「定点」


朝、斑鳩の大地から飛び降りたおとこが
わたしの足元にうずくまっている
衛星からの便りでは
今日は一日
お天気が続きます、とのこと。あなたにも伝えておきます

枝先が、かじかんでくる頃
木々のあいだをつなぐ蜘蛛の糸から
したたり落ちるのは、けたたましいカッコウの声

三番目の模様を分けてあげる
これは甘樫の向こうの尾根からやってくるしののめと、
澄んだ香りからなる朝焼けの祈り

なりたいのはあなた。なりたいのはわたし
翅を震わすように軽い呼気を吐いた
虹、沼から這い上がる虹のような
虫、が眠りに噛みつく、いや、欲しいのは虫の音
喉を締め上げて

初めからあれは、くるくる回って天気を報せにやってくる
初めからあれは、日がな、軒下にぶら下がって文を書き続けている
「返事をしておやり」と
わたしはわたしのおとこに言ってやろう

枕を転がして道を探る
岩にぶつかるたびに大きくなり、
それはいつしか巨大な記憶装置に変化する
無機質さとは無縁の
混沌としたしじまの中に浮かぶ二つの眼が
瞬きをするたびに、わたしは眠りを寸断された

夢とうつつと、言葉の意味を知らないまま
おとこが降ってきてわたしの足元に横たわっている
絡み合うあの虫と虫のように、いつしかおとこの右足の指はねじれている

そして轍の跡を辿るように、右足がおとこをひきずってゆく
あとに残るのは燃え上がった紙の名残
おとこがなんと書き記したのか今になって知りたい
夜、けれど去った
唇にはもはや意味がなく
言葉を失い、土くれのように眠るわたしの頭上を衛星がくるくる回る
言葉を失い、土くれのように眠るわたしの頭上を衛星がくるくる回る