チョコレート



合宿の合間。
騒がしい集団からはなれての休憩。
いつもキャプテンやスガさんに一緒にいればいいのにって言われるけどそんなのは御免だ。
せめて休憩の時間くらい離れさせて欲しい。
まあ
となりに山口がいるからひとりで、とはいかないけれど。

「あ」
声に顔をあげると向こうから日向が歩いてくるところだった。
チビで、やたら一生懸命で小動物みたいなやつ。
アツすぎるやつでどうもなれ合う気になれない。
日向もこっちに気付いたみたいで少しおどおどしたような動きのままよってくる。

ビクビクするくらいなら来なければいいのに

「こ、こんなとこで休憩してないでくればいいのに・・・っ」
「そんなの勝手だろ」
顔も見ないで答える

ほうっておいてよ

喉まででかけた言葉をゆっくり飲み込む
キヲツケロ
「でも・・・」
そんなこと言ったら余計に干渉してくる人種だ
「みんなでいた方が楽しいぞ!」
ほらほらほら
「君らみたいな騒がしいのとぼくを一緒にしないでくれる?」
隣で山口が分かりやすくオロオロと日向と僕を交互に見る
と、
日向の目が一点で止まる
山口も気付いたのか自分の手の中を見た。
「それ!期間限定のだろ!」
いつものやたら大きい動きで菓子パンを指した
「あ、うん」
「どう?どう?うまい?!」
勢いに圧倒された山口が頷く。
「まじで!あとで買おうっと!」
ニカッて笑う。
ぼくが一番苦手な笑顔。
過干渉
いらいらするんだよ

鞄の中に乱暴に手をいれて触れたものを日向にむかって投げた
「おおうっ!?」
意表をつかれたみたいだけどなんとかキャッチしたのはチョコレート
「それあげるからさっさと戻ってよ」
「え、なにいいの?」
万年欠食児のような小動物は少し驚いた顔をして、でもうまそう!と目を輝かせた
「ねえ、ツッキーそれ最近気に入ってるやつじゃないの?」
ぼそっと言った山口をひと睨みで黙らせて追い払うように手を振った
「ほら。さっさと行ってよ」
日向は暫く手のチョコレートを見つめた後笑顔を向けた
いつものあの笑顔
「ありがとな!月島結構いいやつだな!」
苦手な笑顔
ヒマワリみたいな
純粋無垢なその顔でこっちを見るな

「ツッキーがひとにものをあげるなんて珍しいね」
隣のそんなつぶやきなんて聞こえないフリで
口に放り込んだチョコレートは何故だろう

甘くなかった


end.