その日、部活に及川は姿を見せなかった
コーチには話はいってたみたいだがそのコーチに伝えられたのも『急用』とだけ

「及川が休むの珍しいな」
松川の言葉にうなずく
「なにやってんだ、あのクズ川は」

そんな会話と今日の部活
夜もふけて部活も終わり校門まで歩いてくると

神妙な顔のクズがいた

学校帰りのまま用事に行ったのか
服装は制服のまま

「なにやってんだ部活休みやがって」
俺の言葉にそのクズは一度俯いた
「い、いわちゃん・・・」
「あ?」
俺の言葉はスルーかよ
軽くイラついたが顔を上げたのを見てとどまる

「岩ちゃんが欲しいものってなに!?」

必死
その一言につきる顔
いつもニヤニヤヘラヘラ軽薄な男が
「なんだよいきなり」
「ずっと考えてたけど思いつかなくて。本人に聞くのはカッコ悪いってわかってるんだけど・・・岩ちゃんが欲しいもの教えて!!」
顔の前でパンと手をあわせる
「だから、なんなんだよ!」
俺の言葉に必死な顔がきょとんとしたものに変わる
「え、それ本気で言ってるの?」
あ?
なんなんだ?
「今日岩ちゃんの誕生日」
あ。
ああああああ!!!
そういうことか
そういえばクラスの奴らとかチームのやつらにも祝われた気がする。
松川と花巻からはコーラもらった
部活してたらそんなの忘れてたわ
「で、岩ちゃんの欲しいものってなに?」
神妙な顔のクズ川・・・もとい及川の問いにどう答えたものか・・・
男友達同士でちゃんとしたプレゼントもな。でも及川そういうところ昔から変にこだわるからなぁ・・・
うーん
ねぇ?ねぇ?ねぇ?
としつこく聞いてくるやつをかわしつつ考えるが・・・

「無い」

「え?食べ物とか飲み物でもいいよ?何か必要なものとか!」
「無い」
えー!!!
と口を尖らせて残念がる及川
「及川さんのプレゼントは受け取れないってこと!?」
「無いもんはねーんだよ」
「じゃあちゅーで!」
「いらん!!」
オマエがしたいだけだろ!
いつもの調子に戻ってウザくせまってくる頭をバレーボールよろしく掴んで押さえる
「ちょっと!頭掴まないでよ!ひどい!」
ジタバタ暴れながらもあわよくばキスしてやろうというのが見え隠れしていっそ殴り倒そうかと思ったけどやめておいた

「あ」

思わず呟きが漏れた

あった

「どうしたの?」
及川が暴れるのをやめて首をかしげる

俺の欲しいもの

「いわちゃん?」
「あったわ、欲しいもの」
声に出して、漏れた笑みは無意識だ

「全国にいく切符」

「え」
「オマエと全国にいく切符が欲しい」

小さく及川が息をのむのがわかった
そのあとそのくちがゆっくりと笑みを刻む
「あははっ
いいねそれ!」
あの日の汗と涙と鼻水まみれの誓いがよみがえる
「そのためにもまずは青城のエーススパイカーの称号からあげなくちゃね」
「は?んなもん自力でとってやるわ」
岩ちゃんかっこいー!なんて茶化されたけど
それだけじゃないって目が雄弁に語っていた

「プレゼント、ちょっと遅くなるけどいい?」
「そのかわりオマエへのプレゼントも遅くなるぞ」
俺の言葉に嬉しそうに笑った

「たのしみだね」
「だな」
「岩ちゃんとおれがいたらバッチシでしょ!」
いつもの調子
ふざけながら歩く
「おまえ案外馬鹿だからなーケガとかして足ひっぱんなよ」
「ひど!」


またひとつ
増えた約束を胸に