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お菓子 1

中世をほうふつとさせる、歴史ある古い館に住まう少女の部屋では、お茶の時間が訪れていた。
時間通り、菓子が厨房で焼かれ、薫り高い紅茶も用意される。城では孤独な少女とその少女の世話係を兼ねた少年だけのひっそりとしたティータイムのためだった。メイドたちは、何故かサヤを敬遠しており、お茶の準備は、いつのまにか、ハジの仕事の一つと化してしまっていた。
 ハジは、時間になると地下の厨房へと出かけ、いつも給仕の係りの召使たちが出来上がった料理を受け取る小窓から、同じように菓子や小さなティーポットを受け取り、銀の盆に載せてサヤの元へと急ぐのだった。
 ようやく、このブルジョアのゴルトシュミット家のの形式ばった暮らしにも慣れていけるかも知れないと、少年思う。仕えている少女が我侭で持て余し気味なのも事実だったが。


      *                   *                       *


「ハジ!その食べ方、何とかならないの?」
少年とお茶の時間を楽しんでいたはずのサヤが苛立ったような声を上げた。よく見ればついこの間、館に来たばかりの碧い目の少年は、両手に菓子を持ち、交互に口に押し込んでいる。

「・・・ハジ、お行儀ってどういうものか知っていて?食べ物を両手に持って食べるのはいけないことなのよ。」
少年は少女の声に、少し視線を上げただけで、再び食べるのに夢中になっている。サヤの話など聞いていないらしい。食べるのに夢中だ。
「・・・・・・・・・・。」
デーブルの上には、厨房で焼かれたばかりのマドレーヌとサヤには紅茶、ハジにはグラスに入った新鮮なミルクが出されている。
 ハジは右手に持っていた菓子を白い皿に戻す。サヤは、自分の話を聞いていたのかと感心したが、そうではなかった。少年は今度は右手にミルクの入ったグラスを持って、のどを鳴らして飲み始めた。

―ジョエルは、どうしてこんな子を「友達」にしたんだろう・・。言うことは聞かないし、お行儀は最悪だし・・・!

「・・・ねえサヤ、こんなに美味しいのに食べないの?」

自分の分を頬張り終わると、少年ははサヤを見た。
「マドレーヌなんて、もう飽きちゃったわ。ここでは、よく出るお菓子よ。」
「・・サヤ、ってこんな美味しいものをいつも食べているんだ・・。」
少年は驚いたような瞳で見上げる。
「オレ・・僕、こんなもの食べたことない・・。食い物だってありつけない日もあったし・・。」
サヤは呆れたようにため息をついた。
「・・『食い物』ではなく、『食事』よ。その言葉遣いも何とかしなさい・・!」

―食事も取れなかったなんて、ハジは、一体どんな暮らしをしてきたのかしら。?そういえば、この間、歌と踊りなら、仕込まれているって言ってたよね・・。

「・・・ねえ、ハジ。どんな歌なら歌えるの?」
サヤの質問に、少年は少し怯えたような目をして少女を見る。

「・・・サヤ、ここでも歌わないといけないの?」

うつむいてしまったハジは、元気がない。
「もし、うまく歌えないと、サヤもオレを・・僕を殴る?親方みたいに・・ 。」
サヤはハジの返答に、むっとしたようだった。
「私がハジのことを殴るですって?失礼ね!私そんなことしないわよ!」
サヤは、とうとう不機嫌になってしまい、席を立った。

「それよりハジ、そろそろ1階へおりましょう。もうすぐチェロのレッスンの時間よ。今日は、私は教えないから。わざわざ先生が来てくださるそうよ。さっきジョエルがそう言っていたの。」
ハジは、慌ててテーブルの上を片付け始めた。音楽教師が来るまでに、食器を洗い場まで下げ、楽譜も楽器も準備しなくてはいけない。ふと、テーブルを見るとサヤが手をつけなかった菓子が残っている。
「・・サヤ、もう食べないの?」
扉から部屋を出ようとしていた少女は、振り返った。
「いらないわ!私、マドレーヌは好きじゃないの。」
卵色にこんがりと色よく焼かれ、バターをたっぷりと使った菓子は白い皿の上で、美味しそうにつやつやと、光っている。

―あんなに素敵なお菓子なのに・・・。サヤってわかんないや。

ハジは、名残惜しくて、お盆の上に載せて下げてしまうことが出来ない。部屋を出たはずのサヤが再び戻ってくる靴音がする。

「ハジ!何をしているの!先生がいらっしゃるのだから早めに準備しないと!」

食器をなかなか片付けられず、手間取っている少年に苛立っているようだった。
肝心のハジは、皿の上に残った焼菓子に、じっと見入っている。それを見た少女は、懐から麻のレースのハンカチを取り出した。そして、おもむろにテーブルの上に広げる。
「・・・サヤ?」
少女は無言で白い小さな皿に乗っている菓子をそのハンカチの上に載せ、くるりと包んだ。
「ハジ、これはあなたが持っていなさい。」
少女は、少年の手にハンカチに包まれた菓子を押し付けた。
「でも、食べるのは、チェロの授業が終わってからよ!」
少女は、くるりときびすを返し、部屋を出て行った。背中では長く黒い髪が揺れている。
その後姿の薄桃色のドレスを彩る赤いサッシュが少女の腰の細さを強調していた。

 少女が去ってしまうと、ハジは手の中に残ったボビンレースの白いハンカチを、
そっと広げてみる。そこには少女が食べるはずだった菓子の甘い香りが漂っていた。







閲覧をありがとうございます。
久しぶりに更新しました。
出てきたお菓子は
「マドレーヌ」です(笑)
当時、よく食べられていたのでしょうか・・・?
あと、私はサヤがハジに母親のような母性を与えていたのかなと
考えてみました。そのため、彼の小夜へのロイヤリティが高いのでは・・・なんて。
ま・・・アニメなんですけどね。