「グローバル化と日本の工業」
藤森 萬年著

文芸社
1700円+税 上製 304P
2004年9月15日発売


 経済のグローバル化と今後急速に進む人口減少化社会の中で日本の工業界は大きな発想の転換が迫れています。新しい時代の流れの中で、これからの我が国の工業の在り方をどのように考えたならばよいか、1作目の論考をさらに深め、その考え方の枠組みとビジョンを多面的にまとめたものであります。前作でも今後の我が国の工業界のあり方についてふれてはありましたがもう少し踏み込み、「グローバル化」と「人口減少化」という2つのキーワードを視点に、新しい時代のうねりの中で、今後の我が国の工業界がいかにして生き残りを図ったならばよいかを探求しました。

 第1章ではグローバル化とはどのようなことなのか、日本の対外直接投資や対内直接投資の実態や自由貿易協定、日本の空洞化の実態等具体的データーに基づき実態を見つめつつ、人口減少化やポスト工業化が進む我が国の状況を明らかにしています
。  第2章では、現在のグローバル化経済の中で極めて重要な役割を担い、かつまた我が国とも極めて密接な関係を築きつつある中国の産業界の実態を明らかにしています。まず、主たる工業集積地域毎や電気、自動車、機械、鉄工、石油化学等の各産業分野ごとに実態を明らかにし、中国の工業界の強さと弱さを分析しています。それを通じて、いたずらに中国脅威論に陥ることなく、我が国の工業界の生き残りの方向を模索しています。
 第3章では我が国の従来の製造業の強さとは何かを見つめつつ、それをさらに補強するために新しい時代の流れの中で我が国の製造業のあり方や考え方を検討しています。
 第4章では3章を受け具体的な対応として、新しい様々な生産方式の取り組みを明らかにしつつ、我が国の製造業のあり方の方向を模索しています。また大企業の対応ばかりでなく地方の中小企業の対応方法についても考察しています。
 第5章では、グローバルな世界的競争激化の中で生き残るためには、我が国の製造業がより先端的新しい技術開発が迫られており、そのためにもベンチャー企業の育成をいかに図ったならばよいか、また産学連携をいかに図るか、さらにはこれからの学校教育に期待されることは何かを最後にまとめています。こうした分析を通して、これからの時代を見据える視点とビジョンをまとめました。

 最近日本の経済にもようやく明るい兆しが見えてき、日本の工業に対しても楽観的見方が広がってきました。しかし現在の我が国の産業界の置かれた状況は、時代の大きな転換点を迎え、もはや従来のような右肩上がりの経済成長や、人口増加を前提とした延長線上で捉えられない状況にあります。一部の企業においては好調であっても、特に地方の中小企業を中心として依然厳しいものがあります。これからの社会と時代の動きを冷静に見据え、明確なビジョンを描いていかないと立ちいかなくなるでしょう。
 一部には反グローバル化の動きも見られます。グローバル化には確かに両刃の剣的要素が強くありますが、もはや時代の流れを止めることは出来ません。私達に今必要なのは経済のグローバル化に対する正確な認識と、時代の先を見据えきちんとした枠組みを持ち、新たな発想と知恵をいかに働かせ、マイナス要素をいかに抑制し、どう時代の流れを自分達の方に引き寄せるかが大切と考えます。本書はそのための私なりの考えの枠組みとビジョンをまとめたものです。

 企業関係者のみならず、地方自治体関係者や、これからの我が国の工業の在り方に関心を持っている多くの方に目を通していただければ幸いです。

初版が売れ切れ重版となり、2013年より紀伊國屋書店等に4年間常設されることになりました。2012年末出版社より電子書籍化のお誘いを受け、2013年3月より電子書籍化されました。


出版社書評(原文のまま)
 最新時点における本格的な日本産業論である。各分野における代表的な参考文献を駆使しながら、(中略)著者自ら考え抜き、内容を練り込みながら、製造業の復活を説いた充実した産業論に仕上がっている。時代の先を見据えて新たな知恵を発揮しようという終始一貫した前向きの姿勢に好感が持てる作品である。
 (中略)また、日本の新しい産業の枠組みを提示する経済論文としても高い評価が得られるだろう。勿論、論文といっても読みやすさに配慮されているのは言うまでもなく、それが本作品の魅力を高めていることは間違いない。
 (中略)著者の製造業に対する応援歌は終始一貫した論調であるが、しっかりとしたデータに裏打ちされて論旨を展開しているので納得しやすい。
 (中略)本作品が、工業により支えられている部分が多い日本経済を基盤から見直しその復活を説き、日本人に勇気を与えてくれる著作であることは間違いない。セル生産方式について解説した「生産方式の見直し」も充実した内容であり、中国論も実に良く整理されていて、類書にはあまり見られない貴重な内容である。(中略)前作同様、日本の産業、経済活性化に寄与する1冊として、広く世に問われることが期待される。

出版社HP紹介文
  大きなうねりに直面する日本の工業界──
  経済のグローバル化時代に、必読の指南書!

 押し寄せる経済グローバル化の波、急速に台頭してきた中国、少子化に伴う人口の減少、そして長引く不況の影……。日本を取り巻く環境は非常に厳しく、多くの人が先行きに不安を感じている。そんな中、『工業教育再興』の著書を持ち、工業教育の現場に立つ著者が、新たな日本の工業の在り方を独自の視点から提示する。「一国の経済は、人々が悲観的になればなるほど停滞してしまう!」。力強いメッセージと沈着な現状分析による、ポジティブな産業論!


目 次

はじめに

第1章 グローバル化の進展と日本の動向
 1 対外直接投資
    日本の直接投資
 2 対内直接投資
    外資との提携例
 3 グローバル化と国際資金
 4 日本の人口減少と人の流入
    日本の人口減少化
    外国人労働者の受け入れをどう考えるか
    生産年齢人口減少化社会の対策
 5 グローバル化と製造業における国際的分業
 6 自由貿易協定(FTA)
 7 グローバル化と国家
 8 空洞化する日本の産業とポスト工業化社会
 9 サービス業の中身
    期待される第三次産業分野

第2章 中国の台頭
 1 中国経済の現状
    中国経済の特徴
    地域間格差
 2 代表的産業集積地の特徴
    珠江デルタ
    長江デルタ
    北京中関村
 3 中国の電機産業
 4 中国の自動車産業
    自動車普及に伴う問題
    中国の自動車産業の実力と今後
    中国の自動車部品
    日本の自動車メーカーの今後
 5 中国の機械産業
    金型メーカー
    工作機械
    その他の機械産業
 6 中国の鉄鋼産業
 7 中国の石油化学産業
 8 中国産業の特徴と日本の対応
    現場での技術の積み重ねが出来にくい中国
    外資に支えられる中国の工業
    中国への技術提供の問題
    日本企業の中国進出の是非
 9 中国社会の抱える問題点
    増大する財政赤字
    失業問題
    農業問題
    人口問題と高齢化
    中国の政治体制と今後

第3章 新しい時代の我が国の製造業の在り方
 1 時代の転換と企業の転換
 2 日本企業の強み
    日本企業が高い競争力を持つ分野
    日本が持つ真の強さ
    体質改善が進む日本企業
 3 知恵が試される日本企業
    アイデア・発想力
    独創性と独自性
    特許取得
    デザイン
    使いやすさ
    ブランド
    技術ノウハウ
    標準化
    開発スピード
    顧客の要望への柔軟さ
    ソフト
    知恵をいかに売るかに知恵を絞る
 4 国内での生き残り方法の模索
    中国との棲み分け
    高付加価値の製品
    高度な加工技術
    複合技術

第4章 生産方式の見直し
 1 ベルトコンベア方式からセル生産方式へ
 2 一人生産方式(一人屋台)
 3 からくり
 4 モジュール
 5 EMS
 6 つくらないものづくり(ファブレス企業)
 7 BTO
 8 ITの活用
 9 中小企業の対応
    中小企業同士の連携による自立の模索
    「ロダン21」の取り組み
    独自技術で生き残る

第5章 ベンチャー企業と産学連携
 1 ベンチャー企業の創業
    大学における起業
 2 産学連携
    TLOと大学の特許出願
    TLOによる大学と企業の連携への期待
 3 これからの教育に期待されること
    語学力
    創造的人材の育成
    チャレンジ精神の育成
    自分の考えを明確にし交渉力を付ける
    科学技術教育の充実

おわりに

<著者略歴>  1952年、長野県生まれ。1977年東京工業大学大学院社会工学専攻修士課程修了後、中学校の教師をかわきりに教職の道をとる。その後工業高校に移り、工業教育の在り方や日本の工業の在り方等を模索している。現在は長野県岡谷工業高校教諭。


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