‐桜想ふ‐


「猩影くんてかわいいわねー」
さっきまで洗濯物を干していた氷麗が手をとめて呟いた。
「な、なんすか急に」
縁側の柱によりかかって携帯をいじっていた猩影が驚いて顔を上げた
氷麗は猩影のそんな様子を気にした風もなく庭の桜の木を見上げる
「ねえ。若をどう思う?」
そうね、と考える仕草をしてから夜の若は?
と振り向く
さっきから唐突すぎる氷麗の言葉に戸惑いながらも言葉を選ぶようにゆっくりと吐き出す
「すげえ・・・と思いますよ。妖怪としてまだお若いのにあれだけの畏れと懐の深さ」
今までの出来事を頭の中で繰り返すように猩影も桜の木に目を向ける
「じゃあさ」
にっこり笑う氷麗
「昼の若は?」
いつもの優しく快活な笑顔とは・・・違う?
「猩影くんにとっての昼の若ってどんな存在?」
「どんなって・・・」
思わず考え込んでしまう
「昔はわかんなかったけど・・・底知れないひとですよね」
「そうねー前は若のこと信頼してなかったものね」
と氷麗はおかしそうに笑う
「そんな・・・」
「でも今は大好きでしょ?」
その言葉と表情にああ・・・と猩影は思う
このひとは俺が思っている以上にリクオそのひととその周囲を知っている、と。
ことリクオに好意を持っている人間に対しては
「くやしいわねー」
いつのまに終えたのか干し終えた洗濯籠を抱える氷麗。
「幼いころから、ずっとずっとお慕いしているけど。若のおそばにいる猩影くんを見ると正直悔しくなるわ」
そしてもう一度
「大好き、でしょう?」
と微笑む。
なんと答えたらいいんだろう・・・
猩影は氷麗のまっすぐな瞳から目を離せないまま言葉を紡げないでいた。
「負けないわよ?」


ねえさん、あんた・・・

長い ながいため息

「こわいひとっすね」


end.