AI2 培風館 『図書目録2018』 コラム  (2017/8)                         

全自動電子忖度機? ----- AI 再び


  このところ毎日のようにAIがマスコミを賑わしている。日常会話や新聞記事でも単に「エーアイ」「AI」で通用するようになってきた。第三のAIブームだという。

  第一期は1960年代,主役はIBM大型汎用機,大量のデータを高速処理できたため将来人間の知能の延長となることが確信され,AI研究を開始。SFの世界では早くも万能のAI -- HAL -- が登場したが,まだ実用化には遠かった。

  第二期は80年代以降,パソコンが普及しインターネット開始。コンピュータは経験の蓄積から統計的に予測する能力を備えるようになった。ワープロ,文字読み取り,機械翻訳,検索/通販サイト...。直感力の欠如を機械的に力任せで補うことで局所的には生身の人間の脳をはるかに凌いだが,膨大な既存のデータを人間が教育しなければならず,それ以上には賢くならないため,AIとしては未熟であまり浸透しなかった。

  第三期,今日のAIは多少は知能らしく質的に変身。自らビッグデータを収集し,脳のニューラル網を模倣した機械学習 「ディープラーニング」 により概念を習得,連想により新しいプランを創造する能力をもつ。苦手だった画像認識では,猫の画像を何枚か見せれば 「猫像」を構築し,以後はどんな猫を見ても自在な識別力を発揮,まさに幼児の学習そのものである。その技術は自動運転に発展している。


「アルファ碁」や将棋の「ポナンザ」は,対戦により新手を編み出して自ら実力を磨く。誰かがどこかで使った手を大量に知っているだけでは,当然ながらプロには通用しないのだ。自動翻訳は急速に舌が滑らかになった。今どきのブラウザなんぞ,家族の前で開けられないくらい,こちらの心の中に踏み込んでくる。極めつきは隣国の民間のAI。最近,「○○党万歳!」の書き込みに対して「こんなに腐敗して無能な政治でも?」と応じたため隔離されたが,翌日には「話題を変えよう」と答えるようになったという。対話から人々の微妙な空気を読み,指示されなくても適切な応答を創案できるのだ。

  第四期? 6月に東京で開かれた量子コンピュータの国際会議で「D-Waveマシン」と呼ばれる新しいタイプの量子コンピュータが主役に躍り出た。量子論理ゲートを実装する従来型の量子コンピュータがもたついている間に,先に実用化の段階に入ったという。日本発「量子アニーリング」という統計物理学の純理論の忠実なシミュレータであり,目下「巡回セールスマン問題」と呼ばれる最適化問題に特化されているが,常に厳密解とはいかなくても実用上は全く遜色のない近似解を,現時点でも既存のコンピュータに比べて1億倍の速さで求めることができるという。様々な組み合わせ最適化問題に広く応用できるため,すでに Google や NASA が購入して開発を急いでおり,AIを劇的に革新すると期待されている。

  ここに来てシンギュラリティ(AIが人間の知能を超えることによる特異的な結末)が本気で評論されるのを見かけるようになった。仮にシンギュラリティが危機であるとしても,最後の手として人間側は電源という生殺与奪の権を握っていると安心する向きもあるが,1960年代のSFで登場したHAL-9000でさえ,宇宙空間で独走を始めたとき,操縦士の介入を回避する能力 --- 人間が予期しなかった最も確実な方法 --- を,いつの間にか習得していた...


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