「きょり、怖々と」続編
※ドラマ・卒業前、両想い。
その距離、恐々
最近、沢田の様子がおかしい。
触れただけで意識が読める、あたしの特殊能力を意にも介さず受け入れてくれて、
しかも一途にあたしを愛してくれる沢田・・・
初めて抱きしめられたとき、奔流のように流れ込んでくる温かい愛情に、あたしは感動した。
そんな風に純粋に乞われたのは初めてだった。
だから、すぐに思ったんだ。
あたしの心も伝わればいいのにって。
でも沢田は、
「んな事知ってる。」
「へ?」
「だから、もう離さないから。」
「な、な、何でわかった?////」
「顔に書いてあるからな。」
「ひぇっ?」
慌てて顔をこするあたしを見て、沢田は綺麗な笑顔でふんわり笑ったんだ。
それから、あたし達は「お付き合い状態」になって、一緒に出掛けたり(デ、デートって奴な////)
うちに来て鍋を突ついたりと楽しい日々を過ごしていたんだ。
なのに、最近の沢田はなんかおかしい。
「なあ、なんでそんなに離れて座るんだよぉ。」
「いや、コーヒーがこぼれるかなって。」
「じゃああたしもそっち行く。」
「いや、いいだろ、別に・・・」
そんな感じでなんだか避けられるんだ。
嫌われたかなって思うけど、変な風になるのは沢田の部屋へ行った時だけで、
その他の場合は全然態度は変わらない。
だから嫌われた訳ではないと思うんだけど・・・
「ねぇってば、ここに来いってば。」
「ん?ああ、まあいいよここで。」
「何でだよ!」
久々に上がり込んだ沢田の部屋でまたも始まった押し問答に、あたしは遂に切れた。
こうなったら意地でも取っ捕まえてやる!
「うわっ、やめろ!ヤンクミ。」
「隙あり!」
「つっ、そうは行くか。」
寸での所で避けられて、あたしは益々ムキになる。
俊敏さでこのあたしに勝とうなんざ百年早いわ!
無理な体勢で倒れた沢田の身体の向こうに回り込み、マウントポジションで押さえ込んだ。
「へへぇーん、あたしの勝ちだな、沢田。」
観念するように眼を手で覆ってしまった沢田の頬をペチペチと叩いてやる。
「!!・・・/////」
その瞬間、触れた指先から流れ込んでくる沢田の心。
それは予想だにしないものだった。
初めて知る男の、いやオスの本能。
欲望と葛藤と、愛慕と憧憬と。
激しい渇望は怒濤の様にあたしに襲い掛かり、翻弄する。
初めてのその感情に怯えているあたしの手を、沢田がそっと握って脇へどかし、腰の下からするりと抜け出す。
手が離される直前、その中に悲しみが混じったのに気が付いて、あたしは驚いて沢田の顔を見た。
「怖がらせてごめん・・・」
「あ、あの・・・」
「・・・情けねぇな、俺。」
じっと自分の掌を見つめてそう呟いた沢田は、ぎゅっとそれを握り込むとほっと息を付いた。
そして悲しそうな顔でこちらを向くと立ち上がった。
「送っていくよ。帰るだろ。」
「う、うん・・・」
家までの道のりを黙ったまま並んで歩く。半月の弱い光は沢田の顔を見せてはくれない。
門前まで来てやっと口を開いた沢田は、
「じゃ・・・」
小さく呟いて踵を返す。
そのまま沢田がどこかへ消えていきそうで、思わず伸ばした手を振り払われた。
「ごめん・・・今は、触られたくない・・・」
顔も上げず苦しげに言う沢田を見て、堪らずあたしは大声を出した。
「あたし、ヤダなんて思ってないっ!ただちょっとビックリしただけだ!
沢田とだったらあたし、良いもんっ!初めては沢田とって決めてるんだからっ!!」
振り返った沢田の瞳が大きく見開かれているのに気が付いて、途端に恥ずかしさが襲ってくる。
道端で何を叫んでるんだあたしは・・・////
「またなっ!」
最後に沢田がふわりと笑ってくれたのを眼の隅で確認してから、あたしは門内に駆け込んだ。
ざわざわと夜風に揺れる梅の枝が、くすぐったいような春の訪れを告げている、そんな夜のことだった。
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尚様〜!
今夜はゆっくりお休みできそうにないのでお見舞いです♪
勝手に尚様作品の続編を作る私、元ネタを知らないので間違っていたらごめんなさい。
どうぞお大事に。
2011.3.11
双極子拝