『現代化学』(東京化学同人)2022年1月号・2月号 基礎講座

Enthalpy/Entropy
(1) エンタルピー/エントロピーって?
  1. はじめに  2022年度から適用される『高等学校学習指導要領(解説)』の『化学』(開始は23年度)では,化学反応熱を扱う際の化学エネルギーとしてエンタルピーが導入され,旧指導要領に書かれていた熱化学方程式はなくなりました。さらに「吸熱反応が自発的に進む要因に定性的に触れる際には,エントロピーが増大する方向に反応が進行することに触れる」とあり,これに関して『理数化学』ではギブズエネルギーにも言及しています。
  反応熱の計算のレベルは従来の熱化学方程式と変わりませんが,大学教育との間のギャップも埋まり,理にかなった改革と言えます。これを学ぶことになる高校生たちには,自分たちから新たに導入された概念という認識はなく抵抗はないでしょう。とは言うものの教える先生や家庭教師をやる学生さんの方に「なぜ今さら,あのエンタルピーを?」と,戸惑いがあるのではないでしょうか? また,『解説』に書かれているようなエントロピーの生かじりをしてしまうと,エントロピー増大則の正確な意味を見失うおそれも否めません。先ずは熱力学の基本構成を復習してほしいと思います。筆者は物理化学は門外漢とまでは言いませんが,現役時代は物理科目としての熱力学を担当していたので,実用性よりそちらの方に力点を置くことになります。(以下略)



(2) 熱力学第二法則とエントロピー
  1. はじめに  先月号の『エンタルピー/エントロピーって?』のエントロピーの項で「頭の体操」と書いた部分の補足です。頭の体操というのは,決して高度な数学を用いるわけではないが,少々頭を捻らなければならないという意味でした。これから書く部分があの文脈に長々と挟まると,エントロピーにたどり着くまでに疲労困憊し,エントロピーが頭の中で霞んでいきます。これを避けるため割愛しましたが,やはり高校生にエントロピーを教えることになる先生方は,一通り概略を把握しておく方が心強いと思います。
  熱力学の論理体系の再構築を試みた最近の教科書もありますが,サイクルを用いた伝統的方法の方が取っ付きやすいと思うので,その要点をまとめておきます。前号と同様,物理量の変化を表す「 Δ 」の代わりに微小変化を表す微分記号「 d 」を使うことに慣れれば,高校生にも読めるでしょう。(以下略)