讃美歌202番 「奇しきみすがた あお ぎつつ」

 中世最大の神学者トマス・アクイナス(Thomas Aquinas 1227-74)の作と称せられる聖餐の歌である。原作者はイタリアのナポリ付近 で生まれ、5歳の時、カシノ修道院に送られて教育された。7年間の勉強の後、ナポリの大学に入り、そこでドミニコ会の教師の徳風に化せられて、同教団に加 わった。その後パリ及びケルンに遊学し、アルベルトス・マグヌスに師事して、学殖を深め、1252年からパリ大学で、59年からイタリアの教皇庁及び学校 で神学を講じた。68年、再びパリ大学で教えたが、72年、学内の争いを逃れてナポリに帰り、主著「神学大全」Summa theologiae、の完成 を急ぎつつ、静かに神学を講じた。74年、リョン会議に赴く途中、病を得て長逝した。彼は、「天使の如き博士」「学者中の最大の聖者、聖者中の最大の学 者」などと呼ばれ、その「神学大全」はローマ教会の神学の標準として今尚重んじられている。彼は又詩的天分をも恵まれ、数は少ないが優れた礼拝書や祈祷書 の中で重要な地位を占めている。この歌は同じく彼の聖餐の歌である「すくいの君なる」204番ほど一般化してはいないが、中世においては個人的なデヴォー ションのために用いられた。作家年代は明らかでないが、1260年頃と推定される。

 曲名“Adoro te devote 我ら主を崇める”の原旋律は、ローマ・カトリック教会のプレイン・チャントであり、フランスのソーレーム (Solesmes)修道院の聖歌集から採られた。ソーレーム修道院は、19世紀になってからグレゴーリウス聖歌の復興に力を尽くした修道院であり、そこ の聖歌集は権威あるものとされている。この旋律はその歌詞と共に直ちに英国にも渡り、2、3の和声がつけられて普及した。日本基督教団編纂の讃美歌に採録 されたのはBasil Harwood(1859-1949 イギリス)のものである。

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