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日本の原風景のなか、ローカル線は故郷の日々を運んだ。



1980年代。SLブームの人波は線路際から消え、そこで写真を撮る人は疎らであったけれど。

全国のローカル線を、単なる鉄の箱ではなく、人々の暮らしの中で、厳しくも抒情に満ちた風土の中で。

それは次々と消えてゆくローカル鉄道の、最後の日々を追った記録でもあった。

バブルの狂奔に飲み込まれる前、この国の片隅にひっそり息づいていた、人と鉄道の風景。

若き日の著者が旅して残した、忘れ難き時代の記憶。

















福島県・磐越西線・徳沢 1987年11月






新潟県・蒲原鉄道・大蒲原 1983年2月





鹿児島県・鹿児島交通 1982年8月





北海道・三菱石炭鉱業大夕張鉄道線 1984年2月





秋田県・五能線・岩舘 1982年11月







写真集「旅のたまゆら 1981-1988」

目次


プロローグ 旅のたまゆら

故郷の駅

通学列車

津軽逍遥

夏の光

最北紀行

蒲原の里

最後の日々

エピローグ 記憶を刻むもの


巻末エッセイ「線路の向こうに時代は巡る」



                                     収録路線(1981年当時の呼称) 

                    宗谷本線・天北線・羽幌線・深名線・名寄本線・函館本線・留萠本線・歌志内線・三菱石炭鉱業大夕張鉄道線
                    釧網本線・根室本線・津軽鉄道・五能線・南部縦貫鉄道・奥羽本線・赤谷線・磐越西線・日中線・蒲原鉄道
                    鹿島鉄道・筑波鉄道・奥羽本線・赤谷線・磐越西線・日中線・蒲原鉄道・鹿島鉄道・筑波鉄道・飯山線
                    上田交通別所線・山陰本線・一畑電気鉄道・島原鉄道・高千穂線・鹿児島交通枕崎線







巻末エッセイ「線路の向こうに時代は巡る」より

                       
                           一人旅はむしろ目的に乏しい方がいい。目的に縛られないからこそ、自分と向き合う時間が心の感度を静かに研ぎ澄ます。見たもの、聞いたもの、
                                         何気ない旅の断片が心を揺らし、深いところに折り重なってゆく。一人旅は、だから豊かで忘れ得ぬ記憶を残すのだ
。 「一人旅」
                       

                           窓辺の先にあるその土地に根を下ろした暮らしのかたちやら、幸せの在りかなんぞをぼんやり想った。それは都会では曖昧にかたちを成
                           さなかった、今日を生きることのざらついた手触りのようなものを、無意識のうちに旅の空に探していたような気がする。
「クリスタル」


                           大人たちは旅する若者に優しかった。貧乏で無茶で時に身勝手な我儘を許す寛容さと親切に触れ、だからこそ必要な節度と感謝も学んだ。
                           旅は子どもの僕を少しずつ変えてゆく教室だったかもしれない。 「旅は教室」

                                 
                           
       いつしか夜を迎え吹雪になっていた。ドアの前で「ごちそうさまでした」と挨拶すると、タブレットキャリアを抱えた駅長は黙って片手
                           を振り、雪煙の向こうに小さくなった。日本中がバブル景気に熱中する只中で、その小駅がひっそり廃止になったのは、それから間もな
                           くのことだ。 「北の小駅で」


                           一緒に写真を作ってくれた、それぞれの人生への敬意を僕は忘れなかったつもりだ。そして人々は写真の中では永遠だけれど、40歳近い
                           齢を重ねたはずだ。お年寄りはともかく、高校生や子どもは今もそれぞれの人生を走り続けていることだろう。叶うことならば40年の時
                           間を越えて感謝を伝えたいと思っている。 「人を撮る」

                           ローカル線の向こうにある、この国の片隅に生きる人々の営みに寄り添い、その場に立っているような息遣いを捉えること。逆に人々の
                           背後で黙々と走り続け、しかし経済合理性を失い歴史の向こうに消えようとしている交通機関の、「今」を記録すること。そして旅の空
                           に向かい合った、自身の心の移ろいもフイルムに忍ばせること。それこそが僕の撮りたかった「鉄道の写真」ではなかったか。
                            「エピソード・ゼロ」




著者略歴

寺下 雅一  (てらしたまさかず) 


1962
年 東京に生まれる

立教大学法学部法学科卒業

学生時代より全国各地のローカル線、風景、生活習俗を撮り続ける。最近では海外にも取材対象を拡げている。


(主な写真展)

2012年 おといねっぷの森から」( 港区高輪区民センターギャラリー )

2016年「旅のたまゆら 1981-1988 ( 新宿ニコンサロン )

2020年「ミンガラーバ! ミャンマー・レイルサイドストーリー」

( オリンパスギャラリー (OM SYSTEM GALLERY) 新宿・大阪 )

 



 










著者 寺下 雅一

発行 現代書館

ブックデザイン 鈴木一誌・吉見友希・矢島風語


B4変型判 256mm×256mm×20mm

収録写真 オールモノクロ153点 本文184ページ

ダブルトーン 240線高精細印刷 (スーパーブラックインク使用)

ハードカバー  糸かがり上製本


定価 本体4,500円 税込み4,950

全国書店及び現代書館ウェブショップ、amazon、楽天books等、ネット通販でお求め頂けます。




 










   「あなたは鉄道を撮りたかったのか、それとも人を撮りたかったのか。」  そう問われれば答えに窮する。ローカル線は、その土地に生きることそのものだからだ。









寺下雅一写真集 「旅のたまゆら1981-1988」  2023年8月発売






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