実は、『温かい皿』のエンディングには別バージョンがありました。
ぶっちゃけ、えっちシーンまで書いてしまったバージョンです。
BLのお約束を守るべく(?)書いてみたのですが、流れとしては本編で書いた方がすっきりするかと思ったのでボツにしました。
さて、どちらがお好みでしょうか。
食堂姦まで書いておいて今更って感じですが、それでも、一応断っておきます。
『合体シーン』まで書いてますので、駄目な方はご注意を。
大丈夫な方は、どうぞ下へお進みください。














温かい皿
もう1つのエンディング


「ぼ、僕は、料理狂いは平気だけど、そっちだけは普通の人がいい!」
 悲鳴をあげる真志を、ガブリエルは黒塗りのリムジンに苦もなく引きずりこんだ。
 すかさず、運転手がドアを閉じる。
「ガ、ガブリエル」
 暗い密室の中でガブリエルと2人きり。冗談だよねと言いたげな目で、真志は己を抱きしめている男の顔を見上げた。
「愛していますよ、シンジ」
 めいっぱい本気の顔が、そこにある。
 リムジンが発進する、軽い揺れが伝わった。
「美味しく、いただかせてもらいます」
 時間を無駄にするのは惜しいとばかりに、ガブリエルはすぐさまことに及びだした。
「ひゃっ…だ、駄目だってば…」
 最後の抵抗を試みる真志を背もたれに押し付け、頭を両手で挟んで、ガブリエルは彼の目を覗き込んだ。真志は小さく震えた。
 ガブリエルの唇が真志の唇に押し当てられた。誘うように真志の唇を舌でつついた。やがて、堪えきれなくなった真志は自ら口を開いた。
「んっ…」
 ガブリエルの舌が侵入してくるのに真志は思わず舌を引っ込めたが、執拗に求められて、おずおずと応え始めた。
 一度熱を吐き出したはずの真志の体は再び熱くなってきた。
 レストランの次は街を走る車の中でと、大変困った状況であるにもかかわらず、どうしてその気になってしまうのだろう。もしかしたら露出狂の気があったのだろうか。
「あっ…」
 ガブリエルがふいに体を離すのに、真志は思わず残念そうな声を漏らしてしまった。恥ずかしさに唇を引き結んだ。
「楽にしてくださいよ」
 ガブリエルは笑いながら真志の脚を広げさせ、床に座り込んだ。
「ガブリエル…!」
 真志は仰天した。
 ガブリエルは実に手馴れた仕方で真志のベルトを外すと、ズボンも下着も足首まで引き下ろしてしまったのだ。思わず隠そうとする真志の手を払いのけて、ガブリエルは真志の股間に顔を埋めた。
(嘘)
 真志はウィンドウに頭がぶつかりそうなほど後ろに激しくのけぞった。
「そ、そんなとこ…やっ…あぁっ…!」
 温かく濡れた口腔に包まれ、それ自体が生き物のような淫らな動きをする舌と唇になぶられて、真志のその部分は瞬く間に力を取り戻し、固くなっていった。
 ガブリエルの美しい口でされているかと思うと、それだけで気が変になってしまいそうだ。
 いつの間にか、ここがリムジンの中であるということも、街頭の明々と輝く大通りであり、すぐ脇を別の車が走っていくことも、真志にはどうでもよくなってきた。
「ガブリエル…ガブリエル…」
 真志はガブリエルの頭に手を添え、自らに押し付けながら、腰を動かした。
頭の中がかあっとなって、もう訳が分からない。
 このまま昇天するかと思われた、その瞬間、ガブリエルは唐突に真志の手を振り解いて身を起こした。
「ガブリエル!」
 真志は目を上げ、切迫した声で彼を呼んだ。
「待ちなさい」
 面白がるようなガブリエルの声。
 涙に潤んだ目を真志が開けると、ガブリエルはジャケットを脱いで真志の隣に座り、彼を見下ろした。
「私の上に乗りなさい」
 乗る?
 真志が戸惑っていると、ガブリエルは彼の手を取って導き、後ろ向きに己の膝の上をまたがせた。
「あ…」
 真志は慄いたように目を見開き、逃げ場を探すように周囲を眺め回したが、今更どこにも逃げようはない。
 ガブリエルの手が真志の太腿の下に滑り込み尻の方に向かって這っていく。思わず逃げようと真志は腰を浮かせかけるが、胸に回ったガブリエルの腕がそれを許さない。
 固い蕾を探り当てたガブリエルの指が、そこをつつき、くすぐるように撫でるのに真志は身をよじった。
「ガブリエル…ッ…!」
 ガブリエルの指が真志の内部に押し入った。瞬間、真志は硬直した。慣れない異物感にぞっと震え上がり、逃げようともがいた。
「や、嫌だ、ガブリエル…離して…くっ…」
 更に深く押し入って、刺激を与えながら内壁を探っていく、ガブリエルの長い指にどこか変な所を突かれたらしい、真志はがくっと力がぬけそうになった。
「ここが好きなんですか?」
 真志は嫌々をするように頭を振った。
「知らない…知るもんか…」
 そう訴える声も甘くかすれてきている。ガブリエルの指が動くたび、奥底から突き上げてくる快感に、真志は呆然となっていた。
「あなたが辛くないよう、よくほぐしておきましょうね」
 言うなり、ガブリエルはもう一本指を増やした。
「あぁっ!」
 真志は跳ね上がった。ガブリエルの指にそこをこじ開け、押し広げ、ぐるりとかき回されて、真志は痛いくせに気持ちがいい、初めて知る感覚に震えるばかりだった。
「はっ…あぁっ…あっ…」
 どうして、こんなおかしな声が漏れるのだろう。真志はおぼつかない手で口を押さえた。
 頭がおかしくなりそうなくらい、本当に、いい。
 ふいにガブリエルの指がぬかれた。
「あっ…!」
 戸惑う真志の熱を持った耳を、ガブリエルは後ろからそっと唇でついばんだ。
「もう、いいですか、シンジ?」
 ガブリエルは真志の手を捕まえると、露出した、熱をはらんだ己のその部分に触れさせた。たじろいだように、真志は手を引っ込めた。 
「シンジ?」
 真志は、緊張のあまり固くなって、うつむいた。今更嫌とは言えないことは、さすがに分かっている。
「力を抜いてくださいよ」
 ガブリエルはシンジを優しくなだめるように囁いて、なるべく丁寧にほぐした、真志のそこに己を押し当て、ゆっくりと身を進めた。
 瞬間、真志の目の前がスパークした。
「ひっ…ああぁっ…!」
 先程とは比べようのない異物感とめりめりと引き裂かれるような痛みに、真志は絶叫した。接合が外れそうなほど伸び上がって、逃げようとリムジンの天井に手をつき、固めた拳で叩いた。
「シンジ…シンジ…」
 ガブリエルの腕が真志の体に絡みついて、引き戻す。再び体を密着されて、真志はガブリエルの上で痙攣した。
「ひっ…くっ…あ…ああっ…」
 真志は涙を迸らせながら、頭を激しく振りたてた。汗が噴出す。体中が熱く、ガブリエルと繋がった、そこが特に燃えるように熱くて、真志は火を吐き出すような思いで息をした。
「あ…ガブリエル…ガブ…っく…はぁ…んっ…」
 いつの間にか、ただ痛いだけの交わりが別の感覚を真志に与え始めた。カブリエルの手は真志の立ち上がったセックスをしっかりと包み込み、彼の快感の波に合わせるようにしごきあげている。真志が搾り出していた苦鳴も、やがて甘くとろけていった。
「シンジ…」
 ここまで自分を保っていたガブリエルの声も、さすがに掠れてきていた。
「もっと…あなたの声を聞かせて…ください…」
 やにわに、ガブリエルは腰を激しくくねらせ始めた。
「あっ…ああっ…ガブリエル、ガブリエル…!」
 真志は喉も裂けよとばかりに絶叫した。抜き差しされるたびに、快感が波のように全身を襲い、ひしぐ。
 真志は両手を大きく上げ体を大きくそらせながら、叫び続けた。
 高く、高く昇っていく。はるか天上に満ちる光の中へ、真志は入っていく。
 真志の意識は飛んだ。
 その刹那、真志は奇妙な夢を見た。
 この街で燦然と輝く綺羅星の1人となった自分を夢に見た。真志の名が料理界を騒がせる、そんな日を見ていた。
 アカデミー・グルマンディーズの定例会で、真志が賓客達を相手に堂々と腕を振るい、その傍らには彼の大天使が寄り添っている。
 その席では、至福の一時が、生きている喜びや感動が、最高の料理と共に供されるのだと人々は語る。料理の天使とその料理長が共に織り成していく、それは夢の晩餐だ。
 そう、未だ見果てぬ真志の夢だ。
「あぁっ」
 己が弾け飛ぶのを覚え、次いで、己を強く抱きすくめるガブリエルの体が軽く痙攣するのを感じ取った。
「あ…ああ…」
 真志はリムジンの天井に腕を突っ張ったまま、荒い息をついた。ぐらぐらと揺れる頭をしゃんとさせ、何気なく横の窓を見る。
 するとリムジンに並んで信号待ちをしている車の窓から、引きつった顔でこちらを見ている男と目があった。
「ぎゃあっ」 
 真志は悲鳴をあげて、身を小さくちぢこめた。
 穴があったら入りたい。 
 ガブリエルの笑い声を背中に聞いた。
「真志は恥ずかしがり屋さんですねぇ」
 違う! 
 真志は頭を抱えた。
 よろよろとシートに戻ると、真志は床でもみくちゃにされていたズボンと下着を拾い上げ、泣く泣く身に着けた。
「ひどい奴」
 じろりと睨みつける真志の不機嫌などどこ吹く風、ガブリエルは実に満足そうで幸せな顔をしている。
「こちらに来なさい、シンジ」
 真志は少しの間膨れた顔をしていたが、ついには、根負けしたようにガブリエルに擦り寄ってその肩に頭を預けた。ガブリエルの腕が真志に回される。
「あのね」
 真志は、眼差しを伏せ一瞬考え込んだ後、何かしらうっとりとしてガブリエルに囁きかけた。
「さっきね…ガブリエルとその…してる時、変な幻みたいなの…見たよ。一瞬意識が飛んだのかなぁ…ちょっと素敵な夢を見たよ」
「ああ」
 ガブリエルはふと黙り込んだ後、意味ありげな含み笑いを漏らした。
「それは正夢ですよ」
 真志は目をぱちぱちさせて、ガブリエルの顔を覗き込んだ。
「これも、ある種のジンクスと言うんですかねぇ。私とセックスした時に見た夢は現実になると、一部では囁かれているんです」
 真志の顔が引きつった。
「素敵な夢だったんでしょう? なら、よかったじゃないですか。それは現実になりますよ。私が保証します」
 ガブリエル、あなた、本当に人間?
 リムジンは急に速度を落としたと思ったら、停車した。真志のアパルトメントについたのだ。
 運転手がドアを開くのに、ガブリエルは滑るようなしなやかな身のこなしで外に出た。
 その姿を、真志はリムジンのシートで固まったまま、呆然と眺めていた。
 アパルトメントの玄関前にある古びた灯りがその姿を照らし、美しい影を歩道におとしている。
 その影に一瞬翼めいたものが広がって見えて、真志は息を飲んだ。
 ごしごしを目をこすって、ガブリエルの姿を見直すが、どこにもおかしなところはない。たぶん肩に羽織ったコートが風に翻っただけだろう。錯覚だったのだ。
「シンジ?」
 肩越しに振り返る顔は、しかし、やはり人間離れして超然としている。
 こんな人の相棒など、真志につとまるだろうか。でも―。
「ガブリエル」
 真志は大きく深呼吸をして、思い切ってリムジンから飛び降りた。
 怪訝な顔をして真志を待ち受けているガブリエルに近づき、その手を取って、にっこり笑いかけた。
「運動したから、おなかがすいたんじゃない」
 ちょっと紅くなりながら、真志は囁いた。
「中に入ろう。芋粥、すぐに作ってあげるよ」
 真志は、ガブリエルの手を引っ張りながら、先に立ってアパルトメントの門をくぐった。
 パリに来て、真志が自分から捕まえようとしてやっとつかんだもの、この手を再び離すことなどありえないと真志は思っていた。


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