、何があるって言うんだ・・・。」
 不二だけではなく、乾までが肯定するほど有名な日。ここまで言われても全く心当たりがない俺は、本当に一度検査でもしたほうがいいんだろうか?
 「ねぇ乾、朝からこんなですっごいウザいんだけど、答え教えちゃっていいの?」
 「おそらく大丈夫だろう。朝一番で俺に聞いてきたということは、菊丸から既に『誰かに聞いてもいい』と言われてるはずだ。」
 何か二人とも、端からこの話題に英二が絡んでるって前提で話しをしているようだけど、俺、英二の事なんて何も言ってないのに、何で判ったんだろう?
 「ふーん・・・。じゃぁさっさと教えちゃってよね、乾。僕は仕事に戻るから。じゃぁ、また後で。」
 言いたい事だけ言って、いつものように唐突に不二退場。仕事に戻るって、ここのグリーンはメンテしないのか?
 「他を先に終えてから、またここに来るつもりなんだろう。」
 俺の疑問を知ってかしらずか、トレードマークである眼鏡を押し上げつつ、乾がぼそりとつぶやいた。そうか、後でまた来るのか・・・。今来たんだから、先にやって行けば楽だろうに。一体何しに来たんだか。
 「さて、俺もそろそろ高等部に戻るとするか。」
 そう言うが早いか、半ば呆けている俺を置き去りに、乾は出口に向かってしまう。ここで答えを聞いておかねば、不二が戻ってきた時に何を言われるかわかったもんじゃないっ!そう思った俺は椅子から立ち上がり、扉に手をかけ今にも出て行こうとしている乾を慌てて呼び止めた。
 「ちょ、ちょっと待って、乾!答えを教えていってくれよ。」
 「ああ、そうだった、すまん。来月の第二日曜、すなわち2月14日はバレンタインデーだ。ではな。」
 拍子抜けするほど答えをあっさり言って、乾はもう一度時計で時間を確かめてから足早に立ち去って行った。
 ああそうか、そろそろ1時間目が始まる時間だから急がないとな・・・・・って、そうじゃなくてっ!!
 バレンタインデーだって?!!
 バレンタインって言ったら、あれだろ?日本では一般的に、女性が好きな異性にチョコレートと共に愛の告白をしたりするやつだろ??最近じゃ単なる年中行事になりつつあるが、とにかくチョコレートが異常に売れるときだよな・・・・・・・・・・って、違うっ!!いや、それ自体は違わないけど、英二が言ってる日がバレンタインデーだったとは!!いくら俺だって、バレンタインデーくらいは知ってる。知ってはいるが、英二があんな言い方したもんだから、来月の第二日曜日と2月の14日とバレンタインデーが全く結びつかなかったんだよ。
 朝から俺を悩ませた原因が、バレンタインデー・・・。
 英二がこんな宿題を俺に出したのは、一体どういう思惑があっての事なんだろう?特に何かしろって事じゃないと思うけど、こんな誰でも知ってる日でさえすぐに返事ができなかったってところを問題視しろってことなんだろうか。

 とりあえず宿題の答えは判ったものの、この宿題に対する英二の思惑が計れない俺としては、あれこれ考えてはため息をつくというくりかえしで、やっぱり仕事が手につかないのだった。


 (もう少しだけ、続きます^^;)

いいテンションだ!