潜入ボローニャ大学

ボローニャ大学にある人体解剖博物館を訪れる。これは、今回の旅のハイライトの一つでした。
相当マニアックな場所であることには違いない。どうして、こんな所を訪問しようと思ったかというと、昔読んだ怪しい旅行本とか、友人に見せてもらったここの展示を紹介した書物の影響だったりします。そんな所で見た写真の数々に非常に感銘を受けていて、せっかくイタリアに個人旅行で行くんだったらぜひ見に行こうとボローニャ行きが決定したわけです。どうせなら普通の観光客がまず行かないような「濃い」場所に行ったれという意気込みもありました。そして、この「人体解剖博物館」は期待を裏切らず「濃い」ものであることに間違いなかったのです。

11世紀にヨーロッパ最古の大学が生まれた学問の街ボローニャ。世界初の人体解剖が行われたというボローニャ大学内に「人体解剖博物館」はひっそりとしてあります。私が着いたその日、早速訪れるつもりだったのですが、生憎とリューアルオープンのために閉館中。翌日に改めて訪れることに。「まあ、別にいいか、明日見れるなら」と簡単に思ったんですが、それがなかなか大変な思いをすることに…。

さて、この「人体解剖博物館」、一ヵ所だけかと思いきや、インフォメーションでもらった冊子を見ると、二ヶ所に分かれているようです。せっかくだから、両方見てやろうと、地図と住所をたよりに出かけました。最初に訪れた博物館は、地学とか動物学とか他のテーマの展示を扱った部屋と一まとめになった博物館の中の数部屋という感じでした。規模は小さいのですが、展示されているものはなかなかすごかったです。ここにあるものは基本的に医学標本、何でも二百年前に本物の死体をベースに蝋人形師が製作したものだそうです。確かに一瞬本物かと怯むほどの見事な出来です。以前大坂で「人体の不思議展」を見た時のショックを思い出しました。違うのは、ここにあるのは蝋人形だということですが、生々しいくらいに本物めいているんですね。これらの蝋人形の技術がロンドンのマダムタッソーに伝わったとか。学術的なモデルではあるんですが、本当にいい仕事しているというか、人形の表情とかもリアルで艶かしくて、ここまでいくと一種の芸術だなぁって感心。私が見たかったもので、マリアをイメージにした開腹された人形があるんですが、その表情が何とも色っぽくて、綺麗なのです。後、何故か、婦人科系(?)というか、子宮や胎児のコレクションが多かったですね。こちらの展示は割と簡単に見ることができたのですが、問題は、初日にリニューアル中だった別館。少し離れたボローニャ大学医学部(たぶん)の中にあります。ツーリストインフォメーションで確認したオープンの時間通りに訪ねていったのですが、行ってみたら、「今日は観光客は入れない」って。何で?どうやら、関係者オンリーのリューアルオープン記念イベントがあったみたいです。翌日来なさいって、受け付けのおっちゃんに言われたので、仕方なく撤退。次の日はフィレンツェに向けてたつ日だったんですが、その前に立ち寄ることにしました。そこまですることはなかったのかもしれませんが、半ば意地になってたんですね。

で、最後の日。今度こそ入れてくれるだろうと意気込んで、大学の門をくぐりました。受け付けには昨日と同じ白衣のおっちゃんがいます。また、来たの、そんなに見たいんだ?みたいな顔をされました。そりゃ、まあ、普通の観光客はあまり来ないでしょうから。ちょっと待ってねってしばらく待たされて、おっちゃんはどうやら展示室の方に確認を取ってるみたいです。この辺りでちょっと嫌な予感がしたんですが、案の定、「オープンは週明けからになったんだよ。来週おいで」だって。こらこらこら、あんた、昨日は「明日から」だって言ったじゃない。その前だって、インフォメーションでは確かに昨日から見れるって聞いたのに。イタリア人、いい加減過ぎるぞ!何回も通わせて、オチがこれかい、ひどすぎる。食い下がりました。来週なんて、無理、私、今からボローニャたつんだもん。ちょっと目もうるうるさせてみたり。情に訴えたのが効いたのか、おっちゃんはもう一度電話をしてくれました。そうして、君の熱意には負けたよと言ったのかは分かりませんが、「今日は特別に君のためだけに展示室を開けてあげるよ」って。ありがとう、おっちゃん。いい加減だけれど、融通もきくのがイタリア人なのか。こうして、やっとの思いで、もう一つの人体解剖博物館に入れることになったのです。

そして、問題の展示室。いやぁ、はは、昨日のより更に濃い。解剖された人体のモデルもありますが、特徴的なのは、先天性の奇形や病気のモデルでしょうか。現代では治療法があるのでここまで放置しておくことはないだろうというような進行したガンや皮膚病とか性病とかの症例のモデルです。これらも実際に見て作ったんでしょうね。医学的には、だから、非常に興味深い貴重なものだと思います。けれど、さすがにすご過ぎた。あんまり写真を撮ろうという気にはならなかったです。夢に出そうで、恐かった…。

こうして、何とか目標の人体解剖博物館を制覇することができました。普通の観光したい人には、他を置いてもここというほどお勧めの場所ではないのですが、医学に興味のある人や、ちょっと変わったものを見たい人は訪れてみてください。

実は、博物館見学のオチに、受け付けのおっちゃんにナンパされるというのがありました。あはははは。そういうタイプには見えなかったけれど、やっぱりイタリア男だったか。ごめんね、おっちゃん、親切は嬉しいけれど、私は先を急ぐ旅人だし、彼の片言英語が分からないフリして、さよならしました。

こうして、現地の人との束の間の触れ合いを楽しみつつ、私は、次の目的地、フィレンツェへと出発したのです。

人体解剖博物館の数々の展示

子宮の中にはキリストを表す胎児が隠れている

本物…? 目があいそうで恐かった

おまけマンガ オルソン兄弟in双子部屋


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