2003年 12月 25日 (木)        

■ 世界初 鉄球が空中浮上 岩手高校佐々木教諭ら研究チーム

  電気磁気学の根本法則が覆るか―。永久磁石だけを使って、鉄などの磁性体を浮上させるのは不可能だというのが「アーンショウの定理」。1800年代にイギリスのアーンショウが証明して以来、150年以上にわたって研究者の間で信じられてきたこの定理が覆る可能性が出てきた。岩手高校の佐々木修一教諭(岩手大学客員教授)が永久磁石を使って鉄球を中空に停止させる実験に成功し、24日、記者発表した。この実験が行われるのは世界初という。

中空に浮くパチンコ玉。何時間でも停止できるし無接触で移動も可能という
【写真】 中空に浮くパチンコ玉。何時間でも停止できるし無接触で移動も可能という
 佐々木教諭によると、約2年前、同校物理部の生徒が持ち込んだパチンコ玉からヒントを得たという。その後、岩手大学教育学部の八木一正教授、芝浦工業大学の村上雅人教授らとともに研究を重ねてきた。電気磁気学の根本法則が改変される可能性が出てきたことで「電気磁気学をベースにした量子力学・相対性理論にも影響を与えることは必至」と関係者は見ている。

 プラスチックの箱に無数に入れられたパチンコ玉に、永久磁石を近づけると、鉄球は箱の壁面に沿って永久磁石に引き寄せられる。中空に浮かぶのは、箱の壁面に並んだ鉄球のうち、2列目に並ぶパチンコ玉だ。

 記者発表の場に同席した村上教授は「磁性体であるパチンコ玉が球形であるということを重要なポイントと考えた。球形であるということは、接触面が360度あり、面と面ではなく点と点との接触になる。そうなると、接触面は無限にあることになる。すべてを解明できたわけではないが幾つか手段で説明できる」と話した。

 村上教授によると、永久磁石から出ている磁界の影響を受けて、すべてのパチンコ玉が同一の磁性を帯びて弱い磁石になるという。

 「1列目の鉄球は永久磁石に引き寄せられてくっつくが、2列目の鉄球は、S極とS極のように1列目の鉄球と同じ極を持つので1列目の鉄球と反発し合う。しかし、永久磁石の引き寄せる力(磁力)は反発し合う力よりも大きく、2列目の鉄球を引き寄せる。引き寄せられた2列目の鉄球は、同じ磁性を持つ1列目の鉄球と反発し合う。吸引力と反発力。これが鉄球が中空に浮遊する現象の原理ではないかと見ている」と説明した。

 佐々木教諭は「永久磁石を回転させることで、中空に停止した鉄球を動かすことも可能だし、重力に逆らって上向きに鉄球を浮かせることも可能だ」と紹介した。

 同研究グループは鉄球が停止する地点を安定点と名付け、現在も研究を続けている。村上教授は「吸引力と反発力だけでは、鉄球を2つ3つと浮かせた場合の説明として不十分」と話し、「自己組織化論、多体問題、カオス理論などの方向から研究を進めている」と話した。

 同現象の応用で▽新物質の製造▽新薬・医学分野への応用▽コンピュータ分野への応用などが考えられ、可能性は無限大という。例えば鉄球を動かすことのできる現象から、クリーンルームなど汚染を嫌うような場所への非接触搬送装置への応用などが検討されているという。

 「アーンショウの定理の例外は、超伝導体のような反磁性体には適用されないということ。現在は超伝導体の100万分の1の反磁性体であるプラスチックを使って証明に挑戦している。証明できれば、研究者が200年以上挑戦してきた『アーンショウの定理』が覆る」。

 同現象の論文は、来年2月には応用物理学の分野で世界的権威を持つ「Journal of Applied Physics」に掲載予定という。