【006 もう一度だけ】
僕のあのヒトが還ってこなくなってから
一体
どれくらいの月日が経ったんだろう。
あの人がここを出て行った最期の日から毎日
僕はここでこうして待っているのに
僕のあのヒトがここに還ってくることは
きっと
二度とない。
あの人が還ってこなくなったのは
まだ
この樹が緑色に覆われていた頃。
それから幾度
こうして
風に散りゆく桃色の花弁を
僕は眺めているだろう。
ほんとは
あの人は毎日ここへ帰ってきていることを
僕は知ってる。
でも
僕のあのヒトが『ここ』に還ってくる日は永遠にやってこないだろうことも
僕は知っている。
それでも僕は
僕のあのヒトがここに還ってくるのを
いつまでも待ち続けるんだ。
せめて
この僕の短い命尽きるその瞬間だけで構わないから
もう一度だけ・・・。
(2008/05/04初出『恋風』を加筆修正)
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