【070 堪らなく愛しい】
なあ、大石。
ん?
今から24時間後に月が地球に落ちてくるとしたら・・・お前、どうする?
え、月・・・?
うん。
月って・・・あの月?空の?
そう、その月。
その窓から見えてる、煌々と輝く月。
英二、月は毎年3センチくらい地球から離れていってるくらいだから、そう簡単に落ちてきたりしないって・・・。
・・・そういう事言ってんじゃなくて。
え?じゃあどう言う・・・・。
だから、月が落ちてくるんだよ?そしたら、地球はどうなると思う?
ああ、そう言う事か。
そそ。で、その時まであと24時間しかねぇの。
あと24時間後に死ぬって判ったら、お前どうする?
んー・・・。
それって、俺だけじゃないわけだろ?英二も両親も友達も、みんな同じってことだよな?
うん。それどころか地球が終わるかもしんない。
あはは、地球の終わりか・・・そうか・・・。
でも・・・そうだな、特に何もしないかな。
何も?
そう、特別なことは何も。
そう言う英二はどうするんだ?
俺?俺も何も。
何も?
あ、学校はサボる。
あははは! 英二らしいな。
だって、あと24時間で死ぬって時に、学校なんか行ってらんないっしょ。
まあ、そうかも知れないけど。
そ・れ・よ・りっ!俺のことはいいから、大石がどうするかって聞いてんの!!
ああ、はいはい。
って、だから、特に変わった事は何もしないと思うけど・・・。
どこか出かけるって行っても、きっと街中大パニックだろうから、そんな殺伐とした光景見たくないし。
あ、でも最期なんだったら、おおっぴらにデートでもする?
何だよそれ(笑)
だって、その後の心配とかする必要ないし良い考えだと思ったんだけど・・・だめか?
ダメじゃないけど・・・俺も殺伐とした街にわざわざ出かけたくないよ。
それもそうか。
じゃあさ、大石が特に何もしないってんなら俺の計画に付き合ってよ。
英二の計画?
そそ。
どんな計画なんだ?
月が地球にキスする瞬間まで、俺らもずーっとキスすんの。
月が地球にキスか・・・。
そんで、そのまま死んだ後も、ずーっとキスし続けんの。
ずーっと・・・?
うん、ずーっと。
どうよ、俺たちの最期にふさわしい過ごし方だと思わねぇ?
ああ、確かにすごく相応しいかもな。
だろ? んじゃ、約束!
そん時が来たら、ずーっとキスだかんな。
了解。
今からそのときが楽しみだな。
いや、地球最期の日かも知んないから楽しみにしなくてもいいんだけどさ。
あはは、そうだったな。
でも、その後も英二とずーっと一緒なんだろ?
うん。
なら、やっぱり楽しみだよ。
そうだ! 来るべきその時に備えて、予行練習しとこうか。
予行練習?
ああ。
24時間はちょっと無理だから、とりあえずは夜が明けるまでの数時間だけだけどね。