宵闇
「若、今頃、どこへお出かけに?もうすぐ、夕餉ですよ。」
紺の風呂敷包みを抱えて、広い庭の飛び石を駆けて行く眼鏡の少年を、庭を掃き清めていた男が呼び止めた。
更に首だけが、少年の所に大慌てで飛んでくる。
「首無!あのね、鴆のところへ行くんだよ!頼まれていた薬を、おじいちゃんから言付かったんだ。なるべく、早く届けてあげたくてさ!」
小柄な少年が、表門の手前に待たせてあった、朧車に大急ぎで乗り込む。
少年が足を掛けた踏み板が、きしりと音を立てた。
「遅くなるようだったら、向うに泊まるから!じーちゃんには言ってあるし、大丈夫だよ!」
車の後ろの御簾の隙間から、顔を覗かせて、まだ声変わりを迎えていない少年の愛らしい声を残すと、おぼろ車は、ごおっという風の音と共に夕空へ掻き消えた。
そして、暮れ行く空には、まるで名残のように霞が漂っている。
「 リクオさま!私も付いてまいります!供なしで、お一人で出かけてはなりません! 」
濡れ羽色の小さな鴉天狗が羽ばたきながら、玄関を飛び出してきたが、既に主の姿はなかった。
「ああっ〜!また、勝手に‥!あれほど、お一人ではなりません、と申し上げているのに!気まま過ぎます!」
すると、表門で朧車を見送っていた青年の首が、振り返った。
「もう、行っちまいましたよ。よっぽど、お急ぎだったんでしょうよ。」
のんびりとした声を出す庭男の首を鴉が恨めしげに睨んだ。
肝心の庭男の身体は、表門から離れたところの木立ちの片隅で落ち葉をかき集めている。何ともおっとりしたものだ。
三代目を継ぐと決めた若の重責を思うと、首無は、せめて今は好きにさせてやりたいのだろう。鴉天狗は、ため息を漏らした。
何れ大将になると決心したからこそ、心掛けなければいけないことも多いのだ。今までと同じというわけにもいかないということ自覚してもらいたい。
****
「よう‥鴆。お前が、じいさんに頼んでいた薬を持ってきてやったぞ。」
玄関の取次ぎを通ることなく、闇に包まれた庭から、のっそりと落縁に姿を現した三代目に驚いた鳥妖の男は、驚いて褥の上に起き上がった。
闇の中で仄暗い燈火に、その声の主の訪問者でもある男の姿が浮かび上がる。熾火のような紅い瞳。銀と黒の長い髪。墨黒の着流しに藍染の羽織を纏っている。
「リ‥若頭!こんなところまで、わざわざ足をお運びで‥。」
驚く鳥妖の声に動じることなく、長身の妖の男は懐に入れていた右腕をするりと出した。
「夜分に悪いが、上がらせてもらうぞ。」
言い終わるか終わらないかの内に、靴脱ぎ石に草履を無造作に脱ぎ捨て縁側に上がりこんだ長身痩躯の長髪の妖の男は、腰の白鞘の長脇差を抜き、ゆったりと胡坐をかくと右へ刀を置いた。
「‥で、具合はどうなんだ。じじいが薬を持っていって、見て来い、というから来てやったぞ。」
寝床に身を起こし、苦しげな声で鳥の妖は返事をした。
「‥すまねえ、若頭。なかなか熱が下がんねえんだ。きっと、この間、本家に行ったとき、どうも人間の風邪を貰っちまったらしくてな。しかし、たかが風邪ぐれえで情けねえもんだ。生憎と、どの薬もあんまり効かなくてよ。」
若頭妖は、ようやく合点がいったとばかり頷いた。
「‥で、この薬草かい?鳥の妖怪には、良く効くってじじいが言ってたぜ。煎じて飲むといいんだって。本当かい。」
長髪の妖が抱えていた風呂敷包みを畳の上におき、勝手に解くと、現れた鳥の子和紙を開き、乾燥して褪せて変色し、細かく切られた薬草を、まじまじと眺めている。
「しかし、この薬草不味そうだな・・。」
薬好きでない妖らしい言葉だった。
「‥ああ、薬ってのは菓子じゃねえからな。」
鳥妖は一つ咳き込んで、答えた。
「じゃあ鴆のために、早速、煎じてもらうか。」
若と呼ばれた着流しの妖怪は、畳に左手を着き、くるりと廊下側に向きを変えると、今度は右手を伸ばして障子を開け、声を出した。
「おーい。本家の者だ。誰かいないか。鴆に薬を煎じてやってくれ。」
妖の男は、開けた障子の隙間から、面倒くさそうに顔だけ出し、気だるげに人を呼んだ。その拍子に広い肩から藍色の羽織が滑り落ちる。
だが、暗闇の廊下の中で、返事はなかった。屋敷の中は静まり返っていた。
「無用心だな、誰もいねえぞ。」
「リク・・若頭、来てもらったのにすまねえ、家の者は今夜は暇を与えて出かけてもらっている。散々看病してもらって、これ以上無理は言えねえし、今も急な往診にも代わりに行ってもらっている。明日の朝にでも煎じてもらうさ。そこに置いておいてくれや。」
鳥妖は、苦しげな息で答え、再び床に褥に横たわった。
「すまねえ、若頭。具合が悪いんで、横にならせてもらいます。若も早くお帰りを。本家の者が心配しますから。」
すると、若妖が振り返った。
「・・・けど鴆、薬は早く飲んだほうがいいぜ。じいさんから、熱が見る間に下がるって聞いて急いで持ってきたのさ。」
綾織小袖の妖は、床の横に座り込むと、熱で乱れた息遣いの鴆の顔をじっと見つめた。そして、何を思い立ったのか、そっと手を伸ばす。その動作に驚いた鴆は、一瞬、顎を引いた。
「・・何、ビビッてやがる。鳥だからって、取って食いやしねえよ。」
若頭の男は可笑しそうに笑った。羽織の衣擦れの音と共に、大きな掌が鴆の額を覆う。リクオが冷え込んだ夜空をやってきたせいだろうか、手が冷たい。その冷たさが鴆には心地よかった。
「すまねえな、若。心配までさせちまって。」
「熱が高えな。やっぱり薬を飲まねえとな。」
着流しの妖怪が声を掛けたが、いつの間にか、鳥妖は荒い息を吐きながら眠っていた。随分熱で体力を消耗しているようだ。尊敬してやまない三代目が目の前にいるというのに目を覚ましていることも出来ない。
妖の男は、返事をしなくなった昔なじみの義兄弟を眺め、風呂敷包みを鷲づかみにすると、立ち上がり、障子を開け離したまま、暗闇の廊下へ消えた。
* * *
「おい、鴆。眠っているところ悪いが起きろ。・・相変わらず熱が高いようだな。」
突然、肩を掴まれた鳥妖は、目を覚ました。熱で顔が火照ったままだ。
「‥わ、若頭。まだ、居られたので?もう帰ったとばかり。」
熱で頭がぼんやりしている鴆は、とろんとした目つきで若頭を眺めた。その若頭の顔の上で燈火の明かりが儚げに揺らめいていた。
「鴆、台所を借りたぞ。じいさんに言われた通りに煎じたんだが、これでいかい?」
若頭の妖の座っている傍らには、盆が置かれており、その上には、湯飲みが湯気を立てている。
「そんな、滅相もない‥。家の者が留守で申し訳ない。」
戸惑う鴆を他所に、次期三代目は気にも留めない。
「‥さてと起きられるか、鴆。しかし、凄げえ、汗だな。」
躊躇することなく鴆の汗ばんだ背中に大きな手と腕が入る。鴆の背中が褥から離れると汗臭い匂いが漂った。
「す、すまねえな、リク‥若頭。もったいない。」
奴良組の下僕に過ぎない鳥妖の病の汗と病で汚れた身体を、若頭の広い肩と胸、頑強な腕が支える。
「ほら、飲め。」
若頭の妖は、右腕、右肩で鳥妖の重い身体を支えながら、左手で湯飲みを掴むと、目の前に差し出した。
「かたじけねえ‥。」
鴆は、熱で震える両手で湯飲みを受け取った。恐る恐る口元に持って行くと、弱々しく啜る。そのとたん、咽て咳き込んだ。
「おい、大丈夫か?」
妖の男が覗き込む。銀色と墨色の髪がさわりと胸へ流れ落ちた。切れ長の目に紅色の瞳がちらと揺れる。頬骨のところには、燈火の微かな影が落ちていた。黒無地の長着の緩めの合せには白い襦袢が見える。鎖骨は見えそうで見えなかった。
ああ‥そうだと鴆は思った。昼のリクオと夜の若頭はまるで別人だと思っていたが、それは間違いだ。世話好きでおせっかいな中学生のリクオは、夜の若頭になっても世話好きだ。何の特にもならない死に掛けの妖の世話を焼いている・・。
煎じ薬をどうにか飲み終わった鴆は、肩で大きな息を付いた。
「すまねえ・・。もう大丈夫だ。」
「今夜は、酒でなくて残念だったな。また、よくなったら飲み交わそうぜ。」
妖の若頭は楽しげに言った。
「・・・ん、どうした、震えてんのか。体中、ガクガク言ってるぞ。」
鴆が飲み終わった湯飲みを盆へ戻す。
「・・いやあ・・熱のせいかもしんねぇが、昼から寒くてたまんなくて・・。それで使いを本家にやって、薬を頼んだのよ。」
鴆が情けない面持ちで若頭を見上げた。
「・・・もしかしたら、自分の毒が回ってんのかもしんねぇ。そろそろ、おしまいかもしれねぇな・・。」
「それで、じいさんが東南渡りの毒消し薬が手に入ったから持っていけといったのか。お前んとこは薬師だから、おかしいと思ったんだ・・。」
「総大将にお礼を言っておいてくれ。いくら、薬師でも、なかなか東南渡りの薬草は伝手が無くては手に入れねえんだ。さすがは、威光高いぬらりひょんさまだぜ。」
鳥妖は肩を落とす。寒気が酷いのか、その肩がぶるぶると震えていた。
「寒いぜ、今夜は冷たい夜気が辛え・・。」
鴆が若頭を見上げた。
「ああ・・傍らに女でもいれば、暖かく眠れるんだがな・・。ぬくぬくだぜ。なあ、リクオ、俺はこれでも、昔は女にもてたのよ。以前は、いくらでも寄ってきて、女には不自由しなかったね。しかし今は、このざまだ。誰も毒に当てられたくねえもんな。」
「そういえば、お前、嫁はいなかったんだな。寝る女が沢山いても、子を産んでくれる女はいなかったのかい。」
若妖は静かに問う。
「はっ・・誰が命短い男の嫁になるもんか。最後は毒の塊みたいなもんだしな。案の定、誰も孕まなかったぞ。せっせと励んだのによ。」
「・・・・・・・・・。」
若頭の男が胡坐を組みなおした。
「‥なあ、鴆。中には、お前の女になっても言いという、奇特な女はいなかったのかい。」
鴆は、自虐気味に笑った。
「‥さあな。‥もしかしたら、俺は本気で惚れた女がいなかったのかもしれねえな‥俺には、元服前だったが忠義を立てた二代目がいたし、何よりお前と杯を交わして、お前に全てを捧げることにしたんだ・・それで、十分さ。本家には、男気のある男衆ばかりで、楽しいしなあ・・酒を飲み交わす奴には不自由していなし、寂しくはないさ。」
若頭が胡坐をかいた膝の上に肘を付き、掌の上に顎を乗せた。
「‥つまり、鴆は勇ましい男供に囲まれていれば、十分ってことか。鴆」
「まあな・・。」
ぶっきら棒に答える
「‥そういうことか‥‥‥‥。」
若頭が掌から載せていた顎を退けると、鴆の方を向いた。
「‥俺は誰にも言わないでおくぞ。・・お前は俺を信じていい。」
「‥はぁ?」
「‥お前が男にしか惚れられないことは、他の奴は知らないんだろう?」
鳥妖は褥の上に飛び起きた。その途端、ごほごほと激しく咳き込む。
「ゲホッ!突然、何を言い出すんだ、リクオ!」
「‥別に隠さなくてもいいと思うが、言わないというのも、お前の考えだからな。」
「いきなり話がぶっ飛んでるぞ!」
「‥‥‥‥‥‥‥。」
今の会話のどこをどう解釈したら、こんな内容になるのか、鴆には想像もつかなかった。やはり現代っ子の昼のリクオの影響なのか・・・。
「それより、ガタガタ震えてるじゃねえか。これでも羽織れ。」
寝床に身を起こしている鴆の上掛けの上に、藍染の羽織が放り出された。鴆がその藍染を見つめる。いい仕立ての羽織だ。汗にまみれた男に貸すものではない。答えに窮していると、若頭は呟く。
「‥いや、考えてみれば、こんな物では、温まりそうもないか。全身ブルブル震えてやがる。鴆、重症だな、これは。」
若頭はそう一言、言うと、いきなり厚い上掛けを右手で掴むと捲り上げた。
「こら!リクオ!なにすんだ!凍えるほど寒いって言ったばかりだろうが!」
鳥妖は取られた上掛けを取り返そうと、男の方へ身体を伸ばした。が、若頭は、それを押しとどめる。
「‥女でなくて悪いが、今宵は望月、いつもより妖の血が熱いときてる。少しは、湯たんぽ代わりになるだろうよ。」
「‥はぁ?」
見れば、若頭が一人住まいの病の男の褥へ、ごろりと横になった。
「リクオ!お前、何やってんだ!眠いんだったら、とっとと本家へ帰れ!」
意外なことに、若妖はそこから動く気はないらしかった。
「‥何度も言わせるな、鴆。今夜は温めてやる。小さい頃、預かった妖鳥の雛が病気になって寝床に入れて温めてやったことがある。俺の妖気と体温で、無事、元気になった。俺の身体は、夜は、昼間より体温が高いらしいぜ。」
‥‥俺は妖鳥雛かよ!リクオ、本当に、お前は、つくづく、わかんねえやつだな‥‥。
心の呟きを若頭に悟られないよう鴆は、再び横になった。恐々と上掛けも引き上げてみる。
「‥おい、鴆。そんなに離れていては、温まらないぞ。寒いんだろう。弱った妖雛は温めてやるのが基本だ。それに小学校の飼育小屋の鶏も世話係をしていたことがある。生まれた雛は親が温めながら育てていた。みな元気に大きくなったぞ、心配するな。」
‥‥今度は飼育小屋の鶏かよ。一緒にされちゃ、たまんねえな・・。
思わず不平を零しそうになっていると、唐突に男の腕が鴆を引き寄せた。
「わっ・・」
固い胸が合わさる。確かに、リクオの体温は高いようだ。じんわりと熱が伝わってくる。全く冷たさは感じない。
「どうだ、暖かいだろう。今夜は、血が熱くてな・・。円い月のせいだろうよ。」
なんといってよいかわからなかった。礼を言えばよいのか、それとも、くだらないことをするな、と拒めばよいのか、さっぱりわからない。予想外の展開に戸惑う鴆の口から言葉が漏れた。
「なあ‥リクオ、余計なことかもしれないけどよ、寝床に大の男が二人。もし、この姿を家の者が見つけたら、驚くぞ。誤解されても知らねえからな。」
妖の若頭は、愉快そうに答える。
「お前は考えすぎだ。・・なあに、寒がって震えている鴆を暖めてやったのさ、って言うだけだ。」
「・・いや、絶対、誰も信じないぜ。お前、そういうところは、子供だな。」
鴆の言葉が不愉快だったのだろうか、若頭は無言になった。夜の若頭は、子ども扱いされたくないらしい。
「それに、病気の毒鳥なんか、抱いたら、リクオ、いや、若頭、おめえさんが穢れちまう。毒を恐れて、女だって、寄り付きやしないのにさ。」
「鴆、お前は変なことを気にすんだな。俺の妖力は、じいさんから受け継いだもんだ。すげえ、強えのさ。毒の羽吸ったって、お前の血に触れたって、どうってことないさ。そりゃ、ちっとは、爛れるかもれんがね。2.3日すりゃ、跡形もなく治るさ。」
若頭の妖は、事も無げに言った。
****
暗い庭から、木のざわめきが聞こえてくる。どこかで、梟が鳴いていた。
長く沈黙していた若頭が、考えあぐねたように、言葉を漏らした。
「‥なあ、鴆。ちょっと考えたんだが、どうしても、お前が死ぬまでに一度でいいから男と一夜を共にしてぇって、本気で思ってるんだったら、考えてやってもいいぜ。・・いや、もっとも、お前がそういう男色好みの持ち主だったとは知らなかったが。」
驚いた鳥妖が咳き込む。
「‥おい!何、勘違いしてんだ!リクオ!俺は胸のでっけぇ色っぽい女が好きなんだぜ!項が雪のように白くて男をそそる様な女がよ。」
「‥‥‥‥‥‥‥。」
リクオが意味ありげな目つきで、鴆を見下ろしていた。
「それにお前、まだ、女も抱いたことないだろう!意味もわからないくせに、大人ぶりやがって!それに、次期三代目の立場で閨事について軽々しく口にするもんじゃねえ!いいように利用されるぞ!」
鴆が激しい剣幕で次期三代目を叱り飛ばした
「‥鴆、俺は軽々しく、口になんかしねえよ。身体の弱ぇお前が奴良組に尽くすことで、押さえ込んできたお前の願いを叶えてやりたかっただけさ。」
「おい!さっきから言っているが、飛んでもねえ誤解だ!どこをどう解釈すれば、俺が男色になるんだ!」
鴆の懸命の抗議に若頭の妖は無言だった。
満月の今宵は、リクオの妖の血が濃いのか、その身体は、とても温かかった。鳥妖は、他の妖怪に比べて、高い体温を持つが、その身体をも暖めてくれる熱を発散していた。歯の根の合わぬ寒さの全身の震えがゆっくりと収まっていく。
闇夜に大妖へと変化を遂げたリクオの腕、肩、胸・・・。それは、母を失くしたばかりの幼い頃、泣く自分を抱き上げてくれた、今は亡き二代目の感触を思い出す。
若頭の長着の緩んだ合せの所から、男の匂いが仄かに漂う。それは明らかに、昼のリクオの匂いと違っていた。
いくら大妖怪の血を受け付いているとはいえ、本当に自分のような猛毒の鳥妖と情を交わせば、ちょっとした火傷程度では済まないだろう。皮膚が爛れて、2、3日は床に就くことになる。とても正気の沙汰とは思えなかった。
我に返ってみると、隣のリクオは目を閉じていた。右肘は肘枕をして自身の頭を載せ、左腕で鴆を胸へ抱いたまま眠ってしまったらしい。なんと、無防備な若頭だろう・・・。今、男の色事の話をしたばかりだというのに、警戒心が微塵も感じられなかった。
二人が横たわる寝床から縁側を臨めば、開け放たれた障子戸の間の闇夜に、白く円い月が掛かっていた。
‥そういえば、空を飛べなくなって、どのくらいたつのだろうかと鴆は思った。空を飛ぶには、羽ばたくための膨大な気力が必要だった。病に冒された今は、その力は既にない。
昔、空から見下ろした様々な景色。霧のように流れる白い雲。その雲の合間から見える紺碧の海。重い穂を垂れ、風に靡く黄金色の稲穂の田。萌黄色に色づく春の山々。そして、美しい桜。薄紅色の花びらが雪のごとく宙をを舞う。
‥もしかしたら、もう、死ぬまで空を飛ぶことは無いのかもしれない。もし飛べるとしたら、それは最後の力を振り絞るときだろう。そして、その後には、決して逃れることの出来ぬ「死」が待っている。
もし、僅かに残った命の残り火で空を飛ぶとしたら、それは三代目であるリクオのために飛びたいと思う。羽ばたき、地を蹴り、空を翔る。リクオを乗せて、或いは、リクオを何者からか、守るために・・・。
あとがき
この頃、和風の漫画やアニメが多いですね。
ぬらりひょんの孫・・面白いですね。
コミック全部読んでいないので、読み終わったら変えるところがあるかもしれません
今回は、鴆と夜若の話を書いてみました‥。
この二人不思議ですね。友情以上恋愛未満‥?
もっとも、同性の友に抱く親愛の情は、友情なのか、敬愛の念なのか、
はたまた、同性愛的感情なのか、
本人たちも、わからないことも多いのではないでしょうか。
個人的な意見ですが、私は異性愛も同性愛も簡単に分けられるものではないと考えています。
その境界は、曖昧なのではないかと‥。
人間は複雑ですからね(あっ‥最後、真面目に論じちゃった・・)
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