熊本地震関連写真
 2016年4月の熊本地震からもうすぐ1年である。この間、活断層など地学的な事象に焦点を絞って歩き回った記録をまとめて残しておきたい。 (2017年3月)

益城地域




 
①-1 堂園地区に生じたずれ幅2mの断層線(北西方向を向いて撮影)。
 ネットやマスコミの報道でよく出てきた場所である。
国土地理院の「平成28年熊本地震に関する情報」サイト(http://www.gsi.go.jp/BOUSAI/H27-kumamoto-earthquake-index.html)で、当時の航空写真が見られる。
 断層線の左手は道路を渡り、竹山(辻ヶ峰公園)を越えて上陳集落あたりから木山方面へ向かうものと、下陳から平田集落方面へ向かうものとに分れる。
写真の奥の集落手前には「大蛇伝説の池」があり、大蛇が池を掘ったとされている。地震(沈降)によって池ができたことを「大蛇が掘る」と言い換えて
地震の怖さを後世に伝えようとしたのではなかろうか。 ここの断層線は、この後トレンチ調査がなされ現在は埋め戻されている。



①-2 前掲の地点から右方向に農道を数十メートル進んだ地点。亀裂は農道を越えて北斜面の竹山へと伸びている。



②-1 上陳地区にある採石場跡。
地震で竹や土砂が崩落しているが、この左奥に横ずれの断層面が見える。ここでは軽石を掘り出していたとのこと。斜面は人工的な壁面である。

②-2 写真の右の亀裂が今回の地震で生じた右横ずれ断層。②-3 断層面を北側から見る。ずれ幅は70cmあるらしい。

山口大学の「平成28 年熊本地震における地震断層露頭調査」報告(http://www.sci.yamaguchi-u.ac.jp/sci/info/news/2016/images/20160426.pdf)で詳しく解説されている。、
 断層を境に右側は凝灰角礫岩で、左側はその崩積土であり右側とは異なるため、上下に10m以上ずれているのではないか(過去に何度もずれたのではないか)と説明されている。
この横ずれ断層の左側(②-2写真の左側1/3付近)に、少しくねってはいるがもう1本断層面がある(現地で見ると断層面にピンが打ってある)。
現地で見ると、この断層の左右の土質は上部では異なっているものの、左側の下部は右側と同質のように見えるのだが・・・?

 
③-1 下陳付近を走る断層面。この部分では左ずれが生じている。



③-2 同じく下陳地区の断層面。ここでは上下にずれている。


③-3 小谷集落から堂園方面を見る。
 低い山(凝灰岩の崩落が各所に見られる部分)の手前に、木山川(布田川はこの左手で木山川と合流している)は右手に向けて流れている。
この低い山の裏側に堂園はあり、断層線(写真①)はそこを走っている。上陳の断層面(写真②)は写真右の崩落面のある丘の裏側にある。
地図を見てもわかるが、2列並行して窪地となっており活断層ならではの特異な地形といえるだろう。



④-1 寺中地区に掘られたトレンチ(深さは3m)。東北大、京都大学など4大学が調査。
東壁面に断層面がくっきりと表れている。地表に30cmほどの段差が生じているのが今回の地震によるずれ。
その下に続く断層面の右側(南側)の下部には白い層(阿蘇4の火砕流)が見えるが、左側には見えておらず、過去にはどれだけずれているかは分からない。
ただ、穴の底までで1.3mあることからそれ以上であることは確かなことだが・・・

 この断層では北側(左側)が下がり、そこに土砂が堆積して平準化され、また地震で段差がつくことを繰り返しているらしい。
右側の表土は30cm弱と浅く直ぐ下は砂利混じりであるのに対して、左側は礫の少ない粘土層が厚く覆っている。
「このあたり(左側)の田んぼは昔から沼田であった」と近隣で言い伝えられていることと整合性が取れる。


④-2 トレンチ掘削地付近。写真右側に木山川が流れている。写真奥が上陳、堂園方面。






俵山地域





⑤-1 小森牧場から登る林道の崩落場所。
写真の奥の方に林道の路面が見えており、その手前に段差2mの断層が生じている。手前の林道が崩落したか土砂に埋まっているかは不明。



⑤-2 林道の正断層面。手前右に高さ1mのストックを立てて撮影。 断層面は、手前の地面との間でさらに2m弱切れ込んでいる。

 日本活断層学会の「2016年活断層フォトコンテスト」(http://jsaf.info/news/items/docs/20161209123948.pdf)に、この断層の写真が応募され特別賞を受賞している。
その説明によればここは5月に発見されたが、その時点では手前の崩落(⑤-1写真)は生じていない。手前の崩落は地震後の大雨で崩落したらしい。
前述の国土地理院「平成28年熊本地震に関する情報」サイトをみると、5月30日撮影航空写真では崩落は一部分のみだが7月5~24日撮影の画像では大きく崩落している。




⑥-1 俵山小森牧場に走る断層面。この亀裂は延々と1~2kmは続く。


⑥-2 北側(写真では左側)が1m程度下がっている。山の起伏の変化と無関係に延々と一直線に走っており、地すべりではないと分かる。



⑥-3 亀裂は深いところでは2mほどありそうだ。今後崩落が生じないか不安だ。
 この断層(出ノ口断層と呼ばれる活断層の延長に当たる)については、東北大学の地表地震断層調査で紹介(http://irides.tohoku.ac.jp/event/2016kumamotoeq_science_2.html)されている。
この断層の北西側1~2kmにある布田川断層には横ずれが生じ、ここでは縦ずれが生じるという珍しい現象(スリップパーティショニング)のようである。



⑦-1 布田川断層の上に位置する大切畑(おぎりばた)ダムの堰堤。横ずれ断層が生じ、現在も通行止めのまま。



⑦-2 風当地区畑地の崩壊。法面崩落だけでなく亀裂も走っている。



⑧ 俵山「萌の里」上部の崩落現場。




阿蘇地域


⑨-1 市ノ川駅北の農免道路沿いの亀裂(60cm程度か)⑨-2 県道175号西側の亀裂。何本もあり沈降した溝が数十メートル走る。
⑨-3 同じく県道175号線西側。ここにも段差が生じている。⑩ 根子岳天狗岩の南面が大きく崩落。地元から見る山の線が変わってしまった。
⑪-1烏帽子岳東斜面。ほぼ全面で斜面の崩落が生じている。⑪-2杵島岳北面。崩落後にさらに雨での浸食が進んでいる。




宇城地域
          


⑫白旗地区の山出トレンチ(深さ4m)。産総研(産業技術総合研究所)が調査

 後ろの赤ヘルの方の足元から断層面はほぼ垂直に下っている。その左にももう一本短い断層が走っているが写真では見づらい。
壁面下部の断層面での高低差は1m程度だが、右側(東側)が引きずられる形でめり込んでいるため全体としては2m程の落差になりそうだ。
その後、土砂が堆積して平坦化している。ただ、地表近くの層が数十cmずれているが、これが地震による段差なのか分からない。
なお、今回の地震では地表に10cm程度の段差ができたそうだ。


この調査結果について、2017年4月12日付けの新聞等で報道された。それによると、
 ・4mの深さの地層は1万5千年前の堆積物であり、この調査ではそれ以降の履歴がみてとれる。
 ・この壁面の解析から、この間(1万5千年)に4,5回大地震が生じている。
 ・この高野ー白旗区間の最新の活動は1600~1200年前であることは既に分かっている。
 ・このことから大地震が3千年前後の間隔で発生したとすれば、この断層での次の大地震は1000年程度先となると考えられる。 
とのこと






⑬小川町南部田のトレンチ(深さは5m) 産総研が調査。

 地下5mの付近には湖底に堆積した泥岩層(写真では黒っぽい部分)が、圧力を受けて折れ曲がるように上下にずれている。3m程の高低差がみてとれる。
その後、左側の低地に土砂が堆積し平坦化してくる。崖の中ほどの高さ(梯子の継ぎ目付近)あたりが縄文時代の地面らしい。
さらに地表から1/4程度のところの黒い層あたりが江戸時代の地面だそうだ。これらの層からは土器片などが採集されており時代が特定できるとのことであった。
 底の泥岩層は1万年(?)ほど前の層であることから、この大きなずれを生じさせた地震は9千~1万年前に起こったと推測されるそうだ。