風太郎の「旅の空」
 
夜明けのスチーム   (福島県 磐越西線 荻野)
 
 
昔の客車列車の暖房は皆スチームだった。機関車から送られてくる熱い蒸気がすぐ足元のスチームパイプを温める。客車の中は広いからすぐに暖かくならないのが難点で、車内が冷え切っている時など、思わずパイプにしがみついたものだ。蒸気が通ると、冷えたパイプが熱膨張で「カン!カン!」と大きな音を立ててびっくりするが、あれも「汽車旅」の懐かしい音風景のひとつだった。

そういう列車が駅に着くと、仕組みはよく分からないが床下から勢い良く蒸気が噴き出して、列車は白い煙に包まれる。まるでSLを見ているような感じがしたし、空に昇る白いスチームは、逆光で見ると事のほか美しい。

 














雪の季節、夜行急行「磐梯」で上野を出て会津若松で普通列車に乗り継ぐと、夜明け前に新潟との県境付近に至る。消え残る星が瞬く快晴の天気だが、降りた荻野駅は放射冷却で身もすくむようだった。荻野で降りたのは、何となく、というところ。この頃磐越西線は未開拓で何処でどう撮ったものか手探りだったのだ。ただ、当時の磐越西線で
DD5161系客車を2両だけ引いた、通称「メルヘン列車」という名物が早朝走っており、そいつを朝の光の中で撮りたかった、というのはある。


荻野駅には意外にも駅員が居て、重い荷物を手荷物で預けると、身軽になった風太郎はまだ暗い雪道を尾登方面へと歩く。ふと振り返ると上り方向の空が朝焼けに染まり、
2本のレールが紅く浮かび上がっていた。






厳冬・快晴時の澄んだ大気ならではの色彩で、暫く見とれていると上り列車が迫った。急いで三脚を立てる間もなく列車は通過、荻野駅に到着すると、最後尾の茶色の妻板を包み込むように真っ白なスチームが朝焼けに立ち登る。ギリギリ間に合ったシャッター音が早朝の冷気の中に響く。思いのほか大勢の乗客が白いもやの中に吸い込まれていくのが見え、上り一番列車は汽笛一声、カタコトと山陰に消えた。
 

その後、線路を見下ろす小高い場所を見つけて「メルヘン列車」をそこで撮る事にする。昇る朝日が半逆光で差し込み、木々の影が雪面に縞模様を作っているのが面白かったのだ。通学の高校生を沢山乗せているのだろう、7時49分荻野発の磐越西線223列車は、きらきら輝きながら通り過ぎていった。 


澄み切った大気が体に染み込むような、透明な朝だ。

 
 
 
 
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