「メニエールの庭」


子午線をたどる道は
ひかりの庭につづき
すれちがうひとの誰もが
やさしい言葉を話しているようなのに
耳のおくに
焼けつく痛みを覚えるのは
きっとわたしの身体のどこかに
名残があるからで
振りかえり、振りかえり
歩くだけの日をただ抱いているのは
まだ
あなたに差しだすものを
なにも持っていないと思うからだ


塀のむこうがわには
白い道がさらにつづいている
待ちあわせの場所を決めたときには
迷うこともないと思ったが
正しい場所がこの世のどこかにあるとも
信じていなかった
わたしはなにも信じていなかったが
それでよかった
あなたは塀のむこうからではなく
同じ道を通ってくるのがわかった
あの道ですれちがうひとびとが
あなたにやさしくあるようにと思い
それが
偽りであるかどうかも問題ではなかった
届かない声は
庭に埋めてしまえ
土があるなら
花も咲くだろうということ


メニエールの午後は
気まぐれに手をのばす
庭に出ればあなたに会える

風が巻くのは
季節のせいだけではなくて
とまどいを
めまいのせいにしたように
痛みはどこか遠くのできごとで
今日こそは
わたしの感情はわたしの肉体に
捨てられたのだとわかった
すれちがうひとびとの誰かが
近しい笑顔で
あなたに言うだろう
土があるなら
埋めてしまえ
その跡に
咲く花があるかもしれないから