「何処へゆく」



「あんたなんか、大っ嫌いだ!」

大声だしてはたと気付く。
まわりから向けられる、目、目、目。
当の言われた本人は感心したように笑う。
「おまえも言うじゃねえか」
いやいやいや
そういう場面でなくて
そしてガヤガヤしだす彼の側近達。
「リクオ様の何が気に入らないんだ?」
「そーよ、こう見えてなかなかに頼りがいのあるお方よ」
う・・・
こっちだって全くその存在を認めていないわけじゃねえ
ただ
いろいろあんだよっ
なんだか色々と居たたまれなくなって本家を飛び出した

家に帰るのも面倒で近くのファストフード店に入って頭を抱えた。
なんだこれ
家出坊主か
反抗期のくそがきか
でも自分へのモヤモヤと同じくらい彼への釈然としない気持ちもふつふつと湧いてくる。

なんだあれ。
夜は夜ですかしやがって人を小馬鹿にしたみてえにして
いい加減俺についてこい諦めて認めろと言いたげに笑う。
昼は昼でいい子ぶりっこ優等生
人にも妖にもニコニコ
何考えてるかさっぱりわかんねえ
のらりくらりと周囲をけむにまくそれがぬらりひょんの本質だと言うけどアイツは違う
ただの定まってないだけのやつじゃねえか

「よっ」
肩を叩かれて振り返る
そこにはヘッドフォンをつけた少年の姿をした・・・
「河童さん」
「もんもんしてるねー青少年」
飄々として手にしたコーラを飲む
古い妖怪のくせに案外今時だ
その姿は友達とだべる学生にしか見えない
「そんなに若が駄目かい?」
そんな・・・
「駄目ってわけじゃねーんすよ」
「ならなんで」
なんで、と問われて言葉につまる。
気に入らない事、釈然としないことはたくさんある。
でもどこか妖としても一度人と混じって生きようとした人間的な思考の上でも
惹かれる部分があるのも事実。
それでも
それでも納得いかねえ
何も言わない俺に河童の兄貴は何を納得したのか「ふーん」と呟いた。
「猩影にとって奴良リクオってどんな奴?」
どんな奴って・・・
「わけわかんねえっすよ」
その一言につきる気がする
「昼は偽善者みたいに笑ってばっかりで何も見せねえ。そのくせに夜は頭にたつのが当たり前みたいにひとを従わせようとしやがる」
兄貴は白けてきた窓の外を見上げながらまた「ふうん」とだけ相づちをうった。
「大変だね、おまえも」
「え?」
何がっすか
「無理して合わせる必要もついていく必要もないんじゃないの?」
まるで彼を否定するみたいな一言。
「猩影の好きにすればいいよ」
言って、射し込む朝日の中伸びをした。

と、
目の前の窓がコンコンと叩かれる。
「え」
そこには頼りない見慣れた笑顔。
なんか見透かされてたみたいでどきっとした。
彼は窓越しに口の動きだけで「帰ろう?」と言った。
どこへ?
「さー行こうか」
河童さんが立ち上がる。
困惑する俺に「何緊張してんだ?」と笑った。
しぶしぶ後ろに続く。
「ゆうべは夜の僕がごめんね」
そう言って彼はすまなそうな顔をした。
そうじゃない
そうじゃないんだ
「でもね」
太陽の光の中振り返る。
「そのくらい反抗的な方が面白い、ってさ」
笑った顔が夜の闇をおびていた気がして足が止まる。
「我ながら勝手だよねー」
「そんなの昼も夜もいつもでしょう」
河童さんが呆れたように頭の後ろで手を組んだ。
「そう?まあ僕だからね」
二人の後ろをついて歩く。
朝日に伸びた長い影をたどりながら。
ついていくと決めたわけじゃない
自分が何処へ向かうかもわからないまま
とりあえず歩くしかないんかね

やっぱり

「よく わかんねえや」



end.