(八月)


ここへおいで。
わたしの幽霊たち。


 ふだん顔を洗うところの洗面台で、洗濯をする。
 どこからか雑じりこんでいた砂が、指先をじりじりさせる。
 貧弱だったわたしの水着が、たっぷりの水と洗剤であわあわになる。


細かった道が、最後にとぎれるところ。
これ以上はもう、帰れなくなるというところまで歩いて、
わたしはそこできみを待った。

しゃがみこめば、空も、雲も、
見渡すかぎりの草花も、いちように八月の薫りだった。
見えるものしか見ないことを、誰かはずるいといってわたしを泣かせた。


 あわあわを落として、ぎうぎうとしぼって、ものほし竿につるす。
 清潔な匂いがただよう。
 かんがえる。
 清潔とはなにか?
 わたしのこの身体よりもうんと小さく見える水着は、旗であるか?
 旗とは、このさい目印といってよいか?


八月はみな、影になればいい。
そしておいで、わたしのところまで。










≪初出:「Miel3号」≫