あの日
あのひとが帰ってきて
本家は夜通しの宴にわいた
俺はその末席でいつもの賑わいをとりもどした本家の姿に安堵を覚えると同時に寂しさを感じてた
宴の席で会った以外ではほとんど顔もあわさず
言葉を交わしたのもその時の数回
それでもいいと思った
それでよかった
俺には今この胸の中にうずまいてる感情がわからないから

本家から帰ってひとりシマである街を歩く
古い街並みを抜けて少しひとのすくない神社の前で足がとまった
近くには博物館や店もあるが博物館が閉館した今では人通りも少ない
薄暗い木々の間を抜けて鳥居をくぐる
何故
そこに足が向いたのか
そんなことは必然だった

あのひととの思い出の場所

あの日
あのひとにずっとついていくと決めた
あの時
心の中に新しい想いが生まれた

そんなに前の事じゃないのに
ひどく懐かしく感じたのは感傷だろうか

木々の間から漏れる夕日を見上げる

と、背後から小枝を踏む音が聞こえて振り向いた
「・・・リクオさま・・・」
気配なんてしなかった
かれはにっこりと微笑んで俺を見上げてくる
「お体はもういいんで?」
うん。とうなずいてゆっくりと歩みよってくる
なんで?とかどうして?とか
そこまででかかった言葉が喉でひっかかって吐き出せない
「ここに来たらさ」
何かを懐かしむような目で彼が呟くように言った
「猩影くんに会えるような気がしたんだ」
「・・・え」
「ずっと。ずっとちゃんと会えてなかっただろ?会って話がしたかったんだ」
「そんな・・・」
なにを?
何故か気圧されたみたいに無意識に一歩
後ろに下がった
「なんで逃げるの?」
「にげてなんか・・・」
「嘘」
また一歩下がりそうになるのを必死でこらえる
俺は何から逃げてる
何をおそれてる?

「ぼくから逃げるな」

まっすぐな ひとみ

「あなたは・・・」
言葉がうまく出てこない
「あんたが・・・っ」

くそっ

白い細い手がのびてくる
頼りないそれが俺のてを掴む

「僕はどこにもいかないよ?」
困った顔
「あんたは・・・妖を統べるものだそのうつわだ」
だから・・・

みんなのものなんだろう?

どこか手の届かない遠くへいってしまったんだろ?

「馬鹿だなあ」

なんだか泣きたくなった
いろんな感情がぐしゃぐしゃになって
やっと息と一緒に吐き出せたのは

「すきです」

気づけばその頼りないからだをだきしめていて
でも、抱きしめてるようでその実抱きしめられていたのは俺の方だったのかもしれない

「うん、知ってる」

あたたかいよく知った体温

「好きです」

ぽんぽんと背中を叩かれる
少し背伸びしたからだ
「おかえりなさい」

涙声になっていたかもしれない
でもそんなことは関係なかった
あなたが
愛するひとがここにいる
ここに帰ってきてくれた


「ただいま

ぼくも、すきだよ」


end.