作:小林レントさん
キキの語法を盗んで(屈折した愛情表現とのこと・笑)、書いてくれました。
きゃー、恥ずかしい。
小林レント「いがいが」ミッドナイトプレスから好評発売中です。


『樹気』


だれもいないとわかっているから
電柱にすがりつくの
だ、と断言できない夜
だれも来ないとわかっているから
ざらつく円柱の表面に
頬ずりしながら降りてゆく
しがみついたままの
メニエール
赤児のかたちにまるまるわたしが
まるまるままにみずからの
耳のおくにある渦潮へ
呪を棄てる

だれもいないのなら、ほら
脳天をてらす蛍光灯みたいに
自明です
きみはいない

ふるえるのだから、脇目もふれず
わずかでもあるたしかを探して
柄杓のさきからいつつめの
北極星を見遣る
またたきなのかまばたきなのか
わからないけれど
そのちいさなひかりを
視野にたずさえる

真昼に来たのはだれだったか
想い出そうとするのとおなじに
眼孔をおさえるように摘んだみけん
まぶたづたいに
こめかみまでおしひろげる
冷たいイキモノの
にほんのゆびの感触は
かんじるわたしの両の目を
たしかに結ぶ底辺として

いま、ここが
どこよりも遠い
ゆりかごの世界だとしても
もういちどきみに逢いにいこう
もしきみが
もっとあたたかな惑星に
発ってしまったあとだとしても

北の果てからのひかりを軸に
風見の鶏のように回る
にとうへんさんかっけい
その両底角だけをひとしく
まもりながら