サイダーハウス・ルール
―THE CIDER HOUSE RULES―
お台場
シネマメディアージュ・シアター2(2000.7.9)
(注)ネタバレ多いに有り
映画の感想ではありません。映画を見て思ったことを感じたままに書き連ねています。
時々映画の内容から脱線します。
セント・クラウズの孤児院を訪れ、子どもを産む女性も堕胎を望む女性も、それぞれが自分が生きていくための選択をした女性たち。
この時代、女性が妊娠をし、その子を出産し生きていくことは容易なことではなかったと思う。
宗教に背き、堕胎を望む女性。大きな罪を背負いながらも、新たな人生を歩むための選択。
10ケ月もの間お腹の中で育てて、出産の苦しみを経て、その子を孤児院に置いて、子どもを捨てたという罪を背負いながら生きていく女性。
彼女達にとってひとつの終わりの時であり、一生背負っていく通過点。
二度と会うことがない子を、見せないでくれといいながらも一目だけ見せてと涙する女性。
孤児院を後にしながら、振り向かずに泣きながら去る女性。
手術を終え、今度は必ず産みたいと言うキャンディ(シャーリーズ・セロン)。
当時の社会のルールに反する堕胎という行為も、女性を救うために必要なことと孤児院という子どもを保護する施設とは少しはずれることを正義として信じるラーチ医師(マイケル・ケイン)。
二度も里子に出した先から戻されてきたホーマー(トビー・マグワイア)に特別の運命を感じて息子のように育ててしまうようになったラーチ医師にはホーマーの存在が必要だったのでしょう。でも子どもは大きくなって意思を持つようになると、自分の人生を考え、考えた時になんらかの親の干渉やひかれたレールの存在を感じた時、それが正しかろうと間違っていようと必ず反発するものです。
1943年当時ホーマーは20歳を過ぎたばかり頃(1922年生まれといっていた)、遅すぎたくらいだ。やはり我慢しすぎる傾向があるのか。
子どもたちは孤児院では家族のように暮らしているようでも家族ではない。
彼らが見つけなければならないのはここでの幸福ではない。必ず自分にも家族が出来る。誰かが自分を必要としている、自分を必要としている家族を見つけてそして幸福になるんだと信じることで生きていく子どもたち。
だから孤児院を出て行った子(死んでしまったファジーに対しても)家族を見つけたんだ。よろこんであげましょう。と言う。
だれよりも家族ができることを望んでいるカーリー(スペイサー・ダイアモンド)
ヘイゼルがもらわれて行ったときには、ぼくをほしがる人はだれも
いないと哀しみ(荷物までつめてあったのに)、ホーマーに
君は一番いい子だよと言われ、ウォリー(ポール・ラッド)とキャンディが来た
時に樸は一番なんだと言い、ラーチ医師には樸が一番だと言ってという。
そしてホーマーが出ていく時には、ずるいよ、大きいのにもらわれて・・と
アルコール中毒の母親から生まれたというファジー(エリク・パー・サリヴァン)。
生まれつき心臓に欠陥があるのか気管支炎を患っている彼は、自分は
家族を見つけてここから出ていくことは無いことを知っていたのだと思う。
ラーチ医師はホーマーが新しい世界に飛び出す時にファジーの心臓のレントゲン写真を
もたせた。これはホーマーは心臓が悪いということで兵役を免れているという理由もあるのだろうけど、これはファジーの病状があまりよくないこと、ファジーは外の世界に旅立つことはないだろうことを考えて自分の意思で外の世界に飛び出そうとするホーマーに、引き取り手のなかったホーマーの自分を必要としている人の役にたつための旅立ちにファジーを同行させたのではないかななんて思いました。
実はわたしは、このファジーはもう一人の主役なのではないかなって思っています。
日の光を見ずに焼却炉の灰と消えた命。生まれることが出来た自分たちはそれよりは幸運だったと言う
ホーマーたち、そして孤児院に育ち病気をもった自分を
もらってくれる人はいないとわかっていて、コングのママに対する愛情を信じるファジー。
ファジーを埋葬しながらラーチ医師がバスター(キーラン・カルキン)に子どもたちにファジーのことを聞かれたら「ファジーは養子にもらわれた」言うようにといい、信じるかなと
言うバスターの問いかけに「信じたいからな・・」という。
ここにいる子どもたちの心が伝わってくる言葉でした。
バスター、彼もまた引き取り手がないままに大きくなった、もうひとりのホーマー、彼にもいずれ旅立ちの時がくるのかな。
そしてもう一人、もらいてがないまま大きくなったメアリー・アグネス(パ・ドゥ・ラ・ユエルタ)
彼女のホーマーに対する恋ごころは、ちょっと哀しくほほ笑ましい。
孤児院を出たホーマーは海を見たことがないと言う。それを聞いて
ウォリーは「それは問題だ・・」という(・・・だって・・・天国じゃみんな海の話しを
するんだぜ・・・・失礼、そんなわけはない)。
この人はいい人なのだ。
海を見たことがないというホーマーを海に連れて行ってくれた。
生まれて初めて見た海はホーマーの心にはどんな風に映ったのだろうか。
ホーマーはきっといい奴だけど、この人はきっとそれよりもずっといい人だ。
世の中の暗い部分を知って、あたたかい人に感謝しつつ、いい人のホーマーと
明るい部分で育ち、いい人なウォリー、この二人の対比・・・・この二人が
手に入れたものと、失ったもの。
キャンディがセント・クラウズの孤児院で手術が終わったあと、胎児が男の子だったかと
聞き、そして今度は産みたい・・・と言う。
ウォリーの事故を知り、大きな葛藤が彼女を襲ったのではなかったろうか。
人間って不幸に見舞われると、人を恨んだり、原因とか、因縁とか、何が悪かったのかとかいろいろ考える。彼女は何を考えたのだろうか。
半身不随・・・・当時の医学では、もう子どもは望めなかっただろうな・・・
この映画(原作)のタイトルになっている「サイダーハウス・ルール」このサイダーハウスでおこった数々の出来事、当時の社会や人種差別。これもまたこの映画のもう一本のテーマなのだけど、これを考えると長く長くなって止まらなくなるのでまた今度。
キャンディと行った海で見つけたガラスの破片。
波に洗われ一年かけて丸くなったガラスの破片。
カーリーに海からの贈り物だよと言って渡したガラスの破片が
ホーマーの心の旅をあらわしているように感じました。
わたしは、小学校、中学校と養護施設の子どもたちと同じ学校に通いました。
養護施設には親しい友人もいました。
養護施設は、事情があって親と一緒に暮らすことの出来ない子たちがいるところです。
この映画に出てきた孤児院とは違う世界ですが、身近に接していろいろなことを考えさせられることが多かったです。
CAST
Homer Wells(ホーマー・ウェルズ) .....Tobey Maguire(トビー・マグワイア)
Candy Kendall(キャンディ・ケンドール) .....Charlize Theron(シャーリーズ・セロン)
Mr. Rose(ミスター・ローズ) .....Delroy Lindo(デルロイ・リンド)
Wally Worthington(ウォリー・ワージントン) .....Paul Rudd(ポール・ラッド)
Dr. Wilbur Larch(ラーチ医師) .....Michael Caine(マイケル・ケイン)
Nurse Edna(看護婦エドナ) .....Jane Alexander(ジェーン・アレキサンダー)
Nurse Angela(看護婦アンジェラ) .....Kathy Baker(キャシー・ベイカー)
Rose Rose(ローズ・ローズ) .....Erykah Badu(エリカ・バドゥ)
Buster(バスター) .....Kieran Culkin(キーラン・カルキン)
Olive Worthington(オリーヴ・ヴァージントン) .....Kate Nelligan(ケイト・ネリガン)
Peaches(ピーチズ) .....Heavy D(ヘヴィ・D)
Muddy(マディ) .....K. Todd Freeman(K・トッド・フリーマン)
Mary Agnes(メアリ・アグネス) .....Paz De La Huerta(パ・ドゥ・ラ・ユエルタ)
Ray Kendall(レイ・ケンドール) .....J. K. Simmons(J・K・シモンズ)
Jack(ジャック) .....Evan Dexter Parke(イヴァン・デクスター・パーク)
Vernon(ヴァーノン) .....Jimmy Flynn(ジミー・フリン)
Hero(ヒーロー) .....Lonnie R. Farmer(ロニー・R・ファーマー)
Fuzzy(ファジー) .....Erik Per Sullivan(エリク・パー・サリヴァン)
Curly(カーリー) .....Spencer Diamond(スペンサー・ダイアモンド)
Copperfield(カパー・フィールド) .....Sean Andrew(ショーン・アンドリュー)
Steerforth(スティア・フォース) .....John Albano(ジョン・アルバノ)
Hazel(ヘイゼル) .....Sky McColer-Barthusiak(スカイ・マッコール・バータシアク)
Clara(クララ) .....Clare Daly(クレア・ダリー)
Major Winslow(ウィンズロー少佐) .....Colin Ibving(コリン・アーヴィング)
STAFF
監督 .....Lasse Hallstrom(ラッセ・ハルストレム)
原作・脚色 .....John Irving(ジョン・アーヴィング)
2000年第72回アカデミー賞助演男優賞(マイケル・ケイン)
脚色賞(ジョン・アーヴィング)
2000年第69回ナショナル・ボード・オブ・レビュー脚本賞
1999年第56回ヴェネチア国際映画祭コンペティション正式出品
提供:アスミック・エース・エンタテインメント/テレビ東京/角川書店/
配給:アスミック・エース