「おまえを手放せるものなら、そうしたいよ。でも、できない」
「どうして?」
「どうしてもできないんだよ。それに、たとえ、ぼくがおまえを手放せたとしても、おまえは離れられないさ」
一卵性双生児の医師が変死体となって発見された。二人の死は自殺だったのか、それとも?
という出だしで始まる長いお話なのですが、ミステリーというより、むしろ、とても完成度の高い心中譚、『子宮の中で婚姻していた』決して子をなすことのないカップルの愛と死の物語です。
物語の主人公は、双子の弟のマイケル。
美貌にも才能にも恵まれているのに、繊細すぎて、彼の患者である末期癌の女性たちが死んでいくにつれ、徐々に壊れていく、どうしようもなく可哀想な人です。
彼は、同時に、ずっと兄のデイビッドの呪縛から逃れようとあがき続けるんですが、結局捕まってしまう。
デイビッドは、彼なりにマイケルを救おうとしたんでしょうが、崩壊していく弟に対して彼ができたことは、道連れになってやることくらいだった…。
悲劇的な結末ではあるんですが、後味が悪くないのは、救いであれ破滅であれ、彼ら自身が自ら選んだ結果だったからでしょう。
あそこで、マイケルが、妻子のもとに帰って自分だけ助かったりしたら、納得でき〜んと、本を床に叩きつけていたでしょうね、私。
私は、とにかく『双子』というキーワードに弱くて、一時その関係の本を、小説、マンガ、果ては心理学的なものまで読み漁ってまして、その中で、「これだ!」と思ったのが、この小説なのでした。
いや、もうどうして私の読みたいもの分かってくれるのかなって、感動。
初めて読んだのが、もう10年位前なんですが、いまだに、この話を超える双子ものには出会ったことがありません。
それくらいの名著です。
医学的なこととか、結構小難しい部分もあるんですが、ぐいぐい引きずられてしまいます。
これ読んでしまったら、そこらへんの吹けば飛ぶよに軽いノリのボーイズラブ小説なんか、へみたいなものですよ。
とにかく、ずしっと胸にこたえるラブストーリー、読み応えのある同性愛小説をお探しの方には、お勧めの一冊。
ただ、これ、2年前くらいに私の友人が探そうとしたんですが、絶版になってまして、彼女も古本屋巡りでようやく探し当てたレアものなんですね。
いい話なのに、再販してよ、ハヤカワさん。
でも、図書館や古本屋で探しまくっても一読する値打ちはあると思いますよ。
ちなみに、この話、映画化もされてまして、監督はデヴィッド・クローネンバーグ、主演はジェレミー・アイアンズと、なかなかの豪華さです。
賞も幾つか取ってるみたい。この映画は映画でいいできだし、萌え場面もあったりするんですが、主人公二人のホモセクシュアル色を取り除いた点、小説とは別物として見たほうがいいでしょう。
まあ、なんぼ名優でも、アイアンズの1人ホモは見たくないなぁと個人的にも思ったり。
いや、結構好きな役者さんなんですけどね。