雪の日

ゆうべから降り出した雪があたりを雪原にかえた
部活が終わるころには
すっかり暮れた夜空と雪の白の正反対のコントラスト
雪がやんだせいで余計に寒くなった空気にマフラーを口元まで上げて手袋の無い手に息を吹きかけた
白く染まった空気は指の間をすり抜けて
夜の中に溶けて消える

ふと足を止めて空き地につもった雪をながめた
何気なく足を踏み入れてみるとうっかりスニーカーで来てしまった足下は簡単に雪にうもれて
もともとチビの自分なんていつか雪にのまれてしまうんじゃないかって頭をよぎった

チビだから
いつも人一倍がんばって努力して背伸びして
それでやっと追いついて
でも気がつくと置いてかれて
高い壁にはばまれて
でも
チビなことは変えようがない事実だ
がんばらなくちゃ
置いてかれないように
がんばらなくちゃ

駄目なんだ・・・

またよぎる
雪に埋もれのまれるイメージ

「なにしてんだボゲ」

振り返る
そこには不機嫌そうな顔
「風邪ひくぞ」
手をひかれた
手袋ごしの暖かい手
「どう・・・したの?」
こんなところで
「雪んなかにつったって埋まりそうなチビが見えたから来た」
毒舌に苦笑いが漏れた
「何いっぱしに悩んでんだ」
「え?」
かれはますます不機嫌そうに顔をしかめた
「オマエが風邪ひいたら誰が俺のトス打つんだよ」
馬鹿が
と白い息を吐く
「影山のトス打つひとはたくさんいるよ?」
言うとぱっと手を離された
手袋をとるとしゃがんで雪をつかんだ
大きい手が大きめの雪玉をつくって
トスあげるみたいに夜空へ

「あの速攻できんのはオマエだろ」
いつか俺のトスに合わせられんのも・・・
夜空を見てるその表情はチビの俺には見えなかった
でも
その言葉はちゃんと聞こえた
馬鹿な俺の心にもちゃんと届いた

「むかつく」
「あ?」
「かげやまむかつく」
おれの言葉にいらっとした顔したけど俺は笑顔だ
こいつ
いつもおれもよくわかってないおれのこと
なんでも知ってるみたいでむかつく
でも
なんでこんなにむかつくのが嬉しいんだろうなあ・・・

影山がまた大きくため息をついた
「おい」
何かを投げてよこす
てぶくろ?
「家、遠いんだろ?それ使え」
「え、影山の手ひえちゃうじゃん」
「いいんだよ。家にもういっこあるから。オマエにやる」
それだけ言って、さっさと歩き出す
「か、かげやま!」
影山は振り返りもしないで手をひらひらと振った
「また明日な」

角をまがって長身はすぐに見えなくなった
少し大きい手袋をはめてみる
あったかい

馬鹿はどっちだ
ああ

「むかつくなー」


end.