出題の意図


問題と解答例解説 合格率24.9%  2004/7/22 実施, 2004年(前期)木2 『熱力学』

「サークル勧誘などで黒板を使ったら講義開始までに自分で消しといてほしいよ」という教員の要求が,なんで法人化による管理強化だといって抗議されなければならんのか,とてもじゃないが神や仏の心境にはなれませんや! [ある答案に 「あれは 『書き込み禁止』 に抗議してるんです」 と書かれてあった。試験室に小学生でも紛れ込んでいたんですかね? 『禁止』 と言う簡潔な表現で何が訴えられているのか,そんなことも読み取れないようでは,大学生として前途多難哉! そりゃあね,「授業で黒板使いたけりゃあ教官が消せばいい」という生き方も自由な選択の一つですけど,そんなのが『京大の自由な学風』とまで言われたら,ちょっと気恥ずかしいですね。]

1. 理想気体に限らない一般の系で成り立つ以下の等式を導け。ただし,CPは定圧比熱,κは等温圧縮率,κadは断熱圧縮率,βは熱膨張率である。
(1)  κ-κad = TVβ2/CP
(2) (∂U/∂V)T = T2(∂(P/T)/∂T)V

(1)  κ = -(1/V)(∂V/∂P)T 、 κad = -(1/V)(∂V/∂P)S である。
  体積 V(P,T) を (P,S) の関数 V(P,T(P,S)) とみなすことによって(参考資料の公式)

   (∂V/∂P)S = (∂V/∂P)T + (∂V/∂T)P(∂T/∂P)S (S一定のとき、TもPの関数である)

  ここで (1/V)(∂V/∂T)P = β (βは熱膨張率)、また公式
   (∂T/∂P)S(∂P/∂S)T(∂S/∂T)P = -1   より
   (∂T/∂P)S = -(∂S/∂P)T / (∂S/∂T)P (これも参考資料の公式)
        = (∂V/∂T)P / (∂S/∂T)P  (マクスウェル関係式より)
        = Vβ / (CP/T) (各定数の定義。以下省略。)

(2) dU = TdS-PdV と,F に関するマクスウェル関係式より
  (∂U/∂V)T=T(∂S/∂V)T-P = T(∂P/∂T)V-P = T2(∂/∂T)(P/T)

2. 以下の諸量を,根拠を示して計算せよ。結果だけ書いた解答は全く無効。
(3) 熱容量がともに定数Cで温度がT1,T2の二つの物体を接触させ,全体を断熱壁で囲んで時間を経たときに達する最終温度Tfとエントロピー変化量△S
(4) 1モルの理想気体が,温度2Tの熱源と温度Tの冷却部の間で働くカルノーサイクルを経て元の状態に戻ったときの,エントロピー変化量△Sと熱機関としての熱効率η
(5) 1モルの理想気体が,準静的等エンタルピー変化で圧力が半分になったときの,温度の変化量△T とエントロピーの変化量△S

(3) 熱力学第一法則により C(Tf-T1)+C(Tf-T2)=0,したがって Tf=(T1+T2)/2。また,dS=d'Q/T=CdT/T を積分して,△S = C log(Tf/T1) + C log(Tf/T2) = C log(Tf2/T1T2) =C log[(T1+T2)2/4T1T2] >0
(4) 元の状態に戻れば状態量であるエントロピーも元の値に戻り △S=0。熱効率は (2T-T)/2T=1/2
(5) 理想気体ではエンタルピーは温度だけで決まるから,△T=0。また,dH=0 より,TdS=dH-VdP=-RTdP/P,dS=-R dP/P,積分して △S=R log 2


3. 以下の疑問に対する答えを各100字程度で簡潔に説明せよ。
(6) 異なる種類の気体が断熱的に混合する過程は,半透膜フィルターと透熱シリンダを用いて混合エントロピーを計算したのと逆の過程をたどれば元の分離した状態にもどすことが可能であるにもかかわらず,これを典型的な非可逆過程の例にあげるはなんでだろう?
(7) 「太陽からやってきた熱放射を利用して,地上で太陽の表面温度以上の状態を実現することは不可能である」 というのは,クラウジウスの原理からして正しいように思えるけど?

クラウジウスの原理にしても可逆過程の定義にしても,いずれも 「他に何の変化も残すことなく」 という断りが入っていることに言及してあれば,間違っていることが書かれていない限り,答えは自由。

4. 理想気体に限らず一般の熱力学系で以下のことが言えることを,熱力学の基本原理に照らして,それぞれ各50〜100字程度で簡潔に説明せよ。
(8) 同一の準静サイクルを表す P-V 平面上および T-S 平面上の閉じたループのそれぞれが囲む面積は相等しい。
(9) P-V 平面上に描かれた準静等温過程を表す曲線は閉じたループを描かない。
(10) 同じく準静断熱過程を表す曲線は閉じたループを描かない。

(8) サイクルを一周すれば状態量であるエネルギーは元に戻るから
    0=C dU =C [ TdS-PdV ] =C TdS - C PdV  したがって C TdS = C PdV
(9) このループを右回りに回れば,一つの熱源から熱を受け取り正の仕事をする第二種永久機関が実現する。
(10) このループを右回りに回れば,熱を受けとることなく正の仕事をする第一種永久機関が実現する。

「(8) サイクルだから dU=TdS-PdV=0 ゆえ TdS=PdV」 これはダメです。
「理想気体では,断熱過程は PVγ = 一定,等温過程は PV = 一定,これらの曲線は単調関数ゆえ閉じたループを描くことはない」 という解答は,高校生当時の思考力のままですね。問題設定からして論外。
「平面上の閉曲線なら必ず勾配 dP/dV が正の部分を持ち,圧縮率が負になってしまうから,閉曲線になることはない」 これはかなり頭を使った形跡がうかがえる予想外のしゃれた答えだったが,設問では 「なめらかな閉曲線」 とことわってはいない。