◆ドラマ版

HAPPINESS
〜A Happy New Year 2011〜





2011年。
あたしが大好きな日本文化に息づく言葉を用いれば、
最初から何周もまわりにまわった卯年。

いつもなら大江戸の皆でどんちゃん騒ぎして
座敷に乱れまくった雑魚寝で迎える新しい年も、
今年は180度違っていた。



あたたかな布団の中で
静かに朝の気配を唄う鳥たちの声に耳を刺激され、
そっと瞼を開けば。

長く綺麗に弧を描く睫毛が
ただ、音もなく閉じられているのが見えた。


そうして迎える朝は、部屋の風貌に似合わず高貴なコーヒー豆が匂うけど、
今日香るのは、遠くない過去には日常だった、どこか懐かしい味噌汁の匂い。

余りにも優しいそれに、
生まれながらに与えられている本能が反応したのか、
視線の先の瞼がそっと上下を始め、
まだ少しだけ青い白眼の存在を実感させた。


「起きた?」

「・・・・・・。」

そっと尋ねれば、
純粋な眼差しが言葉を紡ぐことなく頷く。
何処かの誰かにそっくりなその仕草に
自然と吹き出せば。

「・・・起きた?」

ちょっと前の私が発したものと同じ言葉が、
高いところから降ってきた。

「あぁ。」

腕には大切な命を抱きながら、
ただ身体だけを反転させて視線を上へ向ければ。

見慣れてしまったエプロン姿のあいつが
あの癖のある笑顔で立っていた。

「・・・重くて起きれない。」

「そ?まぁ、頑張って」

甘えたことを言ってみれば、
くすくすと笑いながらつれない答えを返してくる。

「今日は元旦だから、味噌汁作ったぞ。」

「お雑煮は?」

「・・・もちろん。」

だから早く起きておいで、と
背を向けてから肩越しに振られた手が物語っていた。

「・・・ったく。」

よいっしょ、と
年の割には多く口にすることの増えた掛け声とともに、
再び夢の中に旅立とうとしていた我が子を抱えて起き出す。

子供を抱きしめながら寝るようになってから
寝癖がかなり少なくなったのを、
あいつは「つまんねぇ」とかほざくけど。

あたしにも親の意識って芽生えるもんだなと
嬉しく思うのは単純なのか、そうじゃないのか。

よくわからないけど、いま知りたいのは、
新年も変わらず優しいあいつの味噌汁の味と
初めて口にするあいつ特製の雑煮の味。

汁モノが二つだとかそんなの関係なく、
あたしの好みを熟知した食卓。
あいつの作る朝食は基本私が滅多に食べられなかった洋食で。
それが新鮮で特別で、別の喜びがあるけど。
だけど今日は元旦。
お雑煮はもちろんだけど、やっぱ日本人としては、
汁モノ二つであろうと、味噌汁が飲みたくてしょうがなくなってしまう。

かなり変な願望で、我儘だなとか思うけどさ、
でもあいつは躊躇いなくあたしの思いを汲み取って、
「これで満足だろ?」なんて自信ありげな優しい眼差しで笑うのだ。

「ほら、箸。」

言葉少なに会話するあいつのすべてが
誰よりも愛おしくてたまらない。

なんて。

そんな恥ずかしいこと
言えるわけもないので。

「沢田!!!
 明けましておめでとー!!!!」

いつかのように
ニシシと大きく口を開きながら胸を張れば。

「今年もよろしく、センセー?」

どこか楽しそうに、
でもやっぱりいつものイケスカナイ笑顔。

「てんてー。」

後に続いた上手に形を成さない可愛い声に
あたしたち二人はただ、
新たな年のスタートに幸せを噛み締めていた。





= END =



【後書き】
あけましておめでとうございます、亮尋です。
ずっと消息不明に近い状態で申し訳ございません!!
こんな思いつき拙作を新年の挨拶として送るより、
コラボ作品であったり、自分の連載であったり、
皆様の素敵作品へのコメントであったり、
あたたかコメントへの返信であったり…
なさなくてはならないものがたくさんある気もしますが。
どうぞ、お許しください!!
新年挨拶にしては、(しかも三箇日過ぎてる)
本当に拙くて拙くて申し訳ございませんが、
皆様への日ごろの感謝の気持ちはいっぱい詰めました。
どうか笑納していただければ幸いです。
なかなか顔を出すことが出来なくなっていますが、
今年も何卒宜しくお願い致します。
慎久美ばんざーい!!!
* 2011.1.5 亮尋 *
* 2011.5.4 訂正 *


亮尋様、素敵なお年賀をありがとうございました!
何気ない日常の光景が特別なものに変わって、またそれが日常になっていくんだろうな(*´∀`)
と幸せな未来を感じさせてくれる、温かいお話で、幸せのお裾分けを頂いた気分です♪
私もお味噌汁は欠かせない派なので、久美子さんに同調してしまいました。
掲載が遅くなってしまい、本当に申し訳ありませんでした。
今年もよろしくお願いいたします。
2011.05.10 尚