「さわだー」(ブランコ漕ぎながら)

「ん?」(周りの柵に腰掛け中)

「さわだー」

「なんだよ。」

「楽しいなぁ…」

「は?」

「なんかこーして公園でブランコ乗るなんて、あんまなかったからさ…
 こっち(黒田一家)に来てからは。」

「なんだよ、おっさんは連れて来てくんなかったのか?」

「何回か連れて来てくれたんだけどさ。
 あのガタイと顔だろ。
 小さい子が怖がるんで、なんとなく…さ。」

「…お前のことだから『公園なんかつまんないから、もういかない』なんて言ったんだろ。
 おっさんが傷つかねーように。」

「そんな殊勝なこと、考えたわけじゃねーよ///。
 ジロジロ見られたりして、居心地が悪かっただけだよ。」

「ふぅん…。(また照れちゃって)」 

「こーして、思いっきりブランコ乗ってたかったなぁ…。」

「いくらでも気が済むまで乗ってろよ。
 見ててやるから。」

「…ふふっ。」

「?…なんだ?」

「なんかさー。そーして、柵なんか座ってこっち見てると…おとーさんみたいだな。」

「おとー…」

「『押してあげようか?』なんて言いながら、いつもそーやって見ててくれたなぁ…。」

空を見上げながら、いつもに似合わずしんみりした顔で呟く山口を見ていたら
小さな少女の頃の姿が見えるみたいだった。

『おとーさん、もっと、もっとー!!!』なんてはしゃいで
傍でお袋さんがニコニコしながら、そんな2人を見てたんだろうな。

ちょっと俺まで切ない気分になったけど。
やっぱり山口には、しめっぽい顔は似合わねー。
腰掛けてたとこから、ひょい、と降りて、黙ってブランコの山口に近づいた。

「ん?押してくれるのか?おとーさん。
 でも前からじゃ………んっ///」

ブランコを漕ぐ手をぐいっと掴んだ俺に視線をうつして、
おどけた口調で言いかける唇をいきなりふさいだ。

ちゅ…。



そうして、そっと目を見つめながら囁いた。

「今、お前を見守ってんのは、おとーさんじゃねーってコト、思い出させてやるよ。」

「な、な、なにをいきなりっ///」

あーあ、真っ赤になって、俺を押しのけて、一目散にジャングルジムまで逃げて行っちまった。

見上げると満天の星。
あの中のどこかに、山口の親父さんとお袋さんがいて、可愛い娘を見守ってんのかな、なんて
ガラにもなく考えた。

「…安心してくれよ。
 俺がこれから大事な大事なお嬢さんをこの手で守っていくからさ。」

そう、ココロの中で呟いて。
宣言どおり、愛しい姫を腕の中に閉じ込める為に、
彼女の篭る鉄の要塞をめがけて駆け出す俺だった。


オシマイ



by 響子様(10.06.10)