真夏のうだるように暑い道を、
ただひたすら愛しいカノジョの驚く顔だけを思い浮かべて歩いてた。
「今週は忙しくて会えない。」なんて言った舌の根も乾かないうちに、
言った当人がギブして会いに行くなんて。
どんだけヤラレてんだ…なんてツッコミも、プライドは?なんて囁きも
一切合財『惚れた弱み』の一言でスルーして。
ただひたすら山口の元へ急ぐ俺の背中に、ドン!と何かがぶつかった。
自転車だとか、車だとかいう物騒なモノじゃなく、
かと言って、よちよち歩きの子供がうっかりぶつかったって言うような可愛い衝撃でもなく、
例えて言うなれば人懐っこい大型犬(まだ子犬)が力加減なしにじゃれてぶつかってきた、って感じ。
でも、その大型犬の足が…いや、手が腰に回されたのを感じた瞬間、
驚きは例えようもない喜びに変わった。
…山口だ。
ぎゅぎゅーっと後ろから抱きつきながら
「なんだよぉ!しばらく会えないなんて言っときながら、
こんなとこ歩いてやがって♪」って
嬉しそうな声。
この夏また俺の背が伸びたせいで、
山口のすりすりする頬がちょうど俺の肩甲骨の辺りにあたってくすぐったい。
「おい、放せよ。くすぐってぇよ。」って言ってんのに
「やぁだよー♪」なんてふざけて、背中にじゃれついてる可愛い可愛い彼女の手を取って、
まるでワルツのターンをするみたいにくるっと向きを変えて抱き込んだ。
「うわっ///、ナニすんだ。」なんてジタバタするけど、放す訳にゃいかねぇな。
そのままホールドしたまま、来た道を戻りながら「さ、行くぞ。」
「へ?どこに?もうソコ、ウチだぞ?来ようとしてたんだろ?!
晩飯、一緒に食えるんだろ?」
「こーんな可愛いコトされて、のほほんと皆と飯なんか食えっかよ。」
「え、えっ?!///」
「さ、帰ろう、帰ろう。」
「え、え、えー?!!!
わ、私、そこのコンビニにアイス買いに行っただけなんだけど。
溶けちまうよぉ。」
「…大丈夫。ホラそこに学校帰りのお子様が多数いる。
アイツらに進呈してやれ。」
「えーっ、そんな知らない子にっ!」
山口の手から問答無用でレジ袋を奪って、
ランドセルを背負って溝に小石を投げこんで遊んでるガキ達につかつかと近寄った。
「君ら、この辺の子?」
「えー、そうだけど。お兄さん、なに?」
「あのさ、あのお姉さん、黒田一家の人なんだけどさ。」
「知ってるよぉ。お嬢だろ?」
「そう、そのお嬢がさ、急用で出かけなくちゃなんなくなったんだけど。
アイス持っててさ、困ってるんだ。
君ら、助けてやってくんねーかな?」
「なに、食ってやりゃいいの?」
「貰っていいの?」
「うん、知らない人じゃないし、お母さんに怒られたりしないよな?」
「お嬢だろー、当たり前じゃん!
母ちゃんもきっと『お嬢に貰ったんなら、いいよ!』って言うよぉ。」
「そっか。じゃ、安心だ。そら、コレ皆で分けて食って?」
「「「「「やったー!!!!!」」」」」
ビニール袋に群がるガキ共に背を向けて、
山口の方にさっさと戻って
「さ、行こ?」ってニッコリ、スペシャル級のスマイル。
山口はまだ赤くなって固まってるけど、
そんなの構ってられっかよ。
さ、楽しい時間の始まりだ♪
by 響子様(09.06.22)