生き物の窓・自然の扉  
 福井陸水生物会報の「生き物の窓・自然の扉」コーナーの話題です。

 

 この一年に出会った動物たち  
赤いジムグリ 2021年5月15日午前7時30分頃、あわら市椚(剱岳地区) 
  自転車で走っていたら、道路の先に赤いひものようなものを発見しました。「ヘビ?」。そのまま草の茂みに逃げていくかと思いましたが動く気配がありません。手前で自転車から降り、恐る恐る近づきました。ペットの外来種を捨てていったのか?毒蛇でないか?急いでスマホを取り出し撮影しました。細くて小さいヘビです。体長は40pくらいです。漸くこちらに気づいたのか、道路横の茂みへと動き出し、側溝のすき間に身を隠しました。後日、写真を福井県両生類は虫類研究会会長の長谷川巖氏に見ていただきました。ジムグリのアルビノということでした。白ヘビは聞いたことがありますが、赤ヘビがアルビノとは意外でした。    
コウノトリ 2021年6月18日午後6時頃、福井市中町(川西地区)
  調査の帰り、水田の向こうの電柱に一羽のコウノトリを発見しました。5〜7km北東にはコウノトリがよく降り立つ福井市鶉地区や、58年ぶりに雛が巣立った坂井市春江町大石地区(2019年)があります。道際にはコウノトリの絵が描かれた「わき見注意」の看板もみられました。近年、頻繁にみられるのでしょう。福井県での最初の放鳥は2015年10月3日、越前市白山地区で行われました。頭上を飛ぶ姿に「昔はこんな大きく美しい鳥が飛んでいたんだ。」と感激しました。その年の夏に訪れた野生復帰の先進地の兵庫県豊岡市では、水田にあたりまえのようにコウノトリがいました。人々も気にとめるようすはありません。その風景が福井県でも見られるようになったことは感慨深いものです。コウノトリを支える生き物やすみ場所が今以上に回復して欲しいと願っています。     
ニホンカモシカ 2022年1月2日午後0時15分頃、勝山市平泉寺 
  調査の帰り、雪の積もる集落内で出会いました。あわら市刈安山では一年に何度も出会いますが、写真を撮る目的で行くといつも空振りです。ニホンカモシカは出会ってもこちらをじっと見つめて動かないので、撮影しやすい動物です。それでも撮影に成功したのは初めてです。        
この一年に出会った動物たち 2022 会報(29):24-25

   

 平泉寺のブナ林−標高250m−  福井県のブナ林に魅せられて  
 勝山市平泉寺町にある白山神社の参道沿いにはブナが生育しています。標高は約250mです。福井県の低地ブナ林では南越前町新羅神社(標高200m)の次に標高が低く、記録温度計から求めた暖かさの指数は88.9と、新羅神社の88.1とほぼ同じです。
 訪ねるときは標高170mにある参道の入り口から入るとよいでしょう。入り口の右手には駐車場があります。参道の両側にはスギの巨木が並んでいます。約200m進むとブナが現れ、参道の後方にある雑木林にブナの高木から低木、稚樹が帯状に点在します。低木より大きい個体数は百本は下らないでしょう。その面積は参道の両脇にそれぞれ約10mの幅をもち約1kmの長さで白山平泉寺歴史探遊館まほろばの手前まで続きます。入り口から約800mの地点にブナ林と呼ぶことのできる区画が一ヶ所あります(図のA)。広さは20m×30mくらいです。ブナは他の落葉広葉樹に比べて早く開葉するので、4月上旬にはうっそうとした杉並木の中にブナの淡い緑色の若葉のコントラストを楽しむことができます。
 白山神社参道の低地ブナ林や雑木林の林床には、他の低地ブナ林と比べて次世代のブナが順調に育っています。また、付近の集落への道路沿いの林縁にも多くの低木が見られます。林に母樹らしいものはないので、ネズミ類が種子を運んできたのかも知れません。ブナは耐陰性が強いので陰樹と思われがちですが、日当たりの良いところでは成長の良い低木をよく見かけます。この地域には広範囲にブナの低木や稚樹が林床に多数あることから、付近一帯にブナ林が広がっていたと想像します。白山神社のブナ林がある奥越地方は、他の嶺北地方の地域と比べるとブナ林の下限が標高200mまで下りているようすがうかがわれます。積雪が多いため、春先の低温と林床の湿り具合がブナの生育によい影響を及ぼしているのと考えられます。冷涼な多雪地帯に広がるブナ林の雰囲気を味わうことのできる場所です。
 
福井県の低地ブナ林5 平泉寺の白山神社参道 -標高250m- 2023 会報(30):77-78

 

 

 大滝神社奥ノ院のブナ林−標高280m−  福井県のブナ林に魅せられて  
 越前市大滝町の大滝神社奥ノ院のブナ林は権現山(標高326m)の山頂付近、標高270m〜320mに広がっています。南越前町新羅神社(標高200m)や勝山市平泉寺(同250m)の低地ブナ林より標高が高いですが、記録温度計から求めた暖かさの指数は98.8と最も高温のブナ林です。その面積は約3haと広いですが、低木層が伐採されたりスギ林の中に点在して人の手が加わっています。低標高でアプローチが短く、ブナ林の雰囲気に浸ることのできる貴重な林です。
 大滝神社奥ノ院(標高290m)に行くためには、重要文化財の大滝神社本殿(標高70m)から参道を20分ほど登ります。整備されていますが、急な山道なのでゆっくり登るとよいでしょう。途中の谷間にあるゼンマイザクラと奥ノ院の左上部にある大スギ、社叢であるブナ林は県指定天然記念物です。ゼンマイザクラの花の見頃は4月上旬で、林床にはカタクリやキクザキイチゲも見られます。
 奥ノ院の手前の南西斜面に広がるブナを優占種とする林は面積は約0.4haと小さく、高木層にシラカシやイヌシデ、アベマキがみられます。1980年に林床にリタートラップを設置したときに下刈りの痕跡があました。低木のヒノキがあるので植栽のために下刈りしたのだと思います。その後に低木層に多種が回復していますが、ブナの低木は斜面下部に1本あるだけです。少なくとも40年前から実生が育たなかったことを示してます。低地で小面積であるため堅果に「しいな」が多い上に、南西斜面なので乾燥しやすいことが実生の生き残りに悪影響を及ぼしていると考えます。
 大滝神社奥ノ院のブナ林を愛する人々が、林床の所々にブナを植栽しています。天然更新を待っていられないのでしょう。その意味と地球温暖化を考える機会にすれば、このブナ林が存続できない方向へ歩もうとも、環境の保全の一里塚となるでしょう。
 
福井県の低地ブナ林4 大滝神社奥ノ院 -標高280m- 2023 会報(30):73-76

 

 
 福井市上一光町白山神社の横に残るブナ−標高320m−  福井県のブナ林に魅せられて  
 福井県の低地ブナ林は標高200m〜400mに存在し、現在4ヶ所が記録されています。2019年5月5日、5ヶ所目として、福井市上一光町白山神社の横で2本のブナを確認しました。標高320mの低地ブナ林の名残です。2021年に温度記録計を設置して暖かさの指数を算出したら87.2(平年値補正)で、ブナクラス域45〜85の範囲の上限近くでした。
 白山神社の西へ2軒目の齋藤和治さんからの聞き取りがブナの発見につながりました。その後、齊藤さんと年配の村人2人の聞き取りを行いました。まとめると次のようです。
 「約40年前、白山神社にブナの木があったが、神社を建てるために業者に売った。5本〜10本程度だった。この付近は雪が多く、建物が傷む。屋根に落ちてきた枝が瓦を傷めるので、銅板で葺く足しに使った。2つ下の村の前田材木店に切ってもらった。切ったブナは、お椀や蕎麦のこね鉢に使ったのではないか。神社のブナを売った後、市役所の人に叱られた。貴重なものなので市の指定しようとした矢先だったのに、ということだった。境内にはケヤキ、ホオノキ、ブナが混在し、スギは後から植えた。斎藤さんの裏山のブナが家にかかっていたので切ってもらったが、2本だけ残した(写真)。横の竹林を通っていけばブナが何本かある。」
 白山神社の裏から西にかけての斜面はコナラ二次林にスギの植林やモウソウチクが混じり、雑然とした林です。その林の約50m×50mの範囲において、高木や亜高木、低木のブナは17本ありました。このことはブナ林が存在した証拠でしょう。伐採があと数年遅れていたら福井市の指定にもなり、貴重な低地ブナ林を後世に残すことができたと思うと、残念です。
 
福井県の低地ブナ林3 福井市上一光町に残るブナ-標高320m-
  発見の経緯
2022 会報(29):20-21

 

 

 新羅神社のブナ林−福井県最低標高200m−  福井県のブナ林に魅せられて  
 南越前町今庄の新羅(しんら)神社ブナ林は標高200mに位置し、福井県で最低標高のブナ林です。2000uに20本のブナが生育してます。小面積ですが樹高約20mで胸高直径が80pを越える木を6本あり、山地帯のブナ林のふん囲気を味わうことができます。
 新羅神社はJR北陸本線今庄駅から南西へ徒歩約5分のところにあります。神社の前には5台ほどの駐車スペースがあります。本殿の左手にある藤倉山への登山道を5分ほど登ると、道の左手に2本のブナが出迎えてくれます。2本目のブナは見事な大木です。そこからすぐ左手の北斜面40m×50mに15本、右手下方の谷に3本と合計20本のブナが生えています。自然林と呼ぶには亜高木層や低木層が貧弱であり、下刈りが行われたようすです。
 原(1995)は、中部地方日本海側のブナ林が標高200mまでおりてきているのは、積雪や春先の湿度(空中、土中)の影響があると指摘しています。標高200mの新羅神社は丹南地方を流れる日野川上流の山深いところにあり、まさに指摘通りの環境です。今庄の3月の最深積雪は49pあり、雪深いことが分かります。林床には2005年の豊作年の種子から育った幼樹が数多く残っています。標高が低くても、積雪が多く雪解けの遅い今庄の地がブナの生育に適していることがうかがえます。このまま下刈りなどの手を入れなければ、幼樹が淘汰されながら低木へと成長していくと期待されます。JRや自家用車で簡単に訪れ山地帯のブナ林にふれ合えるところとして、次の世代に引き継がなければならない貴重な林です。
 
福井県の低地ブナ林2 新羅神社−最低標高200m− 2021 会報(28):26-28 

  

  

 福井県のブナ林の下限は標高何mか  福井県のブナ林に魅せられて  
 ブナは冷温帯に生育する樹木で、夏緑樹林の代表的な構成種です。降雪の多い日本海側では純林を作ります。山登りを趣味にする人なら、その美しさに心癒やされた経験があるでしょう。福井県の登山道を歩けば、標高500mあたりから見られます。
 しかし、標高400m以下でも小規模なブナ林があります。それらは里山のスギ植林やコナラ二次林の中にあり、低地ブナ林とよばれています。なぜ、ポツンと存在しているのでしょうか。その存在は例外なのか、ブナ林の下限に含まれるのか、悩ましい問題です。
 嶺北地方の標高200m〜880mのブナ林14ヶ所に記録式気温計を設置して、この問題を考えました。比較のために暖温帯林(照葉樹林)3ヶ所にも設置しました。
 
福井県の低地ブナ林1 ブナ林の下限は標高何mか 2020 会報(27):22-24 

   

  

表紙に カエル