先物取引体験談(前・後編) | |||
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(前編) ファイナンシャルプランナーでござい、という以上はハイリスクハイリターン金融商品のひとつも実際に持っていなくてはと考えていたある日、当時勤務先であったソニー生命の支社でデスクワークをしていると電話が架かってきました。 例によってMDRTだか何かの名簿で知ったのでしょうが「鯵坂さん始めまして」と来ました。 「私○○と申しますが、この地区を担当しておりまして、先物取引のご紹介をさせて戴きたいと思います。」 「えっ、先物ですかあ。・・・わたしお金なんかありませんよ。」 「そうですか。まあ、一回情報として話だけ聞いて戴いといて・・・・、もしもいつか宝くじが当たった時にでも思い出して下されば、と思うのですが。」 この、宝くじが当たった時にでも、という言い方がなんだか妙におかしくて、同じ営業マンとして不思議な親近感を感じて、後日合うことにしたのでした。 この営業マンは毎日何件の電話をして何回断られているんだろうか、などと思いながら、、、。 さて、数日後に会って話を聞きました。先物商品取引はどんな仕組みなのか、経済システム上どんな機能があるのか、メリットとデメリットは、、、等々サインペンでレポート用紙にグラフや表や図形を描きながら説明してくれます。 「では、いつか機会がありましたら宜しくお願いします。」 「はい、勉強になりました」 で別れました。 「なかなかユニークでまじめそうな営業マンだったよ」などと同僚と話をしたくらいで、すぐにそのことは忘れていましたが、数日後また彼から電話が架かってきました。 電話の向こうから彼の事務所のざわざわした騒音や数人の大きな声などが聞こえています。 やたらとざわついているなあと感じながら受話器に耳を押し当てました。 「鯵坂さん実は今、大慌てでお客様方に電話をかけまくっているんです。 今朝の日経新聞をお読みになりましたか。はあ読んでませんか。中国が農産物の不作が続いてまして国内の食糧事情を改善するために、輸出量を抑制する動きに出ました。 そのために、大豆の相場が急変することが確実です。先日お話した先物を実体験して頂く絶好のチャンスです。すぐにご判断いただかないと意味がなくなります。お願いです、すぐに打ち合わせさせてください。」 他の営業マンも同じことであちこちへ電話をしているらしく、受話器を通じて緊張感が伝わってきます。もちろん、日経新聞をすぐに確認しました。 次の日、私は新宿の喫茶店(たしかTOPでした)で彼の熱のこもったクロージングを受けていました。 勿論大きく心は揺れましたが、先に書いたように、FPとしての勉強になると思っていましたので、彼が常に最新情報を提供する、有利に展開するためアドバイスを責任を以って行うことを確認した上で、ちょっとだけやってみようと考えました。 最低の単位が70万円だというので、翌日に70万円貯金をおろして、先物取引会社へ振り込んだところから、私の初めての投資体験が始まりました。(本当は”投機”でしたが・・) この一連の話の展開が実はこの業界で常套的に使われているセールストーク、新規契約獲得手法の一つとしてこの業界共通のものであるらしいことを知ったのは数ヶ月後のことでした。 全く同じような話を同僚から聞かされたことがその後に3回ほどあったからです。 ■気軽に話のねたとして聞くだけでよいという安心感を与える。 ■気さくな人の良さそうな、誠実な人柄を感じさせる(朴訥とした感じの)営業マンが来る。 ■簡単に儲かる話ではなくリスクもあり情報の収集力と判断力が必要という理論的な説明。 ■後日、突然に電話がかかり、滅多に到来することのないチャンスが今偶然に訪れたので、やってみるなら絶好のチャンスという。 ■そしてその声の後ろから、みんなが多くの人にこの話をしている状況を想像させられる。 この話を聞いているのは俺だけじゃないと感じさせる。 ■客観的な事実、例えば新聞記事となっている最新の情報を提示する。 ■未経験者の素人でも、プロのアドバイスで何とかなると強調する。 契約しないまでも、寸前まで行ったという仲間から話を聞くと、私と殆ど同じような状況であったことを知って、なあるほどと関心した次第です。 (続く) (後編) さて、70万円を無事期日に振り込んで、いやあ千載一遇のチャンスに間に合って良かったですね。 と言われて、うん良かったのかなと思いました。 数日後に、かの営業マン氏から電話があり、私の上司がご挨拶しますとのこと、Hという課長が出てきて、私が今後ご面倒を見ます、と言う。 あの営業マン氏が全てフォローしてくれるのではないのですか。ええ私が担当いたします。 どうもあの営業マン氏は新規獲得専業だったようです。ひょっとしたら完全歩合給なのかもしれません。 H課長とは一度会ってお話しましょうと約束したものの、なかなかタイミングが合わず、実は一連の騒動の最後の段階まで電話だけでの付き合いとなりました。 また数日後、今度は同じ会社の違う部署の人から電話がありました。営業部隊とは別組織で、もしも取引上のトラブルや疑問、苦情等がありましたら私にご連絡くださいということでした。 営業が業績重視で先走りしたり誤解によってトラブルが起きないように、専門のセクションが存在するようです。ちょっと感心しました。 細かい話は省略します。(派生金融商品の仕組みを分かり易く説明するのは金融と不動産が不得意のFPである私には至難の業です)←(この頃の私は本当にFPなんて名乗って良かったのだろうか、というくらいのレベルだったのです。 ドウモスミマセン。) 先物で買いから入った場合にはその対象商品の相場価格が上がっていれば、さていつごろ決済して利益を出そうかななどとのんびりしていられますが、その逆に動いたときが大変です。 大きく下がった時は一部を処分して現金化してその資金で売りを作るとか、別途資金を用意して対処するとか、不足分を入金する(追証)とか色々な事を考えて、決断して、場合によってはお金を追加しなければなりません。 電話をしてくるH課長はこれが商売ですから、一日中この事に掛かりっきりですが私のほうは自分の仕事があります。これからお客様と大事な商談で会う直前などに、緊急の連絡が携帯に架かってくるのです。 為替相場や商品相場のトレンドをよみ、その影響を予想し売りを増やしたり買いを増やしたりバランスをとったりお金を振り込んだり、どこから資金を持ってこようかと悩んだりということを仕事の合間にやるのです。 プロであるH課長にアドバイスを求め、ではそうしましょうと決断した結果が次の週明けにまったく裏目に出ていたりするのです。 そんなこんなで、約2年くらいこのH課長との電話だけの付き合いが続き、70万円で始めたこの取引の投資総額は結局150万円ほどとなり、最終的に戻ってきたのは5万円ほどという惨憺たる結果で私の先物実践講習は終了しました。 FPとして先物を経験してみるというこのお勉強は145万円の授業料だったのです。 この道の専門家がどう言うかは知りませんが、わたしはデリバティブというのは経済市場での賭け事であるとしか思えません。少なくとも金融市場動向や世界経済トレンドの情報に精通していて論理的思考と感覚的読みの能力が同居しているような人間ではない、一般人にとっては、ギャンブルでしかないといえるでしょう。 約2年間で実は、あの時に、H課長のもう少しやりましょうというアドバイスを振り切って決済してしまっていれば、100万円が200万円以上になっていたという局面が確か2回ほどありました。 でも結局、「ここで止めます」と言えなかった訳です。 本当に勉強になりました。 H課長はその後、会社が変わりましたといって電話をかけてきましたが、なんと、その電話は別の先物取引会社に移ってまたもや私を勧誘する電話でした。 この世界、一度やると止められないものなんでしょうか。それとも他では通用しないのか・・・? みなさん、明確なことはただひとつ、世の中「自己責任」なのであります。 あ〜あ。 先物取引についてもっと詳しく知りたい人は こちらへ →「電話の向こうの知らない世界」へジャンプ このサイト、すごいです。 では皆さんお気をつけて。
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