「産業倫理」
藤森 萬年著

文芸社
1500円+税 並製 270P
2006年4月15日発売
残部が手元にあります。必要な方は直接ご連絡下さい。
割引にてご提供いたします。


  最近、グローバル化の進展により産業界は益々国際的過当競争に陥り、経営の合理化に迫られています。それに伴い、個々の産業界に余裕のない厳しい時代を迎え、ややもすると、個々の企業は、自社の生き残りに必死となり、経営の合理化や会社の利益優先等「会社のため」が優先され、下請けや、一般顧客等のことを忘れた、会社本位的、産業倫理が問われるような事件がしばしばマスコミをにぎわすようになっています。
 本書は工業系の高校生や大学生等の「産業倫理」に関するテキストを念頭に書いたものですが、一般の人々の読み物としても興味を持って読んでいただけるよう意図しました。
 これまで「工学倫理」、「技術者倫理」、「企業の社会的責任」といったタイトルの本は何冊も世に出ていますが、「産業倫理」というタイトルの本は1冊もありませんでした。産業倫理とは第1次産業から第3次産業まで幅広い産業分野における倫理問題を考えるべきでしょうが、ここでは工業系に関わる内容に限定的となっています。しかし従来の技術者倫理や工学倫理より扱う内容はもう少し幅の広いものを考えました。
 また内容は、純然たる倫理学的立場ではなく、高校生でも分かりやすく、産業界に関わる具体的事例を通して、倫理的にどう考えたならばよいかを自ら考えさせる場を提供することに主眼を起きました。具体的場面において何をもって正しいかの判断は、そこに関わる人々の立場によっても異なってくるものであります。その意味でも個々の事例を通して、自ら考える訓練の材料を提供するよう心がけました。

 第1章では、企業の社会的影響力とその責任が以前にも増して問われる時代となってきたことを論じ、企業の社会的責任とは何かを、製品及び消費者、従業員、地域と環境等の各側面に対して考察しました。
 第2章では、かつて大きな問題となった、各種公害問題や食品汚染、薬害訴訟の状況を振り返るとともに、あらためて産業倫理の重要さを問い直しました。
 第3章では、これまでの公害問題がローカルな問題のレベルに留まっていたのに対し、今や様々な産業活動が地球環境汚染のグローバル化に繋がっている、その実態を一つ一つ明らかにしつつ、あらためて地球環境に関わる産業倫理の問題を検討しています。これまでの企業倫理で扱われる内容は企業の不祥事や失敗の事例に留まっていましたが、地球環境問題とどう向き合うかは今後の産業界において極めて重要な課題と考え、多くの紙幅をさきました。こうした点でも従来の「工学倫理」等の書物より扱う幅や視点を広げたものとなっています。
 第4章では、最近問題となった様々な事例を通し、産業倫理をどう考えるかを検討しています。また米国のチャレンジャー号事件とシティーコープタワーに関わった技術者の自律的事例をもとに、倫理的に考えるとはどのようなことかを、単に起きた事件への表面的批判に留めるだけではなく多面的に検討し、その考え方を深めようと意図しました。
 第5章では、その他の産業に関わる問題として、土木建設業に関わる事例や情報化社会と倫理の問題や、遺伝子産業と倫理の問題を検討しています。
 第6章では、産業倫理を考える場合に、組織と個人に関わる問題が重要と考え、組織内での不祥事を絶つ方法について検討しています。

 従来の工学倫理や技術者倫理が扱う範囲を広げて、私なりに産業倫理なる枠組を新たに考えてみましたたが、工学系分野においては、従来の工学倫理や技術者倫理よりも枠組みを広げた、本書のような産業倫理的視点がこれからの工業教育の中でますます必要となってくるように思われます。素人ながら今回のささやかな取り組みが、今後のこの分野の発展の一助になりえれば幸いです。また教育関係者のみならず産業倫理のあり方に興味を感じておられる多くの方に目を通していただければ幸いです。


「産業倫理:産業分野における倫理問題を考える」
藤森 萬年著

Kindle版 (電子書籍)

22世紀アート
540円 307P
2018年10月21日発売


電子書籍化に当たり

  上記本を出版してすでに10年以上が経ち、しかも本自体が絶版となってしまいました。絶版当初は、一般の読者の方から在庫の問い合わせがあり、手元にある本をお送りしていました。
 また、この本を書いた以降も、産業倫理が問われるような企業の不祥事が後を絶ちません。
 東日本大震災による東京電力福島原子力発電所の事件により、原子力発電の安全神話が破綻し、原発の是非が国民的関心事として問われています。
 また2017年秋以降、ドミノ倒しのように次々に明るみに出た日本の大企業のデーター改ざん問題は、当該企業のみならず、日本の企業全体の信頼の失墜を招いています。
 本書で取り上げた事例は、いささか古くなっていますが、内容自体はまだ陳腐化しておらず、むしろ産業倫理に対しては今後とも国民的関心事として意識されていくことが必要と思われます。
 当初は工業系の高校生や大学生等の「産業倫理」に関するテキストを念頭に書いたものですが、再度電子書籍化により、多くの人に読み継がれて欲しいと考えました。また、電子書籍化を機会に上記2つの事例を追加しました。


出版社書評(原文のまま)
■ 工業高校における新設科目「産業倫理」をわかりやすく論じた初の教科書であり、同時に、大学生や社会人一般も興味深く読める解説書になり得ている。(中略)「産業倫理」とは何かという根本からスタートし、地道にその枠組みを築き上げてきた著者の労苦は並々ならぬものであったことだろう。(中略)本作品は非常に時宜にかなった著作である。
■ まず注目させられるのは、生徒、あるいは読者に自ら考えさせるという姿勢が全体を通して貫かれていることである。そのための手がかりとして、具体的な事例が多く盛り込まれている。(中略)これらの事例を改めて検討すると、産業倫理がより身近なものであることが理解され、読み進むにつれて一層関心が高められる。(中略)事例の選択にも細かな配慮がなされている。
■ 全体の構成もよく整っていると感じられた。本作品が扱う範囲は、従来からある「工学倫理」よりも広く取っていると著者は述べているが、これは、個人と企業との関係がいかに重要なキーポイントであるかを著者が看破しているからであろう。実際に、産業倫理に伴うさまざまな問題を検討した後、最後の第6章では「組織と倫理」が論じられている。(中略)どんな職業に就くにしても、何らかの組織と関わり合うのは避けることのできないことであり、そうである以上、産業倫理を学ぶことは、突き詰めれば人間としていかに生きるかを考えることにも繋がるのではないだろうか。(中略)
■ 環境への取り組みをはじめとして企業の動向が注目されている現代にあっては、産業倫理が非常に重要なテーマであることは間違いない。本作品は、特定の見解に偏ることなく、産業倫理に関する基本的な事項をバランスよくカバーした良書として、幅広い層に受け入れられるのではないだろうか。長年にわたり、教育現場で生徒たちと接しながら、工業教育論や、日本産業論に取り組んできた著者ならではの良作であり、大学の研究者が著すような、理論尽くめで難解な専門書とも一線を画している。前作『工業教育再興』『グローバル化と日本の工業』と同様、広く日本の教育界・産業界に寄与する一冊として広く世に送り出されることを期待したい。

読者感想(原文のまま)
★よくこれだけ広いテーマをおまとめになったこと、感心しながら拝読しました。1970年代にアメリカでカリキュラムの調査をした折に、工学部の学生に”Engineering Ethics"という講義が用意されていたことを思い出しましたが、学生・生徒諸君に是非この本を読んでほしいと思います。
★ 大変広範で重要な課題を読みやすく、しかも藤森さんの視点がひしひしと伝わってきます。これで三冊目ですね。ご努力の成果、敬服しています。
★ はじめにに書かれているように、このような視点で整理された書籍はないと思いますし、高校生から社会人まで読んで分かる内容かと思います。特に教師を目指す学生には理解しておいてほしい内容と思いました。是非、私も推薦書として学生に勧めて取り上げたいと思います。
★ 楽しく読むことが出来ました。と申しますのは、私も研究の一環として環境と老化について調べており、特に内分泌撹乱化学物質と老化の関係について研究しています。<中略>このような観点から、「産業倫理」を読んでみると、なるほどと考えさせられることがたくさんありました。<中略>大学院生に老化の講義をしています。次年度は「産業倫理」を参考図書に使おうと思います。
★ 1冊の本の中に、足尾鉱毒事件から最近のアスベスト問題、昨年11月の構造計算書偽造事件まで、広く記されており、読んでいると、これもこれも皆当時新聞等のマスコミに大きく取り上げられた事件だったなと振り返り、とても興味深く読めました。
 企業活動が、利益、効率、能率のみを追って、倫理的判断力が無くなると、社会に(地球上に)ものすごい害毒、損害を与えるものだということが、生徒諸君にも分かってくれるものと思います。


目 次

はじめに

第1章 問われる企業の社会的責任
1−1 企業の社会的責任と倫理の問われる時代
1−2 企業に問われる社会的責任とは
   1) 製品および消費者に対する側面
   2) 従業員に対する側面
   3) 地域と環境に対する側面

第2章 公害問題と産業倫理
2−1 各種公害問題
   1) 足尾銅山鉱毒事件
   2) 熊本水俣病
   3) 新潟水俣病
   4) 富山県イタイイタイ病
   5) 四日市喘息
   6) 公害問題と企業の倫理
2−2 食品汚染
   1) 森永ヒ素ミルク中毒事件
   2) カネミ油症事件
2−3 薬害訴訟
   1) サリドマイド薬害
   2) 薬害スモン
   3) 薬害ヤコブ
   4) 薬害エイズ
   5) 薬害問題と企業の社会的責任
2−4 その他の公害問題

第3章 地球環境問題と産業倫理
3−1 環境汚染のグローバル化
3−2 地球温暖化
3−3 酸性雨
3−4 エネルギー資源問題
3−5 オゾン層破壊
3−6 森林の減少
3−7 人工化学物質と生態系
3−8 水の汚染
3−9 廃棄物問題
3−10 企業と環境対策

第4章 事例から学ぶ産業倫理
4−1 会社の利益を優先させ顧客の安全性をおろそかにした事例
  1) 雪印乳業集団食中毒事件
  2) 雪印食品牛肉偽装事件
  3) 三菱自動車のリコール隠し事件
4−2 技術者の自律的判断の事例
  1) チャレンジャー号事件の教訓
  2) ルメジャーによるシティコープタワーの設計
4−3 安全管理のずさんさ・うっかりミスの事例
  1) JCO臨界事故
  2) 美浜原発3号機事故
  3) 日本航空ジャンボ機墜落事故
  4) JR宝塚線の事故
  5) 経営の合理化と安全性
  6) 安全性とリスク
4−4 安全性と製造物責任法
  1) 家庭用洗剤の普及と問題
  2) 製造物責任法

5章 その他の産業に関わる産業倫理問題
5−1 土木建設業と倫理
5−2 情報化社会と倫理
  1) 「個人情報」と「プライバシー」
  2) コンピューター犯罪
  3) 情報化社会と知的所有権
  4) 技術情報と不正競争防止法
  5) 特許権
  6) プロパテントと倫理
5−3 遺伝子産業と倫理
  1) バイオテクノロジーと品種改良
  2) クローン技術と倫理
  3) 遺伝子検査の問題
  4) 遺伝子産業と倫理

第6章 組織と倫理
  1) 組織と個人
  2) 内部告発

おわりに

<著者略歴>
 1952年、長野県生まれ。1977年東京工業大学大学院社会工学専攻修士課程修了後、中学校の教師をかわきりに教職の道をとる。その後工業高校に移り、工業教育の在り方や日本の工業の在り方等を模索している。現在は長野県岡谷工業高校教諭。

著書 『工業教育再興』文芸社
    『グローバル化と日本の工業』文芸社


 ホームページへ