(パレルモ)明るい方へ


その響きと
余韻しか知らない街で
親しく投げ交わされ
胸にぶつかっては
つぶれて香るトマト
ことこと煮詰めたソースは
ちょっとどころか
すごく甘くて
ふわふわした湯気のなかで
舌がト音記号をなぞる 勝手に

暗やみのなかで
踊るひとの指先に
ひかりが当てられて
たしかに
それほど確かなことはなく
窓べの食卓で
並べられていくグラスと
お皿とフォークと、小さな
スプーンスプーンスプーン

夜の洗濯のために
灯りを落として
風の向きを確かめる
食後のバニラアイスを
買い忘れたことをずっと気にして
どうやって生きていけばいいの。
あの子は言うけれど
わたしはお腹がいっぱいで

すべての踊り子が
同じ踊りを踊っていても
ちょっとだけ太ったために
トゥがぐらつく女の子を
わたしたちはきっと捜してしまう
彼女は野菜の匂いがして
何気ない今日のような晩に
そっと滑り込んで
窓を叩いてくれるだろう

バジルの葉を
一枚ずつちぎり
美しいものと醜いものを選り分け
鼻を寄せて
甘い匂いのするものと疲れやすいものを選り分け
耳を当てて
夢見るものとしなびたものを選り分け
さすっては
温かいものと傷つきやすいものを選り分け
最高の
一枚を土に埋める
残りの葉は全部食べても
踊り子でないわたしたちはお腹をこわさない

そんな風には
分かち合えない眠りが
どの窓にも星を呼び込んですべての
踊り子が
象の子どものように安心できるのなら
わたしはひとり一晩中起きていて
風の匂いを嗅ぎ
温度を感じては窓を開けたり
閉めたりしよう
目覚めたら
一番に太陽に当たるはずのシャツの袖に
一時間おきに触れよう

たしかに
これほど確かなものはなく
寝言を聞いて
ちゃんと聞いて
それは違うよって
ちゃんと訂正もする