題詠blog2010(参加記録)
☆自薦 ★自薦! ※注釈
001:春
春眠に染まりゆく頬 公園の子らが手を振る10年先に
002:暇 ☆
夏の音が 暇つぶすため生きているような身体からふいに鳴るから
003:公園 ★
公園でフォークダンスをおどる輪に溶けこみすぎて消えた恋人
004:疑 ☆
濡れるあし逃げるなつ雲をおう風わたしはあなたの容疑者です
005:乗
君を乗せぐるぐるまわるトーマスの魔法をさぐるわたしたちも、夏
006:サイン ※飯田有子『林檎貫通式』より引用有
睡れんの葉をうらがえしてゆく隠されたサインをさがしている夢
007:決 ☆
決めることができないまま手を離し 昼夜を分かつひとすじの雲
008:南北
南北の境界線をゆき海へ ビキニで泳ぐそのようなもの
009:菜 ☆
われわれは野菜をかじる音だけで幸わけることのできる生きもの
010:かけら
雪道をかきわけてゆくとおい日のかけらを拾うこの炎天で
011:青
遠雷に夏の終わりを覚悟する 羽ばたき散らすかわせみの青
012:穏
穏やかな朝の挨拶 夢見がちな声できみは産まれてきたね
013:元気
かわら屋根 手を振るような面持ちで尖った葉から元気降る降る
014:接
人族に接近戦を挑まれて 迷わず急所にぱんちする仔
015:ガール ★※ヘンリー・ダーガー『非現実の王国で』より
三十路過ぎ 地図を持たずに迷い込む ヴィヴィアンガールズの王国に
016:館
小手指に多く住む大館さんの大伯母様の怪談怖い
017:最近 ☆
置いてきたビーチサンダルの片割れ 最近軋みはじめた奥歯
018:京
覚えたてのことばを京にはこんで流してかえる疎水にぜんぶ
019:押
家中の灯りを燈す 日々に押しつぶされぬよう祈りをこめて
020:まぐれ
気まぐれな彼女、のようなベランダの朝顔全部そっぽを向いて
021:狐
朱の鳥居をくぐり抜けてラスボスのような狐に出遭う八月
022:カレンダー
いいときもあった。そうではないときも。カレンダーごと捨ててさよなら
023:魂 ☆
魂は窓べでたゆたうふたつの風鈴はおんなじ音がして
024:相撲
飲みきれば相撲取り現る茶碗が父にもらった唯一のもの
025:環
ひらかれてゆく円環の園いいえとらわれてゆくのボルヘスの罠
026:丸
ソナタ弾くあなたのリズム踏みながら 丸みを帯びてゆくユッカたち
027:そわそわ
眠るひとのまぶたを見る そわそわと明日への準備をしている頃
028:陰
朱の鳥居からちらりとのぞく空 あなたの頬に陰影浮かぶ
029:利用 ※カート・ヴォネガット・ジュニア『タイタンの妖女』より引用有
女は言う『利用してくれてありがとう』わたしの手とてもちいさかった
030:秤
天秤をうまくつかえずいつも台無しにするそう夕立ちさえも
031:SF
茜さす空が百年つづくような気がするそれはSFみたいな
032:苦 ※伊津野重美『紙ピアノ』より引用有
眠るひとの苦しい息、『りるりる』とわたしは歌うことしかできない
033:みかん
そばかすがかわいいよっていいながら荷物にみかん、しのばせる母
034:孫 ★
大公孫樹の下で読んだ手紙 あれ葉っぱか小鳥ってことにする
035:金 ★
逃げてゆくよう金色の葉降る 喪った小鳥を探してしまう
036:正義
正義とかいわなくていい日常を過ごせるための今日であればいい
037:奥
耳の奥底から引き上げる秘密きいきいと啼くのでまた戻す
038:空耳 ☆
わたしたちずっと九月を生きている残照と空耳のルフラン
039:怠
制服のころを怠けすぎたの瞬発力が足りないたりない
040:レンズ
レンズから手をはなしたら割れました 陸(おか)の魚眼はくもるばかりで
041:鉛
鉛筆の落書きがふと惜しくなりコピーをとってしまう金曜
042:学者
昼休み 地質学者の語る白亜紀元年に涎を垂らす
043:剥
冬生まれが似つかわしい剥がれない鱗もつひとと泳いだ海
044:ペット
あのこはペットだけれどもちいさなからだでりんりんと 家族の朝
045:群 ※自作『竜船』より
まもなく死ぬこともあるでしょうが群れをなし船を待つわれわれみな
046:じゃんけん
じゃんけんにわたしはたぶん負けたのでここにいるのではないかとおもう
047:蒸
立ち昇る硝子工場の真白い蒸気が(冬の)、わたしの支えでした
048:来世
来世でもキムチは在るのでしょうか キムチが好きなあなたのために
049:袋
夏祭り 手をはなしたら戻れない一葉の袋小路のように
050:虹
雨の降るまえにわたしは傘をさし、あなたはあとに虹をさがして
051:番号 ☆
醒めてゆく 昨夜つぼみに番号をつけたからもう秘密はないの
052:婆
帰り道 つぃと卒塔婆に打ちあける みよこのひみつ わたしのひみつ
053:ぽかん
どの程度の願いならば叶うのか、ひとびとの拍子、空にぽかん
054:戯
戯れに洗濯をする戯れにご飯をつくるそのような、愛。
055:アメリカ ※W.D.スノッドグラス『心の針』によせて
アメリカ、かの詩人より教わったありふれた特別なあいさつ
056:枯
枯れ立ちぬ木立を抜けて蒼天 ティンホイッスル吹き鳴らす午後
057:台所 ★
台所のゆかに鈴がなりひびく もうすぐよるの雨 やってくる
058:脳
脳梁に降りしきる雪、足跡を消してゆく ある季節の終わりに
059:病
淋しがりすぎるあなたの病 哀しみをわすれたわたしの病
060:漫画
なぐさめに漫画でタワー築きあげ 下から五番目抜く週末
061:奴
奴凧、糸がからんでケンカした ね まだあなたと友だちだねって
062:ネクタイ
クロゼットにくたびれたネクタイずらり右から順に結んでる父
063:仏
懐にちいさな仏様を抱き船で渡った祖母の旅のはて
064:ふたご ※浦歌無子『耳のなかの湖』より
われわれは遠い過去では皆 赤と白のふたごの星であります
065:骨 ☆
喉の骨からアナナスが生えあなたを呼んでいる真夏の夜の夢
066:雛 ☆
手のなかにとじこめておく雛ぎくのもれ香るきみに会う雨の日は
067:匿名
匿名で出逢ってもかたちないものにはなりえない 一陣の風
068:怒
しずかなる怒り海底に根を張る 天辺めざす沫ははかなく
069:島
あやとりを交わす母たちのランゲルハンス島にて揺れるエプロン
070:白衣
理科室の白衣にふれてすこしだけおとなになった気がした7時
071:褪
いつかきみのために振った旗は褪せたいまも振りつづけられていて
072:コップ
透明なコップのなかの王国に押しよせてくるあなたの孤独
073:弁
釣られゆく弁天池の蟹たちと子の歓声と赤の葬列と
074:あとがき
奥付に触れあとがきを浚い甘やかな海はしんしんと更けよ
075:微
顕微鏡ごしに何ものかの生と死その後のかたちを確かめる
076:スーパー ☆
手に取ったシリアル戻す(夜のスーパーよりましな場所があるなら)
077:対 ☆
対になるあわたちをむりやり離すうまくいかない うまくいかないわ
078:指紋
鉛筆できみの指紋をかたどれば海へと向かううつくしき波
079:第
第一夜から放つ紙ひこうきは着地できないどこまでいっても
080:夜
第三夜にして訪れる終焉 規則正しいきみの瞬き
081:シェフ
人とヒト、通じ合えないことばかり。『シェフのおまかせメニュー』食べながら
082:弾
連弾のゆびさきよりもリズム取るキューティクルがよくそろってた
083:孤独
まるまって眠れるひとの中心にしずかに育つ孤独のたまご
084:千
川底の千の小石を選り分ける 思い出はみな砂金に見えて
085:訛 ★
耳たぶの産毛をなでるあのひとのふうわりとしたたんぽぽ訛り
086:水たまり
水たまりをわたるための長靴を持てる子だけがおとなになれる
087:麗 ☆
雪虫を「綺麗」と言ったことだまが季節はずれの雪、連れてくる
088:マニキュア
果物の名前のついたマニキュアを噛まないように噛まないように…
089:泡 ※宮澤賢治『やまなし』より
泡を吐くきょうだい蟹の川底へ梨をなげこみかきみだす役
090:恐怖
つり橋を目を閉じたままゆくように 恐怖したまま明日をわたれ
091:旅
たどりつくための旅、たどりつかないための旅、出てゆくための旅
092:烈
烈日の向日葵えがく指先に這い上がる蟻は染みのように
093:全部
なけなしのやさしさ全部つめこんだ袋をもらう引越の朝
094:底
「君を、埋め戻したりせず底を掘りかえしたままで陽にあてましょう」
095:黒
雷を孕む黒雲 逃げ場なく思わずしゃがむ田んぼのまんなか
096:交差 ☆
妹はぶらんこ乗りになると打ち明ける真夜中の交差点にて
097:換
奪われてゆくだけとおもったことも。換わりになにを盗んでゆこう
098:腕
目薬をさす 近しくもないひとの腕が止まり木に見えるのだから
099:イコール ☆
唐突に≠(ノットイコール)の記号が浮かぶ きみと魚をたべたとき
100:福 ※自作”神様のあしおとを聴くたそがれに十姉妹らは影を追い追い1:08 2011/07/03”より
十姉妹らのさえずりは福音となって導くあかるいほうへ