出題の意図


『統計物理学』2002年問題(後期木1)2003/1/23 実施

1.体積 2V の容器が半分ずつに仕切られ,一方は真空で,他方に温度 T,圧力 P,分子の質量 m の理想気体が入れられている。仕切壁に面積 A の小穴をあけたあと,両側における圧力は時間的にどのように変化するか?ただし壁の両側とも温度 T は常に一定に保たれているとする。噴出により分子数が減る分だけ圧力も減っていくこと,また,噴出すると逆にもどってくる分子流があることに注意せよ。

 「講義ノート」演習問題3参照。平均自由行路より十分小さい穴の場合、穴の部分に「衝突」した分子が全て穴を通り抜けると考えてよい。衝突数 ν の式(参考資料)に分子数密度 n=N/V=P/kT と速さの平均値の表式(参考資料)を入れれば、ν が圧力 P と温度 T で表される。各容器内の全分子数(N=nV=PV/kT)の時間的変化は,穴から出て行く流れと逆流してくる流れの差し引きで与えられる。
  dP1/dt=-(c/2)(P1-P2)   c=(A/V)(2kT/πm)1/2
  dP2/dt= (c/2)(P1-P2)   P1(0)=P, P2(0)=0
が求まればよい。あとは両式の差をとればx=P1(t)-P2(t)の微分方程式 dx/dt=-cx になり,x(t)=Pe-ct。これと,P1(t)+P2(t)=P(一定)からP1(t),P2(t)が求まる。2回生以上ならこの程度の微分方程式は大丈夫でしょうが,上の連立微分方程式まで正しく導かれておればOK。


2.エネルギー値が 0 と ε0(>0) である2つの状態だけが実現される2準位分子について,以下の問いに答えよ。

(1)温度 T における1分子当たりのエネルギー平均値を求めよ。
(2)低温と高温における比熱を論じ,全温度域における概形を描け。
(3)この分子 N 個からなる系では,可能な状態数は 2N で有限である。状態数 W(E) とエントロピー S(E) の間のボルツマンの関係式から「負温度」について解説せよ。

(1)(2)は,統計力学の問題としては世界中でこれ以上に簡単なものはないギリギリの限界で,初年度の今年限り。「講義ノート」49頁を参照。Z1=1+exp(-βε0), <E>=-∂logZ1/∂β
(3)エネルギー E を与えた時の状態数 W(E) (E=nε0)は,nの2項分布の式であり、エネルギーとともに急激に増加するが、E=Nε0/2 で最大値に達したあと減少関数になることから、dS/dE=1/T (S=k log W) が負になる可能性がある。この場合、2つの準位への分布の逆転(=エネルギーの高い方が多くなる)が生じる。この状態は平衡状態としては実現せず、局所的あるいは過渡的にしか見られない、負温度というのはじつは無限大よりも高いのだ、など。

 「可能な状態数が有限」というのは、今の場合、特に必要な情報ではありませんでした m(_ _)m。「エネルギーが無限大まで可能で、かつ全状態数が有限」 な場合には,積分収束条件から W(∞)→0 でなければならず、今の例と同様に W(E) はどこかで E の減少関数に転じることになり、負温度の可能性が出てきます。


(参考資料)衝突数、速さの平均値、ボイルの法則、など。省略