1.この小説を書き終えた、今現在の心境を一言で簡潔に言い表してください。
フルマラソンを完走したランナーの気分。
2.この小説を書く上で、一番書きやすかったところはどこですか?
キャラクターの心情表現。別に時代や設定がどうだろうと関係なく好きで、最も腕がなる部分。
3.この小説を書く上で、一番苦労したところはどこですか?
時代物で、また材料が『カストラート』なんてマニアックなものであったため資料集めからして苦労しました。
嘘ついてたら、ごめん。
4.ボツにしたタイトル、仮タイトル、執筆中のコードネームなどありましたら教えてください。
『太陽の涙』とか考えたこともありましたが、即ポツに。ラストシーンのイメージからわいたものだと思われます。
5.タイトルの由来(意味)は何ですか?
そんなに深く考えた訳ではないですが。やっぱりヴァンパイアものだし『血』は入れようと。『天使』は、歌うミハイの描写に、またうちのヴァンパイアの設定が堕天使の末裔であり、作品の中で頻繁に使うモチーフであったので。
6.この小説を書き始めるきっかけはなんでしたか?
キリバン企画としてうちの長編『愛死』から読みたい番外編のアンケートを取った折、若い日のレギオンの話がトップになったため、よっしゃ書いたると公言してしまったこと。
まさかこんな長編になるとは思っていなかった。うかうか企画なんてたてるものじゃない(笑)。
7. この小説を書く上で、何か影響を受けたもの(他の作品や、他媒体の創作物など)はありますか?
もともとは随分昔に見た映画『カストラート』。これでカストラートの存在を知り、興味を持ちました。
それからかなり経って、今度はアン・ライスの小説『トニオ、天使の歌声』を読んで、再びその存在を思い出し、いつかこれをネタに小説書きたいなぁとむらむら。
話の筋書きを考える時にちょっとイメージしたのは映画『危険な関係』。ゲームで貞淑な女性に恋を仕掛けた色男が本気になった途端相手に対して恐怖する…でも、途中から話変わっちゃったけれどね。
8.これがあったから、この話がかけました!(これがなかったら、かけませんでした!)というものはありますか。
上記の『カストラート』とアン・ライス。アンガス・ヘリオットの『カストラートの世界』。 これらがなかったら、そもそも資料少なすぎて書けませんでした。
それと、キャラクターに対する、愛。当然。
9.ボツにしたストーリー展開を教えてください。
書いているうちに話はどんどん変わっていきました。
サンティーノがこんなに活躍する予定はなかったし、レギオンはぎりぎりまでミハイに対する恋に気づかずゲームだと思い込もうとしていた感じ。ミハイはもう少し簡単にレギオンになびいてしまい、あんなにレギオンを梃子摺らせ圧倒することはありませんでした。
レギオンがミハイをいかに落とすかの駆け引中心だったのが、サンティーノの乱入で微妙に三角関係テイストに。
初めのプロットではあっさりしすぎるとエピソードを追加していくうちに、キャラクター達が勝手に動いて話を作っていってくれたようです。
それから、一番初めに考えたプロットでは、レギオンがミハイを殺すラストになっていました。
作者としては、初めの話よりはこっちのが面白くなった、と思います。
10.プロット(思惑)どおりに進みましたか?
プロット通りに進んだのは第3章のあたりまでですね。後は、どんどんプロットに追加し、書き直すことになりました。
11.これが書きたくてこの話を書きました、という部分はどういうものですか?
題材としてのカストラート。
カストラートが歴史上一番脚光を浴びたのは17、18世紀だったので、この作品の舞台である15世紀はまだまだ黎明期。ただ読んだ資料の中で、去勢歌手自体はずっと昔から存在し、コンスタンチノープルでは10世紀あたりから常に教会で去勢歌手が用いられていたような文献が残っており、状況から推測して早くも14世紀にローマでもカストラートが現れたとしても驚くにはあたらない、という記述があったんですね。そこから、ミハイというキャラクターをコンスタンチノープル経由でイタリアに渡った去勢歌手として作ったわけです。オスマン・トルコによるビザンチン帝国の崩壊という歴史上の大事件の余波という形でヨーロッパに浸透していったカストラート、という勝手な解釈にしてみました。
12.一番こだわったところはどこですか?
ミハイのキャラクター作りにはこだわりました。当時の歴史を色々背負った生い立ちも黎明期のカストラートとしても、設定には力が入りました。
13.一番好きなキャラクターと、一番嫌いなキャラクターを、理由つきで教えてください。
一番と言われると悩むけれど、なんだかんだといってレギオンは好きですね。でも、一番感情移入しやすいのはサンティーノ。
嫌いなキャラはいません。オルシーニでさえ、ある意味可哀想な人だったので嫌いではない。
14.実際にいたら嬉しいキャラクターと、実際にいたら厭なキャラクターを教えてください。
いたら嬉しいのは、ミハイ。生で歌って欲しいから。
嫌なのはレギオン。好きだけど、身内には欲しくないタイプ(笑)。だって、こんな身勝手我侭男のお守りは大変でしょう。私にはサンティーノの忍耐強さもブリジットの母性もありませんから。
15.この人にはこの言葉を言わせたかった!という台詞をキャラ別にどうぞ(実際に言わせていなくてもOK)。
レギオン
「分かっているのなら、もう悩むな。人間を殺す度に、いちいち君は、そんな破瓜の血を見た処女みたいな顔をしているのかい?」
サイテーですね。
「ミハイを殺せたとか殺せなかったとかの問題じゃないんだ。私は、そうしなければならなかったんだ。あんなふうにむざむざ死なせてしまうのではなく、他の誰でもない私が彼をこの手で殺し、血を飲むべきだった。そうすることで彼が駆け抜けた短い人生を、彼の喜びや苦しみを、ミハイの全てを受け取って、この私が彼の命を生きなければならなかったんだ…彼を本当に愛していたのなら!」
何か悟ったのかな。
ミハイ
「愛だって? そんなもの、僕は知らない! 知りたいとも思わない。男であれ女であれ、誰彼構わず、節操なく生じる君の愛など、僕は全く欲しくなどない!」
「君の言うことなど、僕はもう信じない。君など、さかりのついた犬同然だ。いや、犬の方が君よりまだましだとも!」
よくぞ言ってくれました。
「もしも歌など歌えなかったら、僕は今頃どうしていたのだろうかと思うことがある。僕は普通の男として成長していただろうか。でも、たぶん、今のように1人ヨーロッパに逃げ出してここまで成功することはなかっただろう。もしかしたら、今でもトルコ人の奴隷でありつづけ、兵士としてかつての同胞達と戦わされていたかもしれない。とうに僕は死んでいたかもしれない。実際、何がよかったのか、悪かったのか、言い切ることは難しい。ただ1つ言えることは、僕は今生きている。失ったものに対する痛みや苦しみはあるけれど、ここでこうして生きて、歌っていられるということは、僕は…運命に打ち勝てたんだろうか…?」
ミハイの葛藤がよく出てるかなぁと。
サンティーノ
「君は、いつもいつも、そうやって僕を混乱させる…僕がどんなに取り繕っても、そうやって隙を突いて心の中に入り込んできて、僕を振り回す…いっそ君を嫌いになれれば、どんなにか楽になれるだろうに」
サンティーノの台詞は切ないものが多いですね。
(今は他の人を愛している君も、いつかは僕を振り返ってくれるかもしれない。未来がどうなるかは分からないけれど、でも、僕達には幾らでも時間がある。レギオン、君のためなら、僕はきっと…永遠でも待てるよ)
いいのか、それでー? 都合のいいオトコにされてしまいそう…。
16.この小説の登場人物たちを使って、別の話を書く予定はありますか?
はい。長編『愛死』の方でレギオンとサンティーノが続投中です。
17.この小説の中でこの部分が一番会心の出来なのです! というシーン(か台詞)を抜粋してください。
第4章『影に歌えば』で、ミハイがレギオンに連れられて行った酒場で歌うシーン。その後のレギオンとの語り。
第5章『熱情』の最後、クリスマス・イブのミサ、ミハイがレギオンの姿を会衆席に見出し、彼にとって生涯最高の歌を歌うシーン。
第6章『謝肉祭』で、レギオンとミハイが共に祭りを楽しむシーン。
第7章『夜明け前』の最後、丘の上の廃墟から、レギオンがサンティーノと共に夜明けを眺めるシーン。
エピローグでレギオンがサンティーノに『傍にいてくれ』というところ。ダメダメでも好きよ、レギオン。
18.この小説で取り上げたテーマやアイデアに、もう一度別の形で挑戦してみたいですか?
カストラートはもう書かないと思うけれど、ヴァンパイア達の永生ゆえの孤独やそれから脱するための手段、人間との恋について、引き続き『愛死』でもっと突っ込んで書きたいです。
つかず離れず状態で終わったレギオンとサンティーノもそっちで何か進展あるかなー。
19.何か、これだけはしておきたい言い訳というのはありますか?(笑)
ハッピー・エンドにできなくて、ごめんなさい。でも自分としてはパッド・エンドだとは思っていないんですが。
ミハイはあれでも幸せで思い残すことはなかったと思います。見方を変えれば最高のまま人生終えたんですよ、彼は。
レギオンの若い時の物語として始めたんですが、あんまり彼の人気はなかったようですね。サンティーノがダントツ人気でありました。
『愛死』での彼らとはそれぞれイメージがかなり違っていますが、こんなに初々しくてダメダメで泣き虫な若い頃があったんだーということで、これはこれで楽しんでいただければありがたいです。
20.最後に一言どうぞ!
ここまで付き合ってくださって、本当にありがとうございました。
貴方の心に何か触れるものがあったなら、作者としてそれに勝る喜びはありません。
なお、この質問はこちらからいただきました。