風太郎の「旅の空」
 
 レールバス紀行  ( 青森県 南部縦貫鉄道  )  
 
 
1962年富士重工製、全長10mあまり。東北本線野辺地から七戸まで20.9qを結んだ南部縦貫鉄道のキハ101、102は、バスそっくりの可愛らしい奴だ。車体からエンジン、ミッション等、ほとんどバスの部品が流用された機械式気動車で、「レールバス」の名に相応しく、およそ鉄道車両には見えない。「てんとう虫」のあだ名もあった。
風太郎も1962年生まれなので、同い年ということになる。そういう点でもこの丸っこい奴に親しみを感じてしまうのだ。もっともコイツは1980年代の時点で「老朽化」「廃車」が囁かれていたが。

 






南部縦貫鉄道 キハ101


野辺地駅の長く薄暗い木造跨線橋を渡ると南部縦貫鉄道のホームがあり、レールバスがおもちゃのように停まっている。無造作に投げ込まれるミカン箱の傍らに座る。エンジンをかけるとバスそっくりのアイドリングが響いた後、「プー」とクラクションを鳴らして発車。どこまでも「バス」なのだ。クラッチを踏んでシフトレバーを入れるとゴロゴロ走り出す。自動車と同じ4つの車輪で走る2軸車なので「タタン、タタン」ではなく、「タンタンタンタン」と独特な走行音を残すが、乗り心地はもちろん良くない。シフトアップする毎にグアアッとエンジンを唸らせて到着するのは最初の駅、西千曳だ。





                                              手荷物の積み込み            

 
















西千曳駅

野辺地〜西千曳間はもともと東北本線が走っていたが、ルート変更の後、路盤と国鉄千曳駅を譲り受けて改称したのが西千曳だ。そういう経緯により同鉄道では最古参の駅であり、風雪に耐えた、という雰囲気の駅が少ない中で貴重だ。手入れが行き届かず廃屋寸前であり、仲間内では、ほんの序の口の位置にあるこの駅など目もくれず、奥に歩を進める者が多かったが、「ボロ駅好き」の風太郎としてはどうにも気になったらしく、しつこくここで撮っている。

太平洋側で海からも遠くないから意外だったのだが、結構ドカ雪が降る土地で、線路の両脇は高い雪の壁が出来ている。西千曳駅で乗降する人を見ていて面白いのは、ホームから線路に降りて向かい側の雪の壁をよじ登り、除雪などしていない雪原を突っ切って歩いていくことだ。





線路を挟んだ向かい側に集落があり、これが近道らしかった。下校時間帯になると地元の小学生が大勢降りてきてこの道を通る。雪国の子供のくせに深みに足をとられてひっくり返り、雪まみれになる奴もいて面白い。雪に埋もれて今にも倒壊しそうな駅だが、この子達が大人になった時、ある日ふと思い出す場所なのかもしれない、と思った。


 














 夜の西千曳



続いて坪川駅。文字通り「坪川」の鉄橋のたもとの築堤の上にへばりつくように建っているが、絵になる駅なので結構ここでも撮った。道路を歩いてきた人は短い階段を上がってホームに出るのだが、小高いので見晴らしが良い。もっとも吹雪ともなれば吹きさらしで寒いのなんの。

                               坪川駅



 D45の引く貨物列車

 
 

このあたりは国道4号線がすぐ脇を通り、バスが結構走っていて移動に便利だったので、風太郎愛用の5万分の1地形図にはバス停の位置が細かく記入してある。条件が揃えば雪を頂いた八甲田の山々をバックに撮れるといい、実際そういう写真を見たことがあるが、風太郎はついぞ八甲田を拝むことは無かった。晩秋の空気がよほど澄んだ快晴時あたりの、極めてニッチなチャンスしかないのであろう。



















 朝日とレールバス


南部縦貫鉄道は、当てにしていた沿線の砂鉄産業が頓挫した後、苦しい経営が続いていたが「東北新幹線が来れば・・・」という話をよく聞いた。七戸に駅が出来るのが決まっており、新幹線連絡鉄道として一気に脚光を浴びるというものだ。しかし並行する国道4号を疾走する車やバスを見るにつけ、それは淡い望みと思わざるを得なかった。結局「南縦」は悲願の新幹線開通を見ることなく1997年に歴史を閉じることになる。

   

被写体としての「南縦」は、車両は面白いものの、なかなか難しかったというのが印象だ。森田牧場前付近の森や北海道チックな原野など、シーナリーには恵まれていたはずだが、何故だかよく分からない。学生時代に3回程行ったが、そんな気後れもあってか、その後行かないまま廃止になってしまった。結構遅くまで残っていたのに勿体無い事をしたものだ。 

レールバスは結局廃止の日まで35年にわたる歳月を完走し、今も七戸駅跡に動態保存されているという。先日開通した新幹線に乗れば七戸まで4時間かからない。お互い製造50年を迎える同級生に、「よおお、お疲れ」と声を掛けに行ってみようか。

 
 
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