温かい皿
ピロー・トーク


 ガブリエルの腕の中で見る夢は、とろりと甘い蜂蜜の味わいを思わせる。

「んん…」

 満ち足りたような幸福感に包まれてうつらうつらとしていた僕は、頬をくすぐる滑らかな指先の感触にうっすらと目を開けた。

「あ…ガブリエル…?」

 とろとろしながら呼びかける僕の顔を覗き込み、ガブリエルは青い瞳を細めるようにして微笑んだ。

「何…見てんだよ…?」

 まだ半分ぼんやりしながら笑い返して、僕は眠い目を手の甲でこすった。

 その手をガブリエルが捕まえる。問いかすえように目を上げると、恋人の優しいキスが降ってきた。額に頬、閉じた瞼の上、そして、唇。

「ガ、ガブ…」

 今度こそぱっちり目を見開いて、動揺のあまり上ずった声をあげる僕にあてられたガブリエルの眼差しはやはりとろけるように甘くて、相変わらず恋人相手に気のきいた台詞の1つも言えない恋愛下手の僕を戸惑わせる。

「あなたの寝顔は本当に可愛いですね、シンジ。眺めていても少しも飽きないなと思っていたんですが、寝ぼけ眼の緩みきった顔もまたすこぶる可愛いとくる」 

 相手の目をまっすぐに見ながら、こんな歯の浮きそうな台詞をよく言えるなぁ。フランス人の国民性か、それともガブリエルだからだろうか。

「は…そんなにゆるんでましたか…?」

 僕は、確かめるように自分の顔を両手で挟んだ。

 そう言えばうっかりあくびなんかしたような。可愛いっていうより、むしろそれは間の抜けぬ顔ではなかったのかなぁと思うけれど、ガブリエルの僕を見る目には薔薇色の色眼鏡がかかっているようだから。

 いや、待て、ここでうっかり甘やかされてはいけない

「ていうか、あのね、可愛いなんて言うの、失礼だよっ。僕だって、男なんだからね」

 一応怒った口調で言い返す僕を、しかし、ガブリエルはニコニコしながら見ている。いくら睨みつけても無駄なので、僕はついに諦め、誘うように首を傾げている彼の肩に腕を巻きつけた。

 ひたすらマイペースな恋人相手に何をどう言っても無駄だということは、付き合いだしてふた月で僕も身に染みている。

 そう、僕の恋人、ガブリエルは恋を語る相手として申し分がないけれど、実は一風変わった人なのだ。単に育ちの違いと割り切るには、僕は常識人でありすぎる。もっとも、ガブリエルの方は、自分のやり方こそが人生の王道だと思っているに違いない。

「シンジ…」

 ガブリエルが掠れた声が名前を呼んだかと思うと、僕の首筋に顔を埋めてきた。耳たぶをあま噛みされて、僕は思わず出掛かった声をくっと堪える。

 肌を這い出すガブリエルのしなやかな手、弱い耳をついばむように弄る柔らかな唇の感触に、僕は思わず身震いした。

「…いいですか?」

 ガブリエルがそう確認する頃には、もう充分に下ごしらえのされた僕はこくこくと頷くことしかできず、彼の腕に促されるがままうつ伏せになって膝を立てる。

 今夜はこれでまだ2回目。もしかしたら、もう1回くらいあるかもしれない。フルコースでいうなら、前菜が終わって、いよいよメイン・ディッシュというところか。

 肉体派には全く見えないガブリエルなのに、そっちの方は、年下の僕でもついていけないくらい、とにかく強い。もしかして、彼が日ごろ摂取している膨大なカロリーは、こうして消費されているのか。そう考えると、何やら恐い。

「っぁ…あっ…」

 そんなことをぼうっと考えていた僕の思考は、秘所をこじあけて入り込んでくる異物感の前に途切れた。

 今夜二度目の交わりは初めよりもずっと楽で、柔らかくほぐされ濡れた僕のそこは恋人を難なく受け入れる。

 痛みはないわけではなかったが、密着した恋人の肌から伝わる熱、深々とつながった箇所からじわじわと広がっていく快感に溺れ、僕の意識は何度も飛びそうになった。

「シンジ…もっと声を聞かせて…」

 緩急をつけたうねるような腰使いで翻弄されて、僕の口からはか細い悲鳴があがり、ついでそれはとろけるような喘ぎやすすり泣き混じりの懇願に変わっていく。

「あっ…っく…あぁ…っ」

 ガブリエルの動きに合わせて指先にまで伝わる甘い痺れに全身をひしがれ、僕はもう彼のことしか考えられなくなっていた。

 ガブリエルが好き。だから、これをするのも好きだよ。大好きな人とこうして一緒に気持ちよくなれるのって、最高!

「ガブリエル…ガブ…ぅっ…」

 背中に感じる恋人の重み。淫らに動いて僕の中をかき回す彼に、僕は泣き喚きそうになった。

 このまま2人一緒に一気にフィニッシュまで駆け上っていこうとした、その時だ。

 僕達がこもっていた寝室の扉を誰かがノックした。

 は、はいっ? 突然入った邪魔に、僕は思わずがくっと前につんのめりそうになった。

「…何事です?」

 僕の上でぴたりと動きを止めたガブリエルが不機嫌極まる声で扉に向かって問うた。

「ガブリエル様、お休み中まことに申し訳ありません」

 扉の向こうからは、あの実直そうな執事の声が響いてきた。

「お父様からの国際電話が入っておりますが、どういたしましょう」

 こんな時に電話ですか? もう、勘弁してよ。

 解放を目前にして放置されてしまった僕は、続けることも逃げることもできず、何とも居心地の悪い気分で固まっていた。

 ガブリエルが溜息混じりに吐き捨てる声が聞こえた。

「また、ですか。いつもは息子のことなど忘れて果てているくせに、非常識な時間にばかり思い立ったかのように電話かけてくるんですから―」

 確かこういうパターンは以前にもあったなぁとガブリエルの手に腰を抱かれたまま呆然と考えていた僕だが、ついで恋人の口から出た言葉には本気で耳を疑った。

「…いいでしょう。じゃけんにしたらしたで後がうるさいですから、取り合えず話しましょう。入ってらっしゃい」

 ええっ?! 僕はガブリエルに腰を捕まえられたまま硬直した。

「それでは、失礼いたします」

 冗談かと聞きなおす間もあらばこそ、扉が開き、もう真夜中に差しかかろうというのにきっちりスーツを着込んだ執事が部屋の中に入ってきた。恭しく捧げ持たれた赤いビロード張りの小さなクッションのような台の上にはコードレス電話が鎮座している。

(えええっ、何っ、何それ?! いや、もう、あらゆる意味でありえないでしょ!)

 こんな恥ずかしい格好でなければ、突っ込みどころが多すぎると笑いこけてしまっただろう。

 僕はとっさに身を低くし匍匐前進でベッドの隅っこの目立たない所にまで逃げようとしたが、ガブリエルは、故意にか無意識にか、僕の腰を引き戻した。

「お楽しみのところをお邪魔して、申し訳ありません」

 心底すまなそうに謝る執事の声に動揺は微塵もない。

「あなたのせいではありませんよ」

 もちろん、ガブリエルも動じない。

 とっさに掴んで引き寄せたふかふかの大きな枕の陰に頭を隠し、恥ずかしさの余り、我が身よ石となれと念じつつ、息を殺しているのは僕ばかりだ。

 ああ、頭隠して尻隠さずだなんて、恥ずかしすぎる!

 ガブリエルは電話に出るために、ようやっと僕の体から手を離し、その隙に僕は羽根布団の山の中に飛び込んだ。

 やっと避難場所を確保した僕はほっと息をついた。

 執事は何事もなかったかのように部屋を退出していき、ガブリエルはというと電話の主相手に猛烈な抗議を始めた。

 ああ、そういえば、ガブリエルのお父さんからの電話だったんだ。

 やっと落ち着きを取り戻した僕は布団の中から顔を覗かせて、ベッドに腰掛けてこちらに背中を向けたまま南アフリカに駐在中という父親相手に険のある口調で話しているガブリエルを窺った。

 僕も、まだ見ぬ恋人の父親に少しは恨みの気持ちがあったので、がつんと言ってやってよと無言のエールをガブリエルの背中に送っていた。

「…大体、こっちが夜半ならそっちだって真夜中でしょう。そもそも、身内の不幸以外にこんな非常識な時間に電話をかけてくる人がいますか。ええ、ですから、あなたの身に何かあったような緊急事態ですね。…勝手殺すなですって? ふっ…そうあっさりと死ぬような玉じゃないでしょう、あなた?」

 父親相手とは思えないほどのきつい口調。けんもほろろな態度で抗議をしているガブリエルにびっくりした僕は、そろそろと布団から這い出すと、彼の傍にぺたんと座り込んだ。

 ガブリエルはちらっと肩越しに僕を振り返り、安心させようとするかのごとく微笑みながら頷いた。

「クリスマス・プレゼントの礼ですって、一体いつの話なんですか、もう、とっくに年越してますよ? 無性に私の声が聞きたくなったなんて、そんなしおらしい声で言い訳しても無駄です。ともかく、もう少し相手の都合というものを考えてから行動してくださいね。私だって、何かと忙しい身なんですから」

 忙しい身なのかなぁ。僕はちょっと首を傾げた。

「趣味を仕事にしている道楽者のくせにどこが忙しいですって?」

 あ、痛い所を突っ込まれている。さすがはガブリエルのお父さんだ、負けていない。

 だが、ガブリエルは追及されても怯むことなく、しゃあしゃあと言ってのけた。

「恋人と愛し合うことに今は忙しいんです」

 僕はぐらりと体が傾ぐのを覚え、気がつけばベッドの上に横様に倒れこんでいた。

「ちょっ、ちょっとおぉっ?!」

 慌てて飛び起き、血相を変えて恋人の肩に取りすがる僕をガブリエルは見た。青い瞳に悪戯っぽい光が灯るのを僕は認めた。

「ああ、せっかくの機会ですから、紹介しますよ。私の恋人の有本真志です」

 無造作に目の前に突き出された電話を僕は凝然と見つめた。

 嘘。

「ガ…ガブリエル…無理…」 

 どっと汗が噴き出すのを感じながら、僕は涙目でガブリエルを見上げるが、彼は天使のような笑みで頷き返すばかりだ。

 こんな形でいきなり父親に恋人を紹介するんですか、あなた? そりゃ、真剣に付き合っているつもりだし、いつかはそういうこともあるかもしれないとは思っていたけれど、もう少し普通の状況でして欲しかった。いや、真剣にそう思う。

「大丈夫ですよ。私の父は鷹揚な人で、細かいことは気にしませんから」

 細かいこと? えっちの真っ最中に恋人を親に紹介してしまうことが?

「いや、心の準備というものが…あの、僕、素っ裸だし…」

「そんなもの、向こうからは見えないじゃないですか」

「そりゃ、そうだけど」

 しかし、結局ガブリエルの微笑には逆らえず、僕は震える手で電話を受け取った。どうしよう、心臓がばくばくいっている。

 もともと電話で話すのは苦手だ。しかもフランス語。相手は恋人の父親。緊張するなという方が無理だが、こうなったら、もうやるしかない。

 深呼吸。

「は、はいっ! はじめまして、お父さん、有本真志と申しますっ!」

 電話を力いっぱい握り締め、肩を怒らせ、僕は勢いこんで話し出した。

 全く、緊張するとろくなことない。相手の反応を恐れるあまり、気まずい沈黙を恐れるあまり、僕は無意味に元気よく、明るく、声を張り上げずにはいられなかった。

「今夜は全くとんだ所…いえ、思いもよらず、ご紹介いただいて、何と言うか、光栄です!」

 しかも、悲しいかな、日本人、僕は無意識のうちにぺこっぺこっと頭を下げていたらしい。

 僕の怪しい動作に、ガブリエルは目をぱちくりさせていたかと思えばいきなり噴き出した。更には、ふざけて僕の身振り手振りをまねする。僕はおかしいやら恥ずかしいやらで、ますます赤面した。

 しかも、受話器の向こうからも、一体僕の何にそんなに受けたのか呵呵大笑している男の声が聞こえてきたものだから、もう恥ずかしくて、穴があったら入りたいほどだ。

(はははっ、元気がいいな。いや、失礼)

 ひとしきり大笑いした後、ガブリエルの父は、落ち着いたバリトンの声で言った。まともに話せば、聞きほれそうになるくらいの美声だ。

(有本真志君だね。いや、君のことは予め聞いていたが、まさか、こんな形で紹介されるとはさすがに少し驚いたよ)

 僕は、大変驚きました。

「はい、あの…僕もおとうさんのことはガブリエルから伺っていました。ええと、今南アフリカにいらっしゃるんですね。もう、そちらには長いんですか? ガブリエルが送ったクリスマスのプレゼント、僕も選ぶの手伝ったんですよ、実は」

 ちらっとガブリエルの方を見やると、彼は暗い薔薇色のガウンを肩に引っ掛けて、くつろいだ風情でベッドの上に座りなおすと、僕が父親と話すのを楽しげに見守っている。

(ああ、それはありがとう。お礼を言うのがすっかり遅くなったがね。今夜は遅くまでパーティーがあったんだが、ふいに息子のことを思い出してね。早くに妻を亡くしての単身赴任、家族と遠く離れて暮らしていると時には無性に寂しくなるものだ。今頃どうしているかなと思いつくままに、つい電話をかけてしまったんだよ。まあ、私のすることはいつも衝動的なので、許してくれたまえ)

 それでよく外交官が勤まるなぁという素朴な疑問が頭を掠めたが、僕はもちろん黙っていた。

(南アフリカに赴任してそろそろ4年になるよ。その前はケニア、それ以前はタンザニア…ところで、シンジ君、君はサファリは好きかね?)

「は…サ、サファリですか…? ええと?」

 話の展開が唐突過ぎてついていけないでいると、ガブリエル・パパは勝手に続けた。

(昔は主にハンティングを指していた言葉だが、現在では野生動物観察という意味合いで使われているね。もともとスワヒリ語で『旅』を意味する言葉なんだよ)

「はあ」

(現在の赴任地は都会過ぎてつまらない。私は子供の頃に探検家を夢見ていた頃からアフリカには憧れと愛着があってねぇ…じきに私の任期が切れた暁には、休暇を取ってタンザニアのマサイ族に混じりサバンナを移動生活などいいなと思っているんだ―若い頃にひと月ほどそういう暮らしをしてみたが大変面白かったんだよ。もっとも帰ってみたら、休暇中に外交官が行方不明になったと大騒ぎになっていて、驚いたのだが―よかったら、君も一緒にどうかね?)

 ただの外交官ならともかく大使がサバンナで消息不明になったりしたら、下手したら外交問題とかにならないだろうか。チョコレートのように甘く響く声で語る、この人はやはりガブリエルの父だけあって只者ではない。かっとんだマイペースさだ。

「い、いえ…それはちょっと体力的に自信がありませんので―」

(うむ、そうか。残念だが、まあ、いい。ところで、シンジ君)

 また話が飛ぶを覚悟して、僕は息を詰めて待ち受けた。

(ガブリエルの相手はなかなか大変だろう?)

 大使はちょっと声を潜め、気遣わしげな声で囁いた。

 僕はちらっと恋人を眺めやった。ベッド脇のサイドボードの上から、飲み残しのシャトー・ディケムのボトルを取り上げ、グラスに注いでぼんやりしている。

 その微妙な表情を見て、あ、そろそろ夜食が欲しいと言い出しそうだなぁと僕はピンときた。こういう空気は読めるようになった、僕は恋人としてはともかく、専属シェフとしてはうまく教育されつつあるようだ。

「そりゃ、そうですよ」

 ガブリエルには会話の半分は聞こえていないことをいいことに、僕はこっそり打ち明けた。

「おかげさまで、ジェットコースターに乗っているようなハラハラドキドキの毎日です。僕にとっての普通と彼にとっての普通の間には、大きなずれがあるようで―でも…」

 僕はガブリエルに背中を向けると、うっすら頬を赤くしながら囁いた。

「そんな突き抜けたような変人ぶりも含めて、僕は彼が好きなんです。一緒にいるだけで見知らぬ世界を旅しているような不思議な気分になれて、毎日が新しい発見に満ちていて―平凡な僕でも、彼と接していると感覚が研ぎ澄まされるような気がします。そう言えば、新しい料理のインスピレーションも前よりわきやすくなったような…」

(なるほど。君にとって、ガブリエルは、ミューズのような存在なんだね)

「はは、まあ、そんなところですね」

 いつの間にか恋人の父親相手に大のろけをしていたことに気づき、僕は照れまくって頭をかいた。

「…シンジ」

 あんまり長いこと放置されていたことに不満をつのらせたのか、ガブリエルが後ろから僕の体を抱きしめてきた。

 僕の肩に軽く顎を乗せて、ねだるように囁く。

「私、おなかが空きました」

 あは。やっぱり。

 大食らいの僕のミューズは僕の手からいきなり電話を取り上げると、受話器の向こうの父親と素っ気無い口調で二言三言言葉をかわし、ほとんど一方的に通話を切った。

 愛想もへったくれもなかったが、あの大らかそうな父親なら、たぶん気にしまい。

 また忘れた頃、非常に間の悪い時に電話がかかってきそうな気がする。その時は僕も、今夜よりももっと落ち着いて、もっと色んな話をじっくりとしてみたい。

「ガブリエルって、我が侭だよね」

 不要になった電話をサイドボードの上に無造作に押しやって改めて僕の体を引き寄せるガブリエルに、僕は呆れたように話しかけた。

「そうですか?」

 僕の頭に唇を押し当てて、彼は笑いを含んだ声で空々しく応える。

 僕は溜息をついた。

「あーあ、何だか今夜は冷や汗とか脂汗とか、いっぱいかいたような気がするよ」

 そう言えば、えらいところで行為も中断してしまっていたのだが、そんな気分はもちろん消し飛んでしまった。

「おなかが空いたって言ったよね? 僕もしっかり目が覚めちゃったし、何か軽く食べられるもの作ってあげるよ? 何がいい?」

「そうですね、温かくて、ほんのり甘い何か―」

「マフィンでも焼こうか? パターとはちみつをたっぷり添えて」

 僕の提案が気に入ったのか、ガブリエルは猫のように喉の奥を鳴らした。

 それじゃあとベッドから降りようとする僕の腕をガブリエルがとっさに捕まえる。

「何、ガブリエル?」

 不思議そうに問い返す僕を引き寄せ、指先で顎を捕まえると、ガブリエルは唇を寄せてきた。ちゅっ、ちゅっとたて続けにキスをされて、僕は思わず息をとめた。

「夜食が終わったら、今度はあなたを食べたいです」

 かあっと熱くなった僕の耳にガブリエルは唇をずらして、とろけるように甘い声音で囁いた。

「さっき中断してしまった、コースの続きをしましょうね」

 僕は微かにぶるっと身を震わせ、ガブリエルの肩にしがみつきながら、こくこくと頷いた。

 ああ、まだメインも終わってなかったし、この分では最後のデザートまで、僕を食べ尽くさないことにはガブリエルは気がすまないようだ。

 まだしばらく眠れそうにもない、僕とマイペースな恋人の夜はこうして更けていく―。



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